原油高が年の瀬の暮らしを直撃、漁業者や産業界からは悲鳴も【エネルギー自由化コラム】
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原油価格の高止まりが長期化し、国内のあちこちに打撃を与えています。石油製品を燃料として利用する漁業者や運送業者から悲鳴が聞こえるだけでなく、食材や石油化学製品の相次ぐ値上げが家計を直撃しそうな状況です。コロナ禍が落ち着き、経済活動がやっと動き始めたばかりなのに、私たちの暮らしに不安の影が色濃くなってきました。
燃料費高止まりで肩を落とす漁業者
和歌山県中部の湯浅町と広川町にまたがる湯浅広港。紀伊水道での底引き網漁から戻った漁船が係留され、冬の冷たい風に揺られています。「何もかも値上がりや。儲けにならん」。港を歩くベテラン漁業者(68)の表情はさえません。
底引き網漁は袋状の網を海に入れ、船で引っ張って海底付近の魚介類を一網打尽にする漁法です。網にかかる魚介類はタイやタチウオ、カレイ、ハモ、エビなど多種多様。シラスを狙う船引き網漁とともに、湯浅、広川両町の漁業者の多くが従事しています。
ただ、漁場から漁場へ移動しながら漁をするため、燃料を結構消費します。1回の給油で10万円近くかかることもあり、漁業者にとって燃料費の上昇は痛い出費なのです。
湯浅湾漁協は和歌山県に支援を要請
漁業者の負担が大きくなっているのは、燃料費だけではありません。魚介類を詰める発泡スチロール、ロープなど漁業者が用意しなければならない備品の多くが石油製品です。経費の増加を出荷価格に転嫁できないだけに、原油の高値が続けば漁業経営がますます苦境に追い込まれてしまいます。
過去には燃料費の高騰で漁業者が出漁中止に追い込まれる事態が全国各地で見られました。広川町産業建設課は「今回は出漁を取りやめるところまで行っていないが、漁業者は本当に困っている」と表情を曇らせました。
政府は石油備蓄の放出を決めましたが、大きな効果はまだ出ていません。「今の状況は地元の努力だけでどうにかなるものではない」と、湯浅、広川両町の漁業者で組織する湯浅湾漁協。同漁協は和歌山県に苦境を訴え、支援を要請しています。
運送業者は軽油高で経営が苦境に
石油価格の高止まりに苦しんでいるのは、運送業者も同じです。大型、中型トラックを約40台保有する香川県の業者は1カ月の軽油使用量が3万リットルを超えるといいます。1リットルあたりの価格が10円上がるだけで30万円が吹き飛ぶ計算です。
どれだけ費用がかさんでも、すぐに運送料に転嫁することはできません。この業者は「運転手にはエコドライブを推奨して燃費を抑えるよう指示しているが、ほかに打つ手がない」と頭を抱えていました。
全日本トラック協会は11月末、斉藤鉄夫国土交通相、自民党へ支援を要請しました。香川県トラック協会の藤内和也事務局長は「石油製品の値上がり分は運送業者がかぶっている。国の支援がなければどうしようもない」と訴えています。
暮らしの隅々まで広がる石油製品
原油価格の高止まりが深刻な打撃となっているのは、石油製品を燃料に使う漁業者や運送業者だけでありません。現代文明を石油文明と呼ぶことがありますが、石油製品はその言葉どおりに日々の暮らしの隅々にまで浸透しています。
業界団体の石油化学工業協会によると、石油から生まれる製品はプラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料、合成洗剤、界面活性剤、薬品、肥料など多岐にわたります。こうした素材を利用してテレビやパソコン、自動車、衣類、洗剤などさまざまな製品が作られているのです。
日本で生産されている石油化学製品の63%がプラスチック。合成ゴムが12%、合成繊維が7%で続きます。中でも、プラスチックは自由に形を変えられる上、軽くて丈夫で、腐りにくい特徴を持ちます。しかも、安価で生産できるため、身の回りのありとあらゆる製品に使用されるようになってきました。
原油価格がはね上がれば、これらの製品価格も上昇します。その結果、産業界だけでなく、私たちの暮らしにも少なからぬ影響が出るわけです。
出典:石油化学工業協会資料
イチゴ園は燃料費と石油製品価格上昇でダブルパンチ
観光イチゴ園は燃料代と石油製品価格の上昇が経営に響いてきました。兵庫県西脇市明楽寺町の篠田いちご園はコロナ禍前、年間に4,500人の観光客が訪れる人気スポットでした。コロナ禍が落ち着いてきたのを機に、ばん回を狙っていたところへ原油高が直撃しました。
園ではビニールハウスの暖房に重油を使い、石油製品のパックやフィルムも使用しています。経営者の篠田重一さん(73)=西脇市落方町=は「昨年、観光客が激減したので、パックやフィルムは残っているが、これだけ原油価格が上がると結構なダメージになりそう」と不安そうな口ぶりです。
園を訪れる観光客の多くがリピーター。篠田さんは「このままの状況が続いたなら、事情を説明して利用料の値上げも考えないといけない」と肩を落としていました。
溶剤高騰がクリーニング業者を直撃
クリーニング業者は石油を含む溶剤を使用しています。業界最大手の白洋舎は全国に直営、フランチャイズ合わせて約600の店舗が営業していますが、ドライ溶剤の仕入れ値が上がり、対応に苦慮しています。
クリーニング業界はコロナ禍のリモートワーク増加で背広やワイシャツをクリーニングに出す利用客が減り、大きな痛手を受けました。ようやく新規感染者数が落ち着き、経済活動が動き始めたのに、原油価格の高止まりに解消の兆しが見えません。
白洋舎は「長期的には効率のよい設備導入でコストダウンを図る方向だが、短期的には打つ手がない。利用客の懐事情を考えると、クリーニング料金を簡単に値上げするわけにもいかない」と厳しい口調でした。
年の瀬に製品値上げはラッシュ状態
製品の値上げはラッシュ状態になってきました。食品だとマルハニチロが2022年2月以降、原油高による輸送コストの上昇で、家庭用冷凍食品99品目を値上げすると発表しました。肉巻きポテトなど調理品が2~10%、冷凍野菜など農産品が5~23%の値上げ幅です。紀文食品も2022年2月からちくわなど練り物と惣菜を平均8%値上げします。
クリスマスケーキはイチゴが1パックあたり数十円値上がりした上、海外から輸入する小麦粉やナッツ、油類も輸送費がかさんで価格が上昇したため、例年より高くなりそうです。北海道産のイクラやアラスカ産の数の子が値上がりしており、正月のおせち料理への影響も心配されています。
道路舗装で使用するアスファルトの値上げも続いています。最大手のENEOSは10月に1トンあたり1,000円、11月に6,000円の値上げを実施しました。スイッチ向け部品などに使うシリコーン製品では、積水ポリマテックが12月から10%以上、3Dプリンターに使用されるエポキシ樹脂は、三井化学が12月から今年2度目の値上げに踏み切りました。
こうした値上げはコロナ禍で打撃を受けた日々の暮らしに大きな打撃を与えそうです。岸田内閣にとって発足早々の試練といえそうですが、私たちも賢い消費者になって生活防衛に努めなければならないでしょう。
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