仙台市の都市ガス事業、2019年に民営化手続きを再開へ【エネルギー自由化コラム】
この記事の目次
仙台市が2019年度から都市ガス供給事業の民営化に動きだすことになりました。2009年度に延期していた事業継承者の公募を再開するもので、市は早期の民営化を目指して早ければ2019年度中にも公募を始めたい意向です。仙台市は公営ガスで国内最大手。都市ガス小売り自由化後の競争激化で滋賀県大津市や福井県福井市など他の公営ガス大手が相次いで民営化する中、仙台市も後に続くわけです。
公募再開に向け検討、郡市長が市議会で明言
「できるだけ早い時期に民営化を実施することが望ましい。新年度に公募再開に向けた具体的な検討を進める」。郡和子仙台市長は2月の市議会定例会で、鈴木勇治氏(自由民主党)の代表質問に答え、こう答弁しました。
2017年4月のガス自由化で異業種からの都市ガス事業参入が可能になり、首都圏や関西では事業者間の競争が激化しています。郡市長は公募再開の理由として「(セット販売など)新たなサービスの提供も始まっている。(民営化の)周辺環境が整ってきている」と述べました。
さらに、郡市長は地方公営企業法などで禁じられている電力など異業種への参入も念頭に置き、「新たな事業展開を進めることで市民サービスが向上し、地域経済が活性化する」と強調しました。
早ければ検討委員会をゴールデンウイーク明けに設置
市ガス局で民営化に向けた検討を進めてきた事業改革調整室は「市長答弁以上のことは何も決まっていない。本格的な検討は新年度からになる」と今後の方向について明言を避けましたが、関係者の話によると、有識者による検討委員会を立ち上げ、民営化に向けた準備を進める方向のようです。
検討委員会はエネルギーの専門家や大学教員、弁護士らで構成することを想定し、民営化の妥当性や公募条件、実施時期などを詰める予定。公募が始まれば事業継承者の選定委員会に移行し、選定作業を進めるもよう。譲渡収益で市ガス局の借金に当たる企業債を一括返済するスキームは維持する方向とみられます。
市は電気とのセット販売などサービスの多角化に向け、早期の民営化を目指しています。このため、検討委員会を早ければゴールデンウイーク明けに設置することも検討中です。
公営ガスでは販売競争に機動的対応が困難
東北地方は電力、ガスの自由化後も、首都圏や関西ほど販売競争が過熱しているわけではありません。むしろ自由化の恩恵が十分に及ばず、消費者が調達先を選べるメリットが乏しい地域だと指摘されています。
当面、現状のままでも安定した経営を続けられるように見えますが、公営ガスは電力などとのセット販売ができないばかりか、料金の改定などでいちいち議会の承認を得なければなりません。今後、東北地方で販売競争が激しくなったとしても、機動的な対応が難しいわけです。
仙台など寒冷地の公営ガスは冬場に欠かせない熱源を安定供給することで地域の発展に貢献してきました。しかし、市はその役割を終える時期が来たと考えています。
経営状態は2014年度から4年連続の黒字
市ガス局は仙台市のほか、隣接する名取、多賀城、富谷の3市、大和、利府の両町、大衡村の合計7市町村で都市ガスの供給をする国内最大の公営ガス事業者です。戦前の1941年、市が民間の仙台瓦斯を買収し、公営ガスとしてスタートしました。当初は電気水道事業部瓦斯事業所の名称でしたが、1956年の機構改革で現在の市ガス局となっています。
その後、都市ガス製造工場を増設するとともに、マレーシア産のLNG(液化天然ガス)を調達するなどして販売区域を拡大しました。2017年度は34万3,440戸の顧客を抱え、2億8,337万立方メートルの販売実績を上げています。
2017年度の事業収支は341億円の収入に対し、支出が322億円。2014年度から4年連続で収入が支出を上回っています。管理者を除いて315人の職員がおり、地域の雇用確保にも一定の役割を果たしてきました。
出典:仙台市資料から筆者作成
2008年の民営化計画はリーマンショックで頓挫
民営化の検討は1988年、有識者会議で将来の経営形態を検討する中で始まりました。背景にあったのは、LNG導入で多額の投資が必要になることです。有識者会議が「市が適切な時期に経営形態の見直しを再度検討すべき」と答申したのを受け、2005年に当時の藤井黎市長が民営化の方針を打ち出しました。
市は2008年、事業継承者の公募を始め、東京ガス、東北電力、石油資源開発の3社を中核とするグループが唯一名乗りを上げました。しかし、3社のグループはリーマンショックの影響で2009年、辞退することに。市はやむなく公募の中止と民営化の延期に追い込まれたのです。
市は2015年に民営化を検討する事業改革調整室を新設、企業に対し買収の意向を持つかどうかの聞き取り調査を進めました。しかし、ガス自由化の直前とあって、経営環境の変化を見極めたいとする企業が多く、当時の奥山恵美子市長は2016年、民営化を先送りする方針を明らかにしています。
1941年 | 市が民間の仙台瓦斯を買収、公営事業を開始 |
1956年 | 市の機構改革で仙台市ガス局が発足 |
1988年 | 有識者会議で民営化の検討開始 |
2005年 | 当時の藤井黎市長が民営化方針を表明 |
2008年 | 市が事業者を公募、東京ガスなど3社のグループが応募 |
2009年 | 東京ガスなど3社のグループが断念し、市は民営化延期を表明 |
2011年 | 東日本大震災による津波で港工場が被災 |
2015年 | 市が民営化を検討する業務改革調整室を設置 |
2016年 | 当時の奥山恵美子市長が民営化先送りを発表 |
2019年 | 郡和子市長が2019年度から公募再開に向けた準備入りの考えを表明 |
経営基盤の安定も民営化に好条件
市は東京ガスなど3社のグループが買収に名乗りを上げていた2009年度で620億円の企業債累積額を抱えていました。3社のグループによる買収額は600億円以上と見積もられており、民営化で借金を一括返済する目論みを持っていたのです。
その後、2011年の東日本大震災を乗り越え、ガス事業の経営が順調に進んだことから、企業債は400億円ほどまで減少しています。2017年度には8年ぶりに企業債の新規発行を見送りました。経営基盤の安定でこれまで以上に民営化の機が熟しつつあるといえそうです。
ガス自由化から間もなく2年を迎えようとすることもあり、業界の経営環境もそれなりに見えてきました。市の幹部は「事業継承者に名乗りを上げる企業が期待できるのではないか」とみています。
34万の顧客は大津市以上に魅力的な存在
滋賀県大津市のガス事業民営化では、大阪ガスと関西電力が名乗りを上げ、大阪ガスのグループが選ばれました。大津市は市が導管など施設を保有しながら、運営権を民間に引き渡すコンセッション方式を採用、大阪ガスなど3社のグループが株式の75%を取得した運営会社の「びわ湖ブルーエナジー」が4月から運営に当たります。
大津市の公営ガス事業は市内に約9万6,000戸の顧客を持っています。関西一円で電気と都市ガスの販売をめぐり、激しい競争を続ける大阪ガスと関西電力にとって非常に魅力的で、大津市が民営化の方向を示して以来、早い段階から綱引きを続けてきたと伝えられています。
仙台市の公営ガス事業は大津市の4倍近い顧客を抱えています。仙台市は首都圏からガスの導管がつながっていることもあり、民間の都市ガス事業者からすると、大津市以上に魅力的な存在といえるでしょう。
滋賀県大津市のガス事業民営化を例に、自治体の公営ガス経営維持の課題と取り組みについて解説しています。
- 加速するグリーン水素の新技術開発、コストの壁を打ち破れるのか【エネルギー自由化コラム】 - 2022.1.20
- 遅れる水素インフラの整備、水素社会の実現へ大きな壁に【エネルギー自由化コラム】 - 2021.12.24
- 原油高が年の瀬の暮らしを直撃、漁業者や産業界からは悲鳴も【エネルギー自由化コラム】 - 2021.12.15