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風力拡大へ環境影響評価の要件緩和、有識者検討会での議論が始動【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

カーボンニュートラル実現のために風力発電の大規模導入は重要な役割を持ちます。2050年の国内推定需要電力量のうち約30%を風力発電でまかなう計画となっていますが、環境影響評価に時間がかかりすぎることなどから導入は遅れています。

2008年に操業した和歌山県の大阪ガス広川明神山風力発電所。最近は風力発電の環境影響評価に時間がかかりすぎることが問題になっている(筆者撮影)

経済産業省と環境省は環境影響評価の対象となる風力発電の適正規模を議論する有識者検討会を設置し、オンラインで初会合を開きました。2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)実現に風力発電の拡大が欠かせませんが、環境影響評価が拡大の妨げになっていると指摘する声があるためで、3月末までに複数回の会議を開き、結論を出す予定です。

初会合から事業者団体、環境団体の意見が激突

「環境影響評価に時間がかかりすぎる。欧米並みに緩和してもよいのでないか」「要件緩和は環境影響評価の機能を損なうことになりかねない。緩和は見送るべきだ」。有識者検討会に招かれた事業者団体、環境保護団体、地方自治体が初会合から意見を激突させました。

国の環境影響評価の対象となる風力発電は発電規模1万キロワット以上と規定されています。しかし、2020年12月に開かれた再生可能エネルギー規制制度点検の内閣府会合で河野太郎行政改革担当相から「環境影響評価が風力発電大量導入の妨げになっている」として、2020年度中に要件緩和するよう要望があったのを受け、有識者検討会が開かれました。

委員は早稲田大法学部の大塚直教授を座長に、法政大社会学部の田中充教授、小林理学研究所の山本貢平理事長、西南学院大法学部の勢一智子教授ら9人の学識経験者が集められ、3月末まで検討を重ねることにしています。

日本と諸外国の風力発電規模要件

日本米国ドイツオランダデンマーク
1万kW以上5万kW以上高さ50メートルかつ20基以上
20基以上
高さ80メートル以上または3基以上
出典:環境省資料から筆者作成

日本風力発電協会や自然エネルギー財団は緩和に前向き

初会合では、経産省の田上博道電力安全課長らが会議の趣旨や風力発電の現状について説明したあと、日本風力発電協会、自然エネルギー財団、日本自然保護協会、日本野鳥の会、愛知県、北九州市がそれぞれの立場から意見陳述しました。

日本風力発電協会と自然エネルギー財団は米国並みに発電規模5万キロ以上を対象にするよう求めました。日本風力発電協会は風力発電が伸び悩んでいる一因として環境影響評価の審査期間が長いうえ、審査中に事業者が多額の費用を負担していることを挙げ、「5万キロワット以上を対象に見直すべきだ」と訴えました。

自然エネルギー財団は環境影響評価の規模要件引き上げを求めましたが、環境基礎情報やデータベースの重点的な整備を行政側が進めるなど環境影響評価の充実、地域での公聴会開催や情報公開を備えた簡易手続きを新設するよう提案しました。

日本自然保護協会などは反対し、自治体は懸念を表明

これに対し、日本自然保護協会は風力発電による環境への影響は規模ではなく、立地選定の方が大きいとして、要件見直しに反対しました。環境影響評価の審査期間短縮も「自然環境の十分な調査と評価を困難にする」と述べました。

日本野鳥の会は「オランダや英国など欧州諸国では環境影響評価の実施が風力発電導入の妨げになっていない」と主張し、見直しに否定的な声を上げました。

愛知県や北九州市はそれぞれ、環境影響評価法の基準より厳しい条例を施行していますが、愛知県は「要件緩和で住民とのコミュニケーション不足に陥る恐れがある」、北九州市は「事業の分割による環境影響評価逃れの事例が出るのではないか」と懸念を示しました。

政府は2050年の電力需要の3割を風力でまかなう計画

菅義偉首相は2050年、温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを実現させる方針を打ち出しています。政府はこれを受け、洋上風力発電を2040年に3,000万~4,500万キロワット導入する方針をグリーン成長戦略で示しました。

日本風力発電協会も政府の方針に沿う形の中長期目標を設定しています。それによると、目標数値は2030年で洋上1,000万キロワット、陸上1,800万キロワット、2040年で洋上3,000万~4,500万キロワット、陸上3,500万キロワット、2050年で洋上9,000万キロワット、陸上4,000万キロワットです。

政府、日本風力発電協会ともカーボンニュートラルで大きな役割を果たす再生可能エネルギーのうち、風力発電を主力電源と位置づけているわけで、2050年の国内推定需要電力量の約30%を風力発電でまかなう計画なのです。

伸びない風力発電量、環境影響評価も一因に

しかし、風力発電の導入は遅れています。太陽光発電が東日本大震災後の急速な普及で2020年6月現在、約5,700万キロワットまで伸びているのに対し、風力発電は400万キロワット余りにとどまっています。しかも、日本風力発電協会は500万キロワット以上と推定される多くの計画が足踏み状態に陥っているとしています。

その原因としては、風の強弱で発電量が変動して大手電力の受け入れ量に限界がある系統制約とともに、環境影響評価の審査期間が長く、事業の見通しが不透明な段階で事業者が多額の費用負担を強いられることが挙げられています。

環境影響評価の平均審査期間は4~5年。この間の事業者負担は数億円に上るといわれています。そのうえ、環境影響評価法の施行から審査案件数が年々増加し、2020年9月末までの8年間で延べ350件を超えました。その結果、審査待ちの計画も出るようになってきたのです。

内閣府会合では有識者から「市場参入を促すため、環境影響評価の要件を緩和し、本年度中に新たな基準を示すべきだ」との指摘が出たのに対し、環境省側が「地元の合意が不可欠で、慎重に検討すべき」と反論しました。このやり取りに河野行革相が「このスピード感では所管官庁を変えざるを得ない」といら立つ一幕もありました。

国内の再生可能エネルギー導入状況(2020年6月現在)

出典:経済産業省資料から日本風力発電協会作成

鳥取など全国各地で事業者と住民、自治体が対立

ただ、全国各地で大規模風力発電計画をめぐってトラブルが多発しているのも事実です。鳥取県では日本風力エネルギーが鳥取市の山間部約4,000ヘクタールに28基程度の風力発電機を建設する計画を打ち出したのに対し、地元住民が反対組織を結成し、白紙撤回を求めています。

徳島県では、JAG国際エナジーが県南部の四国山地2カ所に合計約70基の風力発電機建設を計画しているのに対し、飯泉嘉門徳島県知事が「風力発電設置でクマタカやヤマネなどの希少動物に影響が及ぶほか、土砂崩落や土石流誘発のリスクが増大する」として、事業取り止めも含めた抜本的な見直しを求める意見書をまとめました。

三重県では、伊賀、津の両市にまたがる布引山地で中部電力子会社のシーテックが28基の風力発電機設置を計画しているのに対し、鈴木英敬知事は環境保全策の検討や地元の合意形成が不十分として、環境影響を低減できない場合は中止、縮小を求める意見を経産相に提出しています。

難しいかじ取りを強いられる有識者検討会

カーボンニュートラル実現の鍵を握るのが風力発電の大量導入であることは衆目の一致するところです。しかし、今の環境影響評価に問題があったとしても、環境破壊や地元との対立を容認するわけにはいきません。

要件見直しを進めるうえで、どうやって環境影響評価の質を担保するのか、有識者検討会は難しいかじ取りを強いられそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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