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天然ガスで地域の活性化を。北海道豊富町がガス事業に参入【エネルギー自由化コラム】

ガス自由化ニュース

北海道豊富町が、自治体としてはガス自由化後初めてとなるガス小売事業に参入しました。多くの自治体が次々にガス事業を手放している中、豊富町があえてガス事業に参入した背景をお伝えします。

2017年4月のガス小売り全面自由化で地方自治体が運営する全国の公営ガスが相次いで民間への事業譲渡に動く中、北海道豊富町はガス小売事業者に登録し、町内にあるセコマグループのヨーグルト工場に天然ガスの供給を始めました。自治体がガス自由化後、ガス小売事業に参入したのは全国で初めて。豊富町はなぜ、販売競争が激しさを増すガス業界に乗り出したのでしょうか。

人口の4倍の乳牛を飼育、特産品は牛乳

豊富町があるのは北海道でも最北の天塩郡。最北の街・稚内市のちょうど南の日本海側に位置します。町の西部に広がるのは、ラムサール条約に登録された湿原サロベツ原野。町の東部はなだらかな丘陵地帯で、酪農が基幹産業になっています。

人口4,000人に対し、乳牛飼育数は4倍の1万6,000頭。人よりも牛の方が多いのが特徴で、年間出荷乳量は7万2,000トンに及び、牛乳産地の北海道でも上位に入ります。乳牛は牧草地で放牧されており、町内のあちこちで目にすることができます。

牛乳は町を代表する特産品です。年間1,000トン以上を生産する酪農家も増えてきました。「豊富牛乳」、「北海道サロベツ牛乳」などの名前で店頭に並び、道民によく知られているほか、本州でも販路が広がっています。

国内最北の温泉郷・豊富温泉も名物

牛以外にももう1つ町を代表する名物があります。町の東部に位置し、国内最北の温泉郷として知られる豊富温泉です。6軒の宿泊施設が営業し、年間25万人前後の宿泊客、日帰り客が訪れています。

豊富町は日本で珍しく地下資源に恵まれた土地で、かつては炭鉱と油田がありました。豊富温泉は大正時代の1925年、石油の試掘中に温泉水が噴出したことをきっかけに生まれています。その際、温泉水といっしょに天然ガスも噴き出したのです。

天然ガスの噴出量は1日当たり約7,000立方メートル。不純物のほとんどないメタン含有率92%の良質な天然ガスで、ホテルや旅館の暖房などに使用されてきましたが、使用量の多い冬場でも1日2,500立方メートルほどしか使われませんでした。そこで、豊富町は未使用の天然ガスを有効利用しようと考えました

豊富温泉天然ガスの歴史

出来事
1925石油の試掘中、温泉とともに天然ガスが噴出
1930豊富温泉に旅館が開業
1932天塩電灯がガス発電所を設置、温泉郷などに供給
1957北海道電力が事業用ガスタービン発電所を開設。1972年まで稼働
1992豊富温泉を国民保養温泉地に指定
2010豊富町などが天然ガスを燃料とするガスコージェネレーションシステムを導入
2017豊富町がガス小売事業者に登録。豊富牛乳公社のヨーグルト工場へ天然ガス供給を開始

出典:環境省「豊富温泉国民保養温泉地計画書」などから筆者作成

セコマのヨーグルト工場に1日600立方メートル供給

豊富町が天然ガスを供給する豊富牛乳公社のヨーグルト工場(セコマ提供)
豊富町が新たに天然ガスの供給を始めたのは、セコマのグループ企業・豊富牛乳公社が11月から本格稼働を始めたヨーグルト工場です。鉄骨建て約1,500平方メートルで、従業員16人。豊富町が上サロベツ地区で整備した工業団地の一角にあり、約16億円かけて建設されました。
豊富牛乳公社のヨーグルト工場で生産されている製品(セコマ提供)
工場は豊富町産の生乳を100%使用したプレーンヨーグルトなど4種類のヨーグルトを年間約900トン生産します。生乳使用量は年間約870トンになる見込みです。

天然ガスは1日約600立方メートルを加熱殺菌などに使用するボイラーの燃料に使います。ヨーグルト工場の本格稼働を受け、セコマはグループ内で原料から一貫生産したプライベートブランドのヨーグルト商品を11月から販売しています。

セコマは「豊富町産生乳と天然ガスという2つの地産地消を実現し、環境に配慮した工場にすることができた」としています。

全国ではガス事業を譲渡する自治体が続出

4月のガス自由化後、ガス事業を民間に譲渡する自治体が相次いでいます。群馬県富岡市は4月、埼玉県のガス業者堀川産業に事業譲渡しました。富岡市は2015年度で市内7,200の一般家庭や事業所へ都市ガスを販売していましたが、現在は堀川産業が都市ガス供給を引き継いでいます。

新潟県柏崎市は北陸ガスと3月、譲渡契約を結びました。柏崎市は2015年度で市内2万8,000の家庭、事業所に都市ガスを販売していました。今後、1年間かけて引き継ぎを進め、2018年4月に民営化します。

公営ガスとしては全国で2番目に大きい滋賀県大津市は2016年、官民共同出資の新会社に都市ガスを含む公共インフラ事業を任せる方針を打ち出しました。福井県福井市は有識者会議の答申を受け、早ければ2020年度にも民営化する方向です。公営ガス最大手の仙台市も一時凍結していた民営化の検討を再開しています。

地域の人口減少も公営ガス事業には逆風

自治体がガス事業を次々に手放しているのは、民間と違って機動的な対応を取りづらいからです。料金の変更には議会の承認が欠かせません。区域外への供給にも制約があります。このため、各自治体は民間企業との激しい競争に大きなハンディを背負い、勝ち抜けないと判断したのです。

地方の人口減少も影響しています。多くの自治体で契約家庭が年を追うごとに減少してきました。経営の悪化を防ぐため、人員削減を進めた結果、技術を持つ職員が高齢化し、将来の技術者不足が心配される自治体もあります。

ガス導管は電線のように全国津々浦々に整備されていません。このため、直ちに民間の参入があると思えない地域では、人口減少で経営が悪化する前に事業を手放そうとする動きが加速しつつあります。豊富町の動きと正反対なのが、公営ガス業界の動向です。

豊富町の天然ガス販売事業、現状は赤字

そんな中、豊富町があえてガス事業に参入した背景には、町が置かれた厳しい状況があります。人口は1970年の8,700人から半分以下になりました。国立社会保障・人口問題研究所は2040年に2,500人まで減少すると予測しています。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合を示す高齢化率も30%を上回り、人口減少と高齢化の進行に苦しんでいるのです。

人口減少を食い止めるすべはなかなか見当たりません。特に北海道北部は国内で最も人口減少が深刻な地域の1つです。こうした苦境を克服するため、周囲を見渡したところ、活用できそうな資源が見つかりました。豊富温泉の天然ガスです。

豊富町はこれまで、豊富温泉の宿泊施設に対し、天然ガスを供給してきました。しかし、現在の販売量では人件費がまかなえず、赤字が続いています。ヨーグルト工場への販売だけでは赤字からの脱却は難しいとみられていますが、これをきっかけに天然ガスの余剰分を積極的に販売しようと考えたわけです。

地域の活性化には次の一手が必要

豊富町がある北海道北部はガスの導管網が整備されておらず、ガス事業への新たな参入業者が当面、出てきそうにありません。しばらくの間はガス販売競争に巻き込まれないことも豊富町の決断を後押ししたとみられます。

しかし、新たな天然ガスの販路を見つけ出さないと、赤字が続くことになります。天然ガスを地域振興や雇用の拡大にどう生かすのかも、考えなくてはなりません。

豊富町商工観光課は「今後も地域の活性化を目指して天然ガスの活用を模索していきたい」としています。豊富町の次の一手に注目が集まりそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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