東京電力EPが家庭向け電力小売りを全国展開、価格競争が地方でも加速へ【エネルギー自由化コラム】
この記事の目次
東京電力グループで電気や都市ガスの小売りを手がける東京電力エナジーパートナー(EP)が、北海道と北陸、中国、四国の4エリアで家庭向け電力小売りを始めました。これで既に販売している東北、中部、関西、九州の4エリアと合わせ、沖縄を除く全国で家庭向け電力小売りを展開することになります。地方でも価格競争が加速し、消費者への恩恵が広がるとみられますが、地元の電力大手は東電の本拠地である関東で反撃の構えを見せています。
8月の東北などに続き、北海道など4エリアで電力供給
東電グループは2016年4月の電力小売り全面自由化スタートと同時に中部、関西の2エリアで家庭向けの電力小売りを始めました。さらに、経営再建計画では家庭向け電力小売りの全国展開を目標に掲げています。
これを受け、8月に東北と九州の2エリアで家庭向け電力小売りをスタートさせたのに続き、今回北海道など4エリアに販売を広げたわけです。北海道など4エリアでは島しょ部以外の全域が販売対象区域になりました。
東電EPの子会社として2018年に設立されたピントが既に沖縄を除く全国で電力販売していますが、家庭向け電力小売りの全国展開は電力大手で初めてになります。
割安料金を掲げ、地方で契約拡大を計画
東電EPの電力料金は標準的なプランで地元の電力大手より3%程度安く設定されました。1カ月の電力料金が8,000円の家庭だと、年間で2,700~2,900円安くなります。東電EPは9月末までに関東以外で約6万件の契約を獲得しました。顧客は先行して電力小売りを始めた中部、関西が中心ですが、今後地方でも伸ばそうと考えているのです。
東電EPが全国展開を急ぐ背景には、都市ガス大手の東京ガスや新電力の攻勢により、おひざ元の関東で約2割のシェアを奪われたことがあります。全国展開には、新規の契約を獲得するだけでなく、関東から地方へ転居する顧客と契約を継続できるようにして囲い込み、収益力を高める狙いが込められています。
東電EPは「今後は市場動向や地元のニーズを踏まえ、新たな料金プランの検討などを進めていきたい」としています。
自由化の恩恵、地方への波及に遅れ
大都市圏の関東や関西では電力大手と都市ガス大手の激突に加え、新電力の動きが活発で販売競争が激化しています。有名タレントを起用したテレビCMが継続して流れ、販売促進のイベントも各地で展開されています。
これに対し、世帯数が少ない地方では、都市ガス大手の参入がなく、新電力の動きが鈍い地域が少なくありません。販売促進イベントや値下げ競争も限定的で、関東や関西ほど盛り上がっていないのが実情です。
電力自由化の認知度は次第に高まり、3月に大手広告代理店の電通が発表した全国調査では、94.2%に達しました。しかし、経済産業省によると、電力大手から新電力への切り替えが目立つのは関東と関西で、地方へ自由化の恩恵が十分に広がっていない一面も見えます。
地元の電力大手はサービス面で東電に対抗
東電グループの全国展開は、消費者からすると新たな選択肢が1つ増えたことになります。東電グループが地方で大々的なキャンペーンなどを計画していないこともあって、今回、東電グループが販売を始めた4エリアの電力大手は今のところ、冷静な受け止め方をしていますが、内心は気が気でないのかもしれません。
東電グループが割安料金を掲げて進出してきただけに、4エリアでも今後、価格競争が加速しそうな状況です。この点について、四国電力は「東電EPに見劣ることがないプランを用意している」と受けて立つ構えを示しました。
一方、中国電力は「地元の消費者に選んでもらえるようサービスのさらなる向上に努める」と述べ、サービス面で東電グループを迎え撃つ考えを明らかにしました。長く地元に密着して電力販売を続けてきた実績と営業力を生かし、東電グループに対抗しようというわけです。
北陸など3電力は関東で家庭向け電力を販売
もう1つの対抗手段が関東での電力販売です。北海道電力を除く、北陸、中国、四国の3電力は既に関東で家庭向け電力小売りを始めています。地元出身者や地元企業の関係者らを通じて足掛かりを築いている段階で、契約件数はそれほど多くありませんが、少しずつ契約件数を伸ばしています。
四国電力は営業戦略上の理由で関東での契約件数を公開しない方針ですが、北陸電力の契約件数は9月末現在5,800件で、2017年末に比べて2,200件件伸びました。中国電力は10月1日現在で6,100件です。2017年末が2,800件でしたから倍以上に増えています。北陸電力は「関東での販売が着実に伸び、手ごたえを感じている」と語りました。
北海道電力は関東で企業向けの高圧、特別高圧電力だけを販売し、家庭向けの電力販売に参入していませんが、「現在、関東で家庭向けの電力小売りを始めるかどうか、慎重に検討している段階だ」としています。
電力会社 | 家庭用販売件数 | 集計時点 |
---|---|---|
北海道電力 | なし | - |
北陸電力 | 5,800件 | 9月末 |
中国電力 | 6,100件 | 10月1日 |
四国電力 | 非公表 | - |
地元の人口減少も関東での販売を後押し
地方の電力大手が関東での家庭向け電力小売りに力を入れるのは、東電グループに対抗するためだけではありません。人口増加が続く関東と違い、地元の人口減少が加速しており、新たな市場を模索しているのです。特に今回、東電グループが電力小売りを始めた4エリアは人口減少が著しくなっています。
国立社会保障・人口問題研究所によると、四国は2045年の4県総人口が282万人に落ち込み、2015年の国勢調査の385万人から26.6%減ると予測されています。北海道は2015年の538万人が401万人となり、25.6%の減少になる見込みです。
北陸は2015年の301万人が238万人に減り、20.9%減と推計されています。中国は2015年の744万人が606万人まで少なくなり、18.5%の減少となる見通しです。外敵に市場を侵食されなくても家庭向け電力の契約件数落ち込みは避けられないのです。関東進出はその打開策の意味も持っています。
当面は様子眺めの状況が続くにしても、長期的にみると競争の激化は避けられないでしょう。やがて全国で電力大手同士の激しい顧客獲得競争が繰り広げられそうです。
エリア | 2015年人口 | 2045年予測 |
---|---|---|
北海道 | 538万人 | 401万人 |
北陸(※) | 301万人 | 238万人 |
中国 | 744万人 | 606万人 |
四国 | 385万人 | 282万人 |
- 加速するグリーン水素の新技術開発、コストの壁を打ち破れるのか【エネルギー自由化コラム】 - 2022.1.20
- 遅れる水素インフラの整備、水素社会の実現へ大きな壁に【エネルギー自由化コラム】 - 2021.12.24
- 原油高が年の瀬の暮らしを直撃、漁業者や産業界からは悲鳴も【エネルギー自由化コラム】 - 2021.12.15