国内エネルギー企業と欧州スタートアップが話す、協業への期待と課題【Japan Energy Challenge 2019報告会】
電力・ガス比較サイト「エネチェンジ」を運営するENECHANGEは2019年10月30日、東京都千代田区の本社でJapan Energy Challenge 2019(JEC2019)の報告会を開催しました。
JEC2019は8月にENECHANGEと東京ガスがイギリス・ロンドンで開いたイベント。日本のエネルギー関連企業9社、欧州や豪州から選抜された19社のスタートアップ企業が参加し、1週間の開催期間でスタートアップ各社のプレゼンテーションやスポンサー企業と1対1のミーティングを通して協業の可能性を検討しました。
最終日にはスポンサー企業が優秀なスタートアップ企業4社を選出、選ばれたスタートアップを報告会にも招待しました。
JEC2019の内容や優秀企業4社の事業についてはこちらの記事からどうぞ
JEC2019の成果報告およびスタートアップ4社による事業紹介【Japan Energy Challenge 2019報告会】
JEC2019にて優秀企業に選ばれて来日したのは、中古EVバッテリーを二次利用して産業向けデマンドレスポンスサービスなどを提供するConnected Energy(イギリス)、EV充電ソリューションを提供するEVBox(オランダ)、有機薄膜太陽電池を開発・製造するHeliatek(ドイツ)、蓄電池などのエネルギーリソースをアグリゲートしてマネジメントするKiWi Power(イギリス)。
報告会ではENECHANGEの代表取締役会長である城口洋平がモデレーターとなり、来日したJEC2019優秀企業である欧州スタートアップの代表者や担当者、国内のスポンサー企業である中部電力やLooopの担当者らが登壇するトークセッションを行いました。
2部に分かれて行われたトークセッションの内容をご紹介します。
欧州スタートアップ企業から見た日本のエネルギー市場
トークセッション1部は欧州スタートアップ4社の代表者や担当者らが登壇し、日本のエネルギー市場の魅力や日本への期待について話しました。
- モデレーター
- ENECHANGE株式会社 代表取締役会長・城口洋平
- スピーカー(敬称略)
- EVBox 新規事業担当部長・Bjorn Utgard
- Heliatek CEO・Guido van Tartwijk
- KiWi Power CCO・Stephan Marty
- Connected Energy CCO・Mark Bailey
短い期間で多くの企業と話すJEC2019、「スピードデーティングみたい」
–JEC2019に参加した感想や参加して感じたメリットは?(城口)
Bailey氏:スポンサーと詳細な話し合いを持つ場が設けられ、製品や技術を売るといった観点だけではなくサービスや事例についても話せました。また、今回日本に来たことで他の企業とも話せる機会ができました。JEC以外でも日本企業が会いたいと言ってくださっていて素晴らしいチャンスです。
van Tartwijk氏:短期間に相性を見るJEC2019は私にとってはスピードデーティングみたいなイベントでした。Heliatekでは世界中のマッピングをしていて、ドイツの小さな町からは日本はちょっと遠いと感じていました。JEC2019はジャンプ台のようになったといえるでしょう。今回の来日でも日本企業と会う予定です。
–JECを通じて協議を重ねてきた日本企業とは取り組みに繋がりそうですか?課題がある場合、課題に対してどのようなアプローチができると思いますか?(城口)
Marty氏:もちろん取り組みにつながればよいと思っています。課題は規制がある、将来どうなるかわからないなどのよくあるものです。エネルギーの市場がこうなるだろうからやってみよう、というのは課題でもあり、チャンスでもあるのは日本でも他の国でも同じことです。
Utgard氏:すでに結果は出てきているのではないでしょうか。我々にとっての課題はEVについて日本市場の準備ができているかですが、それはイエスだと思います。もうひとつの課題は日本が遠いことですが、これは強いパートナーを日本に持つことでアプローチでき、それにより大きな結果が出ると思います。
「スポンサー企業がアイディアを理解、目に見えるプロダクトに」
–JECへの参加前後での印象について。日本市場や日本企業に対する印象を、以前はどのように捉えていて、今はどのように捉えているかを教えてください。(城口)
Utgard氏:感想としては日本の文化が見えないところがありました。しかし、そんなに影がかかって(見えなくなっている)いるわけではありません。イノベーションへのハングリーさが出てきていると感じていて、それはよい変化だと思います。そこが前と変わったところだと思います。
Marty氏:我々にとって市場に売るという点は変わっていません。しかし、規制緩和や次のステップがわかってきました。日本企業も明確な変化がありチャンスをとらえたいのだということを感じました。
–欧州でも、様々な大企業とスタートアップ連携のプログラムがあります。それらと比較して、JECが学ぶべき点があれば教えてください。(城口)
van Tartwijk氏:同じようなイベントはたくさんあります、それらの目的はスタートアップ企業にドアをあけることですが、JECが他と違うのはフォーカスされていること。ドアを開けるだけではなくて中にはいるのが大事です。ドアから一歩先に進むのが成功のカギではないでしょうか。
Bailey氏:van Tartwijk氏が仰るとおり、ドアを開けること、そしてそこから会話を続けることです。スポンサー企業がプロダクトのアイディアを理解して、目に見えるプロダクトの形にしていかなくてはいけません。
Utgard氏:ドアを入ったあとにもペースがあります。ただ一緒にスキップをしながらバズワードのプレゼンテーションをするのではなく、何かを起こせるかですね。
欧州スタートアップ、日本エネルギー市場参入のカギは“強力なパートナー”の存在
スタートアップ4社によるトークセッションの終わりには、会場に集まったメディアや業界関係者による質疑応答が行われました。
van Tartwijk氏:日本のマーケットはとてもユニークです。そのため、2つ考える必要があります。1つはユニークなバリューを提供できるか。そうでないと、参入にお金をかけるだけになってしまいます。もう1つはバリューチェーンの理解。どこの国でも少しずつバリューチェーンが違うためです。この問題にはっきりと答えを持ったローカルなパートナーが必要です。
Bailey氏:ローカルなパートナーは非常に役に立ちますね。
Marty氏:我々にとってもパートナーシップが第一で、正しいパートナーを見つけることがキモです。2つめは規制です。規制が正しい方向に行っているか、市場が開放されているか、その市場でプレーできるのか。そして、パートナーがその市場に準備をする用意があるのか。結局はビジネス・ケースがどうなるかをこの先2〜3年考えて一緒に協力するパートナーがいるかです。
Utgard氏:私が求めているのは電気のガソリンスタンドではない新しいビジネスモデルです。スマートなビジネス分析や事業開発をしてどうやったらユニークなバリューを提供できるか、ツールは提供しますが、ビジネスはローカルなパートナーのリーダーシップのもとに行うことになります。
van Tartwijk氏:先程バリューチェーンと言いましたが、ヨーロッパは大陸で中小企業が多く、多様化しています。日本はグループ企業間の隠れた関係性がとてもたくさんあります。隠れてはいないのかもしれませんが、我々にはわかりませんので、まずは分析をしてパートナーシップを提案する必要があります。
van Tartwijk氏:実務的な障壁というと、日本は他の国と比べて承認の要件が厳しい点があります。ビルにソーラーパネルを設置する際、他の国ではビルオーナーが欲しいと言えば売れますが、日本では電気料金を払っている人が違って時間がかかります。パートナーシップについても時間はかかりますが、構築されると長いパートナーになる点も違います。
対極にあるのはたとえば中東です。1年以内の短期間に儲けたい、そしてうまくいかなければバイバイ、となります。これは難しいというよりは違うという点で、尊重したいと考えています。
Marty氏:障壁は通常のよくある規制や慣例などの問題です。それから、言語ももちろんバリアになりますね。
Bailey氏:今はすべてが新しい展開です。規制も技術も速く進んでいます。ヨーロッパの成熟した市場の経験から自信を持って進めていきたいです。
東京ガス、中部電力、Looopが語る海外スタートアップとの協業
トークセッション2部はJEC2019の共催・スポンサー企業のなかから3社が登壇、JEC2019の感想や海外スタートアップに注目する点や協業に関する課題について意見を交わしました。
- モデレーター
- ENECHANGE株式会社 代表取締役会長・城口洋平
- スピーカー(敬称略)
- 東京ガス株式会社 執行役員デジタルイノベーション戦略部長・門正之
- 株式会社Looop 取締役電力事業本部本部長・小嶋祐輔
- 中部電力株式会社 事業創造本部部長・樋口一成
「日本でのEV車の立ち上がりは予想以上に遅く……」 中部電力、スタートアップと協業への悩み
–トークセッション1で出たスタートアップ側の認識についてどのように感じますか?(城口)
小嶋氏:サーティフィケーション(認証)がハードルとありましたが、協業する側でも感じています。ハードウェアでは認証など時間かかります。日本人は安全を意識するので、それが新しいイノベーションの障害……というとネガティブですが、ハードルになっていると思っています。
樋口氏:まず思ったのはスピードの話ですね。私自身は新しいものを導入する側で、電力会社で関係部門をどう巻き込むかと戦おうとしている部署です。時間がかるのは皆さんが仰るとおりで、課題だと思っています。
もう1つは、パートナーシップ。ヨーロッパの会社を日本に持ってくるときに我々の会社の関係部署やお客様に納得してもらうにはどう組むかが重要だと思っています。そういった意味では(スタートアップと)認識があっているなと思いました。
門氏:2つあります。1つめは単に製品や会社を売り込むだけではなく日本や日本企業の課題を解決しようと臨んでいただいたことについて、(JEC2019の)プログラムを設計した側として嬉しく思っています。
もう1つはバリューチェーンです。私達の会社もそうですが、日本企業はある取り組みをするときになるべくまとめて誰かにお願いしたほうがよいとなりがちです。ここは変えたほうがお客様に価値をお届けできる、社会に貢献できるということをやっていかなくてはいけないことにあらためて気付かされました。
–来日した4社で、自社のヒントになった会社があれば教えてください(城口)
門氏:EVBoxについて。これから需要が高まる電気自動車向けにどうエネルギー供給をしていくか考えているのは当たり前ですが、電気を供給するだけでは差別化できないと考えます。
モビリティ事業とエネルギー事業を組み合わせることによってパートナー企業やお客様に新しい付加価値をお届けできるのではないかと社内メンバーと日々ディスカッションしています。その深いディスカッションをEVBoxさんと一緒にでき、よい経験になりました。自ら日本市場を切り開こうというEVBoxさんのアプローチと、私達がどうお客様に付加価値を増やしていかないといけないのかという点でも相乗効果を生める可能性を感じました。
樋口氏:Heliatekさんは他にはなかなかないソリューションなので、使えるところがないかと社内展開しています。Connected Energyさんは(EVバッテリーを)分解せずに再利用できる点が魅力的です。
日本でのEV車の立ち上がりは予想以上に遅くなり、リユースバッテリーが出てくるのは更に先になると思います。どちらの会社もですが、その間をどう埋めるのかというのが私としても悩みです。
小嶋氏:我々は太陽光と電気の小売、両方やっていることからどうしてもVPP(バーチャルパワープラント:仮想発電所)やデマンドレスポンスが重要です。KiWi Powerさんの法人向けソリューションが参考になりました。
日本では、BtoCにはECHONET Lite(エコーネットライト)という汎用的なプロトコルがあり、様々な機器にアクセスできます。ですが、法人では汎用的にエネルギーマネジメントをするということを広げていくのが難しいという肌感覚です。KiWi Powerさんは汎用的なソリューション、ハードウェアとソフトウェアをお持ちで参考になると思っています。
海外スタートアップと協業への課題 突破できれば大きなマーケットに
–スタートアップと話をする中で見えてきた課題と、どのように克服していきたいかについて教えてください。(城口)
樋口氏:新規参入の会社と我々電力会社が決定的に違うのはお客様を持っているところです。社内にはすでにお客様と関わりのある事業部がいます。どうやって事業部を巻き込んでいくかが悩みですが、突破できれば大きなフィールドになります。
直接(スタートアップから)話を聞くとものすごくインスパイアされます。事前に勉強をしっかりして事業部門を早めに巻き込む、ミーティングに一緒に参加するほうがよりスピードや具体性が上がると感じています。
小嶋氏:我々はゼロからイチを作って、日本のマーケットで事例を作るという役割を担うべきだと思っています。そのためには電力会社や送配電との折衝、制度面における実績がないといったところをほぐしていくパワーが必要です。JEC2019では去年よりも近い距離でディスカッションできるようになり、スタートアップの皆さんからも障壁に一緒に向かう気概を感じました。とはいえ、大変だというのが大きいですね。
日本のマーケットに入っていくのは、樋口さんから話があったように時間がかかります。忍耐をもっていく必要がありますが、入っていければ増えていくマーケットでもあります。
門氏:私が私自身に対しても課題だと感じているのはスピードです。皆さんがものごとを進めていきたいというスピードに私達がついてついていけるのか。大企業にありがちな考え方も含めて、どう克服していくのかが最大の課題です。
樋口さんからも事業部を早期に巻き込むという話がありました。もちろんそれも大事ですが、新しい事業エリアに関しては担当に任せきるのではなく、目指す姿や社会がどうかわるのか私自身が踏み込んで一緒に議論をし、確証をもって臨んでいくのが必要になると感じています。
電力小売では競合でも別分野では協力・共有、社会を変えるウェーブを
トークセッションの最後には報道陣から各社の関係や今後の展開について質問があがりました。
樋口氏:新しい分野ですので、シェア争い、囲い込みをするところではないと思っています。EVBoxさんから「EVガスステーションではなくて新しいビジネスモデルだ」とありましたが、顧客の誘導や他のセット販売、広告ビジネスになるかもしれないという可能性があるのがEVの世界です。電気では争っているかもしれませんが、他のビジネスでは協力する相手かもしれません。
門氏:基本的にスタートアップとのミーティングの内容は全部コンフィデンシャルです。(JEC2019で)同じホテルにいたからといって困るという話はなかったと思います。
強調したいのは1つの会社がテクノロジーやシステム、セキュリティを上から下まで全部やる時代は既に終わったと認識していること。お客様へのビジネスでは競合しているかもしれませんが、プラットフォームは共用してもよいでしょう。それによって社会コストが逓減され、ビジネススピードがあがって、お客様や日本社会が受け取る価値が大きくなれば、私達にとってもよいことになると思います。
小嶋氏:エネルギーを中心に社会を変えようという動きにおいてはいろんな人が一緒に動いた方が大きなウェーブになるだろうと取り組んでいると思います。営業面では多少競合していることもあるかもしれませんが、それとこれは別だと考えています。
小嶋氏:欧米ではグリーンへの意識が強く、ゆえにDRやフレキシビリティに対するサービスが多くあります。ロンドンではV2Gがあり、ヒートポンプが見える化されているという状態が進んでいると思いました。日本ではFIT制度で再エネの導入が進んだのはよかったと思うのですが、FIT制度ゆえというのは言い過ぎかもしれませんが、グリーンや新しいイノベーションがでてくるという意識になっていないと思います。
ブラックアウトなどもありグリーンの重要性が議論されるようになってきているので、その動きのなかでここの取り組みがこれから市場にでてくるという観点で推進していきたいと考えています。
樋口氏:大きく進む原動力になるのは政策と世の中の雰囲気ですね。エコロジーやゼロエミッションをやらないとまずいという世論形成ができてくると加速度的に進むのではないかと思っています。
EV車が典型的ですが、欧米が動くとグローバル企業はそこについていかなくては世界で商売ができません。多少受動的ではありますが、そんな力学が働いて進んでいくのかと個人的には思っています。実証をするのは、そういった流れが急速に進んだときに乗り遅れないように準備をするためです。時代の流れを見て火がつくのを待ちながら、我々の新規事業は進めなければいけません。
JEC2019の成果、「来年中には事業発表できるよう鋭意準備」
Japan Energy Challenge 2019(JEC2019)の報告会の最後に、城口は今回の来日でスタートアップとスポンサー企業ではそれぞれで具体的な話が進んでいることを明かし、「来年中には単発の実証ではない事業発表できるように鋭意準備しています」と今後の見通しを話しました。
3度目の開催となるJEC2020は、2020年秋に日本にて開催される予定です。JECについての詳しい内容は報告会の前半で行われたJEC2019の成果報告やスタートアップ各社の事業説明をぜひ確認してみてください。
JEC2019の内容や優秀企業4社の事業についてはこちらの記事からどうぞ
JEC2019の成果報告およびスタートアップ4社による事業紹介【Japan Energy Challenge 2019報告会】