【自然電力インタビュー】卒FIT向けに蓄電池制御の検証も 自然電力がVPP実証事業に取り組むワケ
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2019年06月、自然電力はバーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業に参加し、家庭用蓄電池を使用した周波数調整を行うことを発表しました。VPPとは日本語にすると仮想発電所で、その名の通り蓄電池や家庭などの小規模な発電設備、省エネにより使わなかった電力をまとめて発電所のような機能として活用することをいいます。
この実証事業は経済産業省の公募によるもので、幹事社となっている東京電力ホールディングス、日本電気、Goal connect、の3社がアグリゲーションコーディネーターを務めます。自然電力は他の20社とともに需要家のリソース制御を行うリソースアグリゲーターという立場で参加しています。
自然電力では今回のVPP構築実証事業とあわせて卒FIT向けの蓄電池制御の検証も行うといいます。
自然電力が実証事業に参加する背景や卒FIT向けに考えているサービスについて、自然電力でVPP構築実証事業を担当する未来創造室マネージャーの松村宗和さんに話を聞きました。
自然電力とは
自然電力は、太陽光・風力・小水力などの自然エネルギーによる発電事業を行うエネルギー企業で2011年に設立されました。2017年11月より電力小売事業にも参入し、「自然電力のでんき」で自然エネルギー由来の電気を提供。電気料金プランには自然エネルギー由来の環境価値が実質100%の「SE100」と30%の「SE30」があり、いずれも日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格と連動する料金体系をとっています。
同社では会社全体のパーパス(=存在意義)として「青い地球を未来へつなぐ」が設定されているといいます。その実現のため、自然エネルギー100%の世界を目指した取り組みを行っています。大きく分けると2つあり、1つは自然エネルギーへの需要の喚起で、価格を安く提供できるようにすることや認知度の向上です。もう1つは発電所の収益など、自然エネルギーから生まれたお金を使ってさまざまな社会問題を解決することです。
前者では今回のような実証事業への参加のほか、パブリック・アートのプロジェクトや発電所のある地域の農産物使った製品づくりなどを通して自然エネルギーの認知度を向上させる活動をしています。グループ会社の自然電力ファームでは食品ブランド「HALO JAPAN FOOD(ハロージャパンフード)」を立ち上げ、熊本県の地元企業と作った発電所の収益を地域の活性化に使うため、地元醸造家と一緒に熊本で栽培されているリコリス(甘草)を使ったビール「HALO KUMAMOTO BEER」などを作って販売しています。
後者では「自然基金」を設立して生活の厳しい子育て家庭への支援をしたり、自治体にも出資をしてもらった地域新電力を作って地域特有の課題の解決をしようとしています。
自然電力が参加するバーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業
VPP構築実証事業で自然電力は家庭用蓄電池を使った周波数(秒単位)制御を行うといいます。バーチャルパワープラント(VPP)とはどのようなもので、どういった目的で周波数制御を行うのでしょうか。実証事業における目的や役割をくわしく聞きました。
バーチャルパワープラント(VPP)によって生み出す調整力とは
松村:VPPというのは、蓄電池や太陽光発電、あるいは「エコキュート」のような電気給湯器といった分散エネルギーリソース、を集合的に制御……僕は群制御と呼んでいるのですが、それをすることで調整力を生み出す概念です。
電力のシステムは同時同量が必須で、常に需要(使う電気)と供給(作る電気)が同じでなければなりません。需給調整をして瞬時瞬時合わせていく必要があるんです。
この需給のバランシングをするというのは一般の人はあまり意識しないのですが、同時同量が崩れると東京では通常50Hzの電気の周波数や100Vであるはずの電圧がずれてしまいます。同時同量を守るのは周波数や電圧を一定にして電気の品質を守るために必要なことで、それを一瞬ごとに合わせるために必要なのが調整力です。
これまでは、人為的なコントロールが可能な火力や揚水による発電を使って電気の供給側で調整力を補うというのが基本的な流れでした。今は需要家である消費者側にエネルギーリソースがいろいろはいってくる状態になりました。
これからは使う側でも発電するという行為がはいってきます。生産と消費の両方を行うためプロデュースするコンシューマーという意味で「プロシューマー」とも呼ばれますが、そのプロシューマーが中心となって電力システムが組み立てられていくのです。
このプロシューマーが保有する電力は再生可能エネルギーを利用していますので人為的な操作ができるものではありません。太陽の照り具合や風の吹き具合は基本的に調整ができません。そのため、需要を供給に従わせるという考え方にもなってきています。
バーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業における自然電力の役割
松村:周波数と電圧を調整するために分散したエネルギーリソースを調整するVPPのサービスのなかで、私たちは周波数調整の分野、二次調整力の(1)を担当します。
経産省のVPPについての現時点での構想は4段構造の概念になっています。一番上で一般送配電事業者が管理システムで命令を出し、それを受け取るのがアグリゲーションコーディネーターです。アグリゲーションコーディネーターは、その下にぶらさがるリソースアグリゲーターをコーディネートして周波数変動や3時間といった長期の調整力を依頼します。その依頼を受けたリソースアグリゲーターが分散エネルギーリソースをアグリゲートします。
私たちはリソースアグリゲーターとしてアグリゲーションコーディネーターからの依頼を受け、リソースを束ねて群制御するという立場で参加しています。
卒FIT後の自家消費に最適化した蓄電池制御の検証も実施
VPP構築の実証事業と合わせて、自然電力ではFIT買取期間が終了した卒FIT後の住宅用太陽光発電設備の自家消費の最適化といった独自の実証も行うといいます。どのような仕組みなのかを話してもらいました。
お客様の蓄電池を「1粒で2度おいしい」運用に
松村:卒FITの電気は基本的には限界費用ゼロで使えるものなので、そういった方に向けて最適な蓄電池の制御を行う仕組みをつくるのが1つです。
もう1つは電気代について。卒FITなどで発電設備を持っているお客様以外は普通に電気を買っています。例えば、深夜が安かったり、自然電力のでんきであれば市場価格連動している電気代があります。そのプランに合わせて最適な蓄電池の制御をすることで電気代を削減する仕組みをつくります。
今回の取り組みで面白いのは、24時間や48時間単位で太陽が照っているからその分蓄電しようといったり、電気料金プランが安いから買っておいて高いときに蓄電池を放電しようという長周期の話と周波数を調整する極めて短い周期の制御が両立すると考えているところです。
長期的に調整して電気代を下げながら、短い周期の調整力も両立させてお客様の蓄電池を1粒で2度おいしい運用にしたい。そういうところを目指して実証実験をしたいと考えています。
蓄電池の制御やバーチャルパワープラント(VPP)に関するサービス展開の予定は
2019年11月以降、FIT買取期間が終了し始めます。卒FIT後の蓄電池の制御やVPPに関するサービスについて具体的な内容やスタート時期は決まっているのでしょうか。今回の実証事業に参加した背景や今後のサービス展開について聞きました。
自然電力のミッション実現のため、VPP構築で安価な調整力を
松村:なぜ参加したかというと、「自然エネルギー100%の世界を共に創る」のが私たちのミッションだからです。そのためには再エネが導入されやすい社会を作らなくてはなりません。再エネの導入を増やすためにはコストを安くするべきだと考えています。
電力には発電、小売、送配電と3つのファンクションがあります。私たちは発電事業で安い電気を作ったり、小売事業でもリーズナブルに自然エネルギー由来の電気をお届けすることに取り組んできました。残るもう1つが送配電のコストです。再エネが導入されていくなかで、調整力がたりないために出力を抑制する必要がでる場合などがあります。つまり再エネを増やすためには発電と小売だけではだめで、送配電に対しても安価な調整力を生み出していかないといけないという事業的な背景があるのです。
自然電力のでんき利用者に「金銭的なメリット」検討
松村:ビジネス的にどうしようとか将来的にというのは決まっていない話ですが、1つは私たちの小売事業でのお客様にこれから分散電源がはいっていくというのが起こり得ますし、それをすすめていこうと思っています。その小売のお客様の遊休リソースを私たちのシステムで集めて調整力を生み出します。
調整力を作るというのはお金がはいるということなので、お金のままかはまた別の問題ですがVPPで創出した調整力をなにかしらの形で自然電力を利用するお客様にお返しするつもりです。メリットを何かしらの形でお客様にお返しする、そうした形で私たちの電気を使うお客様に金銭的なメリットがでるようなサービスとして提供していきたいと考えています。