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加速するグリーン水素の新技術開発、コストの壁を打ち破れるのか【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

水素発電の普及の課題のひとつは発電時のコスト高で、経済産業省は水素の販売価格を今の約3分の1以下にする目標としています。グレー・ブルー・グリーンと3種類ある水素の中で、グリーン水素は製造工程で二酸化炭素を発生させません。2050年カーボンニュートラル目標に向けて、コスト削減対策は必須です。

政府が目指す2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)で、新エネルギーの柱の1つと考えられている水素の新技術開発が加速してきました。最大の課題といえるコストの壁を打ち破るのは簡単でありませんが、日本は水素関連の技術力で世界をリードしています。世界に先駆けた水素社会の実現に向け、官民一体の努力が続いています。

福島県浪江町に水素製造の実証施設

東日本大震災の福島第一原子力発電所事故で今も帰還困難区域を抱える福島県浪江町。海岸近くの高台にある棚塩産業団地に世界の注目が集まっています。東北電力がかつて、浪江・小高原発を計画していた場所で、今は世界最大級の水素製造装置を備える実証施設の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が2020年から稼働しているからです。

施設は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が管理運営しています。低コストでクリーンな水素製造技術を開発するとともに、水素のサプライチェーン構築を実証するのが目的です。

敷地は約20万平方メートル。東京ドーム5つ分に相当する広さです。敷地の約8割には、太陽光パネルが設置されています。太陽光発電で生まれた電力を使って水道水を電気分解し、二酸化炭素を発生させないグリーン水素を作っているのです。製造量は1日あたり約3万立方メートル。一般家庭約150世帯が1カ月に使用する電力を作ることができます。

水素の供給先は福島市のあづま総合運動公園、楢葉町と広野町にまたがるJヴィレッジ、浪江町の道の駅なみえの福島県内3カ所に置かれた燃料電池です。浪江産の水素が3施設のエネルギー源になっています。

浪江町はFH2Rの水素で復興を計画

地元の浪江町は東日本大震災前、約2万1,000人いた居住人口が約1,400人に減少しました。現在も約1万9,000人が町外で避難生活を続けています。復興は進んでいませんが、FH2Rの運転開始を機に水素による新しい街を一から築こうと計画しています。

浪江町産業振興課は「帰還困難区域が一部解除されても、避難住民の多くが戻っていない。しかし、浪江に水素社会が生まれれば町のイメージが一新され、避難住民に故郷が魅力的に映るのではないか」と期待しています。

グリーン水素が将来の水素社会で主役に

水素は3種類に分けられます。1つがグレー水素。石炭や天然ガスなど化石燃料から取り出すもので、大気中に二酸化炭素を放出するため、温暖化の原因になります。もう1つがブルー水素。これも化石燃料から取り出しますが、二酸化炭素を回収、貯蔵することで排出を実質ゼロにします。

最後がグリーン水素です。水を再生可能エネルギーで電気分解して水素を取り出します。製造工程で二酸化炭素が発生しないため、水素社会ではこのグリーン水素が主役を務めると考えられています。

水素関連の技術力は日本が世界のトップ

日本はこれまで、水素関連の技術力で世界のトップを走ってきました。知的情報プラットフォーム事業を展開するアスタミューゼが特許など知的資本の総合的競争力で2010~2019年の国別ランキングをまとめたところ、日本は2位の中国、3位の米国を大きく引き離してトップでした。

同じ時期の企業別ランキングでは、トヨタ自動車が断トツの1位。2位に日産自動車、4位に本田技研工業、7位にパナソニック、12位に住友電気工業、14位に京セラなど、上位20社のうち9社を日本企業が占めています。

日本経済は長引く停滞により、世界経済の中で地位低下が問題になっていますが、水素は再び、日本が輝きを取り戻せる可能性を秘めた産業なのです。アスタミューゼは「日本の特許は少数の企業や組織に集中しており、優れた技術を事業化しやすい環境にある」と分析しています。

水素関連知的資本の総合的競争力国・地域別世界ランキング(2010~2019年)

順位国・地域名知的資本の総合的競争力
1日本9,896,748
2中国4,979,043
3米国3,619,123
4韓国3,609,686
5ドイツ1,539,817
6フランス1,027,030
7英国664,769
8サウジアラビア174,252
9台湾123,991
10デンマーク101,166

出典:アスタミューゼニュースリリースから筆者作成

コスト高が響き、市場を失う心配も

ところが、水素が抱える大きな問題を明るみにさらす出来事が起きました。バス大手の京阪バスが2021年末、京都市内を走る路線バスに4台の電気バスを導入したのです。将来はすべてのバスを電気に切り替えることも検討しています。

バスやトラックなど大型の電気自動車はバッテリーが大型化して長い充電時間が必要になるほか、最大積載量の減少で輸送効率を落とす弱点を持ちます。これに対し、燃料電池車はディーゼル車並みの短時間で水素を補給でき、輸送効率低下の恐れもありません。このため、バスやトラック業界は燃料電池車が主力になると考えられてきました。

しかし、コスト面で格段の差があります。京阪バスが導入した中国製電気バスは1台約1950万円。これを国産の燃料電池バスに置き換えると、1台約1億円かかります。水素の普及を妨げかねない問題がコストなのです。

普及にはコストの7割削減が必要

経済産業省によると、水素による発電は1キロワット時あたり97円と、液化天然ガスの7倍もかかる高コストです。現在の水素販売価格は1ノルマル立方メートルあたり100円程度ですが、経済産業省はこれを30円程度まで引き下げる必要があるとしています。

グリーン水素を製造する再エネのコストも日本は割高です。米ブルームバーグによると、太陽光発電の1メガワット時あたりのコストはインド、中国、豪州で40ドルを下回っているのに対し、日本は100ドルを超えています。風力発電も同様で、日本は再エネコストがもっとも高い国に挙げられています。

雨が多くて日照時間が限られ、欧州のように一定の風が吹かないなど気象条件には恵まれていません。その上、平地が少なくて発電所の建設コストが高くなります。更に、不十分な送電網、高額なマージンなど日本特有の取引慣行がコストを押し上げています。

岡山県総社市に設置された太陽光発電。再生可能エネルギーのコスト削減が水素社会建設の課題に浮上している(筆者撮影)

東京ガスは低コスト製造装置の開発に着手

現状打開には、新技術の開発が欠かせません。政府が2050年のカーボンニュートラルを掲げ、水素を柱の1つに位置づけたのをきっかけに、官民を挙げた研究が加速してきました。

東京ガスは産業用機器メーカーのSCREENホールディングスと共同で低コストのグリーン水素を製造するための装置開発を始めました。水の電解装置は従来、厚い部材を積み重ねて製造していましたが、部材を薄膜にして高速生産することでコストを引き下げようとしているのです。

研究期間は2年。東京ガスは「装置開発で1ノルマル立方メートルあたり30円という政府のコスト目標を達成し、将来は更に低減を目指す」としています。

NEDOは2014年度から水素エネルギーシステムの技術開発やサプライチェーンの構築、水素を燃料とする発電システムの開発に向け、さまざまな助成事業を展開しています。2021年度も事業の公募を終え、近く採択に向けた審査に入ります。

正念場を迎える政府と経済界

水素社会の到来は生産から貯蔵、物流まで幅広い分野で徹底したコスト削減を進めなければ、実現しそうもありません。再エネ電力で水素を作り、その水素で発電するのなら、再エネ電力をそのまま使ったほうが安上がりなのは、誰の目にも明らかです。

2003年に当時のブッシュ米大統領は一般教書演説で世界を水素開発でリードすると宣言しました。これを受け、全米各地で水素ハイウェー構想が生まれましたが、技術開発の難しさやコストが壁になり、いつの間にか米政府の軸足はシェールオイルやシェールガスに移りました。

日本が同じ轍を踏んでしまうと、経済の停滞に更に拍車がかかることになりかねません。世界のトップを走る技術力を生かし、どこまでコストを引き下げられるのか、政府と経済界は正念場を迎えています。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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