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産官学の動きが加速する水素発電、神戸では2月から市街地への電力供給実験【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

水素を燃料にして発電する試験設備が神戸市のポートアイランド内に設置されました。ガスタービンで発電された電気や熱を近隣の病院など4施設に供給する実証実験が2018年2月から開始されます。

川崎重工業と大林組は水素を燃料にして発電する試験設備を神戸市のポートアイランド内に設置しました。ガスタービンで発電し、生まれた電気や熱を近くの国際展示場や病院など4施設に供給するもので、2月から本格的な実証実験に入ります。川崎重工業によると、水素発電による市街地への電力供給は世界で初めて。政府が2017年末に水素発電の商用化目標を2030年ごろとする水素基本戦略を策定しただけに、実験結果に注目が集まりそうです。

川崎重工業などが1メガワット級の試験設備設置

2月から本格的な実証実験に入る水素発電の試験設備。川崎重工業などが神戸市ポートアイランドに設置した(筆者撮影)
試験設備が設置されたのは、移転に伴って稼働を止めたごみ焼却場「旧港島クリーンセンター」。川崎重工業と大林組が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、約20億円かけて建てました。

ガスタービンの出力は1メガワット級で、工場の自家発電に使うガスタービン発電設備をベースに川崎重工業が開発しました。中核設備は長さ6.7メートル、奥行き3.1メートル、高さ4.7メートル。25立方メートルのタンクを備え、満タンだと約6時間発電できます。

水素だけで発電できるほか、天然ガスを混ぜても発電が可能。発電の際に発生する熱もエネルギーとして利用できます。水素は堺市の工場から液化して専用車で運ばれます。

天然ガスとの混焼発電のほか、水素100%の専焼発電にめど

水素は燃焼時に地球温暖化を引き起こす二酸化炭素を出しません。このため、クリーンエネルギーの代表格とされていますが、燃焼スピードが速く、発電機のバーナー噴出口に熱が集中して焼けただれることが課題となっていました。

これが障害となり、世界でも水素98%、天然ガス2%の混焼発電しかまだ実用化されていません。川崎重工業は噴出口に熱が集中しない構造の設備を開発し、水素100%の専焼発電にめどを立てました。

水素専焼で発電しながら、稼働中に天然ガス混焼に切り替えることができるのもこの設備の特徴です。水素発電本格導入のきっかけを開く新施設といえそうです。

電力と熱を近隣の病院など4施設に2月から供給

試験設備は1月下旬から試運転に入り、2月から3月まで電力、熱供給の本格的な実証実験を進めます。供給先は近くにある中央市民病院とポートアイランドスポーツセンター、下水処理場、神戸国際展示場。大林組が大阪大の協力を得て開発したエネルギー最適制御システムで管理します。

工場内で水素発電を利用することは過去にもありましたが、市街地の複数の施設に供給する事例はまだありません。実証実験では試験設備の燃焼の安定性や最適制御システムの運用状況を確認し、環境にやさしく経済性を兼ね備えたシステムの確立を目指します。

設備は実証実験が終わったあとも実用化に向けて活用される方向。川崎重工業は「水素社会を切り開く一歩にしたい」と意気込んでいます。

水素社会実現へ加速する産学の動き

水素社会の実現は、資源小国の日本にとって悲願ともいえる大きな夢です。燃料電池車に水素を供給する水素ステーションの普及の遅れ、化石燃料より割高なコストの低減など多くの課題が横たわっていますが、ここに来て国内で水素社会の実現に向けた産学の動きが加速してきました。

トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業という自動車メーカーと東京ガス、JXTGホールディングス、出光興産、日本政策投資銀行などがスクラムを組み、2018年春に水素ステーションの本格整備を目指す新会社が設立されることになりました。参加企業は11社で、既に設立に向けて契約を結んでいます。

次世代エコカーの潮流は電気自動車に傾きつつあるようにも見えますが、電気自動車用の電力を火力発電で賄ったのでは本末転倒になります。そこで、燃料電池車を推進するトヨタなどが燃料電池車普及のカギを握る水素ステーション整備に動いたわけです。

コスト削減、発電効率向上へ新技術も続々と

発電用燃料としてのコスト削減を目指す動きも活発になってきました。広島大の小島由継教授と昭和電工などは2016年、安価で大量に輸入されているアンモニアから水素を効率よく取り出すことに成功しました。

残存するアンモニアの量は0.1PPM以下という厳しい国際基準がありますが、触媒に貴金属のルテニウムを活用するなどして克服しました。ただ、現時点で供給できる水素は実用レベルの10分の1にとどまります。装置を大型化してアンモニア由来の水素ステーション実現を目指す考えです。

燃えにくい特性を持つアンモニアの発電効率向上では、京都大の江口浩一教授が2017年、三井化学などと共同でアンモニアを燃料とする固形酸化物型燃料電池で1キロワットの発電に成功しました。アンモニア燃料電池では世界最大の発電規模です。アンモニアは水素と窒素でできています。これもまた水素発電の1つの方法です。

政府は2030年ごろの水素発電商用化を目標に

こうした産学の動きを受け、政府は12月末、関係閣僚会議を開き、水素基本戦略を策定しました。

水素基本戦略

 現在2030年将来目標
供給化石燃料由来再生可能エネルギー由来の水素製造技術確立CO2フリー水素
水素量0.02万トン30万トン~1,000万トン+α
コスト~100円/N㎥
(ステーション価格)
30円/N㎥
(3分の1以下に)
20円/N㎥
(5分の1に)
発電技術開発段階商用段階
17円/kWh
ガス火力発電を代替
12円/kWh
水素ステーション100カ所900カ所相当ガソリンスタンドを代替
燃料電池車2,000台80万台ガソリン車を代替
燃料電池バス2台1,200台
燃料電池フォークリフト40台1万台
エネファーム22万台530万台家庭の従来型エネルギーシステムを代替

出典:経済産業省「水素基本戦略」

水素を燃料とする発電を2030年ごろに商用化することが柱で、二酸化炭素の排出量削減とともに、エネルギー自給率の向上につなげる狙いも込めています。

水素の流通量を現在の200トンから2030年で30万トンに引き上げるほか、水素ステーションの数を100カ所から900カ所、燃料電池車を2,000台から80万台に増やすとしています。化石燃料から水素、ガソリン車から燃料電池車への流れを加速させようとしているのです。

さらに、燃料電池バスを2台から1,200台、燃料電池フォークリフトを40台から1万台、エネファームを22万台から530万台に増やす計画。実現すれば水素社会の入り口が見えてくるでしょう。

二酸化炭素を排出しない水素製造技術の確立が急務

水素はさまざまなエネルギー源から製造でき、利用の際に二酸化炭素など温室効果ガスを排出しないため、次世代のクリーンエネルギーとして大きな注目が集まっています。

太陽光発電が曇りや雨の日に発電量が低下するなど、再生可能エネルギーの多くが天候の影響を受けやすいのに対し、水素はマイナス253度以下に冷やすと液体になり、貯蔵や輸送が可能になります。電力需要に応じて水素を取り出し、必要な量の電力を安定供給することが可能になるのです。

政府は当面、豪州産の褐炭から水素を取り出して輸入することを想定しています。しかし、化石燃料から水素を取り出すとその過程で二酸化炭素が発生します。これからは二酸化炭素を出さずに水素を製造する技術の開発が急務です。

高い壁の克服には産官学のさらなる努力が必要

水素発電の利用を促すには、電気料金を低く抑えることも欠かせません。基本戦略では水素発電の電気料金を液化天然ガスと同等にする目標が掲げられましたが、そのためには安い水素を大量に確保する技術革新も必要です。

政府は風力や太陽光など再生可能エネルギーを使い、調達コストを現在の3分の1以下に減らすことを目指しています。その後も技術革新を続け、2050年までには5分の1まで引き下げたい考えで、政府は「わが国が水素利用で世界をリードしていきたい」としています。

ただ、水素社会の実現には需要の拡大などさらにいくつも高い壁が待ち受けています。これらを克服するためには産官学のさらなる努力が必要になってきます。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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