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仙台市がガス事業民営化計画策定、2022年度上半期に事業譲渡へ【エネルギー自由化コラム】

ガス自由化ニュース

公営ガス国内最大手の仙台市が、2022年度を目標に、ガス事業民営化を進めています。供給地域の人口減少や、ガス自由化による新規参入競争の激化などが民営化の起因となっており、公営で都市ガス供給をする自治体は、さらに減少傾向となりそうです。

公営ガス国内最大手の仙台市は、ガス事業民営化の基本的な考え方をまとめた「市ガス事業民営化計画」を策定しました。2020年度の早い時期に事業継承者を募り、2022年度上半期に事業譲渡して民営化したい考えです。滋賀県大津市、福井県福井市など大手の公営ガスが相次いで民営化に踏み切りましたが、仙台市の民営化で都市ガス事業の公営から民営への流れがさらに加速しそうです。

現行のガス料金を一定期間上限に

仙台市は学識経験者らでつくる市ガス事業民営化推進委員会(委員長・橘川武郎東京理科大大学院教授)を設置して2019年7月からガス事業のあり方を検討してきました。今回の民営化計画は12月に提出された1次答申を踏まえて策定されています。

目標に掲げたのは、ガス事業の永続的な発展と市民サービスの向上、地域経済の活性化、行財政改革への貢献など。事業を継承する民間会社には、現行のガス料金を一定期間上限とすることや、市内への本社設置、地元雇用、地域事業者との取引拡大を求めることを明記しました。

市民サービスでは、電気と都市ガスのセット販売など新しいサービスを提供することを視野に入れています。集めたお金を地域内で循環させ、地域に経済効果を波及させるのも狙いの1つです。これに伴う税収増は新たな財源に活用する方針。市ガス局の職員は事業継承者への転籍を望む場合を除き、市役所内で配置転換します。

公募型プロポーザル方式で継承者を選定

事業継承者は事業への取り組み方針を総合的に評価して決める公募型プロポーザル方式で選び、資産を売却します。今後、推進委員会で最低譲渡価格や事業継承者の募集要項などについて議論を進め、公募条件として2次答申されます。

仙台市は2次答申を受け、2020年度中に優先交渉権者を選定したい考え。事業譲渡契約を2021年度に結び、2022年度上半期に民営化をスタートさせる計画です。市ガス局事業改革調整室は「1年ほどかけて引き継ぎを実施し、移行に万全を期したい」と話しました。

仙台市の人口は2020年をピークに減少へ

民営化を決断した理由の1つが、急激な人口減少です。国立社会保障・人口問題研究所によると、東北6県は2015年の人口898万人が2045年に620万人まで減ると推計されています。実に31%も人口減少するわけで、この推計通りに事態が推移すると、東北が全国で最も人口減少率が高い地域になるのです。

特に、太平洋岸は2011年の東日本大震災の打撃から立ち直れず、人口減少が深刻さを増しています。岩手、宮城、福島の3県が2019年2月現在でまとめた震災後8年の推計人口では、被災地42市町村のうち、人口が増えたのは7市町だけ。原発事故の被災地以外でも、宮城県女川町40.7%、岩手県大槌町26.2%など人口が急減した自治体が少なくありません。

その中で、仙台市は周辺自治体から人を集めて2019年2月現在で4%の人口増加を達成しました。しかし、2020年の109万人をピークに減少に転じると予想されています。仙台市の都市ガス事業は黒字の優良事業とされていますが、人口が減れば収益に影響が出ることは間違いありません。

仙台市ガス局都市ガス販売量の推移
出典:仙台市ガス局資料から筆者作成

ガス自由化による環境変化も民営化の一因

電力や都市ガス小売りの全面自由化による競争激化も、仙台市にとって頭が痛いところです。市内ではガス事業への新規参入の動きが乏しいものの、首都圏と都市ガスの導管がつながっており、将来的に新規参入がないと断言できません。

都市ガスの公営事業者は電力など異業種への参入が認められていません。料金の改定でも、その都度議会に諮る必要があります。今後、競争が激化したとしても、民間企業のように機動的な対応を取ることが難しいのです。

郡和子仙台市長は12月末の記者会見で「公営事業者より弾力的に事業運営ができる民間に委ねることが必要」と民営化の意義を説明しました。

仙台市は過去にも民営化を模索

仙台市ガス局は仙台市と名取、多賀城、富谷の3市、大和、利府の両町、大衡村に都市ガスを供給する国内最大の公営ガスですが、過去にも民営化を検討したことがありました。LNG(液化天然ガス)への投資で多額の予算が必要になったことから、2005年に民営化の方針を打ち出したのです。

事業継承者の公募は2008年に始め、東京ガスと東北電力、石油資源開発の3社を中核とする企業グループが名乗りを上げました。しかし、リーマンショックの影響で2009年、撤退しています。その結果、民営化計画も先送りされました。

仙台市は2015年、市ガス局に事業改革調整室を設置し、民営化の検討を再開しました。しかし、ガス自由化の直前だったことから、企業側に様子見の空気が強く、このときも実行に踏み切れませんでした。

しかし、郡市長は2019年2月、ガス自由化がスタートして2年近くが経ち、機が熟したとして市議会で民営化に動きだす意向を表明、推進委員会を設けて本格的な検討を進めてきました。

仙台市ガス局の行政区域別利用者(2018年度末)

仙台市320,500戸

多賀城市7,158戸
名取市 6,334戸
富谷市 4,266戸
利府町4,808戸
大和町 226戸
大衡村 9戸
出典:仙台市ガス局資料から筆者作成

大津市はコンセッション方式で民営化

ガス自由化後、民営化に踏み切る公営ガスが相次いでいます。滋賀県大津市は市が導管などの施設を保有しながら運営権を引き渡すコンセッション方式で2019年4月から民営化しました。

運営権獲得では大阪ガスと関西電力が激しく競い合いましたが、大津市は大阪ガスを選択しました。その結果、大阪ガスなど3社の企業グループが株式の75%を取得した「びわ湖ブルーエナジー」が運営会社となっています。

群馬県富岡市は2017年、埼玉県に本社を置くLPガス(液化石油ガス)業者の堀川産業、新潟県柏崎市は2018年、北陸ガスに事業譲渡しています。

福井市は関西電力などへ4月に事業譲渡

福井県福井市は関西電力、北陸電力、敦賀ガスの企業グループに事業譲渡することを決めました。譲渡価格は67億円で、2019年11月に経済産業省近畿経済産業局の認可を受けています。2020年4月から民間での都市ガス販売が始まります。

石川県金沢市は2019年6月から有識者会議でガス事業のあり方を検討してきましたが、10月に民間への事業譲渡を適切とする答申が出ました。金沢市企業局は「2019年末に市民からパブリックコメントを受け付けた。2019年度中に市の基本方針を出したい」としています。

公営ガスは明治時代からあり、高度経済成長期の1960年代に入って急速に増加しました。ピーク時の1970年代には寒冷地を抱える東日本を中心に75の事業者がありました。都市ガスを寒冷地になくてはならないインフラと捉え、民間企業の進出がない地域で自治体が事業を進めたわけです。

しかし、その後LNG転換で多額の設備投資が必要になったことなどから、民営化の動きが加速しました。そのうえ、市町村合併が進んだこともあり、2018年4月時点では24まで減っています。国内最大手の仙台市が民営化へ動き始めたことで、公営で都市ガス供給を進める自治体はさらに少なくなりそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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