二酸化炭素排出ゼロの電力、燃料、導入する大手企業が続々と【エネルギー自由化コラム】
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電力、都市ガス大手で二酸化炭素(CO2)を排出しないサービスプランを導入する動きが増えています。環境保護に対する取り組みが企業価値を高めて投資を呼び込みやすい時代となったのを受け、二酸化炭素を排出しない電力や燃料の需要が高まっているためで、国内大手企業の脱炭素化も急ピッチで進んできました。
中部電力が水力由来の電力プラン受け付け開始
電力大手では、中部電力が7月から新プラン「CO2フリーメニュー」の受け付けを中部地方で開始しました。中部電力が保有する水力発電所を活用した再生可能エネルギー100%の電力プランで、顧客参加型電力取引サービス「これからデンキ」の新メニューとして提供しています。
CO2フリーメニューのイメージ(中部電力発表資料より)
対象となるのは、中部地方で中部電力と高圧業務用電力、高圧電力の契約を結んでいる企業などと、家庭向けウェブ会員サービス「カテエネ」に登録し、「とくとくプラン」、「おとくプラン」、「ポイントプラン」などの電力プランに加入している世帯です。
料金は現行プランに1キロワット時当たり4.32円(税込)を上乗せされます。地球温暖化対策推進法で一定以上の温室効果ガスを排出する事業者は、排出量を算定して国に報告しなければなりませんが、この電力を使用すると二酸化炭素排出係数をゼロとして算定できます。
将来は家庭用太陽光の導入も検討
中部電力は現在、約60億キロワット時に相当する電力供給が可能な自社の水力発電所を保有しており、2019年度の提供電力はすべて水力を電源とする計画です。
ただ、中部電力管内には2019年度中に国の固定価格買い取り制度が満了する家庭用太陽光発電が約10万件あります。設備容量が合計約35万キロワットに上ることから、2020年度以降については太陽光で発電した電力を買い取り、使用することも検討する予定です。
中部電力は「二酸化炭素を排出しない電力を求める需要が高まっているのに対応した。当面は水力由来の電力だけだが、再エネ由来の電力も将来、導入していきたい」と意欲的に話しました。
他の電力大手では、東京電力エナジーパートナーが水力発電による電力だけで構成する法人向けの「アクアプレミアム」、家庭向けの「アクアエナジー100」、関西電力が法人向けの「水力エコプラン」を既に提供しています。
東京ガスは二酸化炭素排出実質ゼロのLNGを調達
都市ガス大手では、東京ガスが6月、石油メジャーのシェルグループと二酸化炭素排出量が実質ゼロになるLNG(液化天然ガス)の取引を始めることを明らかにしました。第1弾のLNG約7万トンは7月中に到着する予定です。
LNGは化石燃料の中だと二酸化炭素の排出量が少ないものの、排出量がゼロではありません。そこで、シェルが森林保護活動などの取り組みを排出権として購入、その排出権で天然ガス採掘から燃焼までに排出する二酸化炭素を相殺し、実質ゼロとしているのです。
東京ガスは「二酸化炭素を排出しない燃料を求める国内企業の需要が高まっている。第2弾の取引についても検討していきたい」と力を込めました。
東急世田谷線が再エネ電力100%で運行
電力や燃料を購入する企業側では、脱炭素の動きが徐々に加速しつつあります。東京急行電鉄は3月から東京都世田谷区の三軒茶屋駅と下高井戸駅を結ぶ路面電車の世田谷線で、再エネを100%使った運行を始めました。
利用している再エネ由来の電力は東急グループの東急パワーサプライが取り次ぎ、東北電力が提供しています。山形県西川町の大越水力発電所と岩手県松尾村の松川地熱発電所で作った電力です。
世田谷線は延長5キロの短い路線ですが、年間に1,260トン余りの二酸化炭素を排出してきました。東急電鉄は「都市型鉄道が再エネ100%の電力で運行するのは国内初。中期経営計画に掲げた低炭素社会の実現に貢献したい」と語っています。
花王の愛媛工場が二酸化炭素排出ゼロに
花王グループは2018年10月までに愛媛県西条市の愛媛工場など国内5つの生産拠点で太陽光発電設備を設置と二酸化炭素排出量ゼロの電力購入を促進しました。これにより、国内生産拠点の購入電力に占める再エネ電力の割合は、約35%に上昇しています。
このうち、愛媛工場では既に導入している太陽光発電設備と、非化石電源で発電されたことを証明する非化石証書がついた電力の調達で年間の二酸化炭素排出量を約2万5,000トン削減し、工場自体が二酸化炭素排出量ゼロになる見通し。
国内5生産拠点の年間二酸化炭素排出量は2017年実績と比べ、約5万4,000トンの削減となる見込み。この量は一般家庭約2万4,000戸が電力使用した際の二酸化炭素排出量に相当します。花王は「環境にやさしい企業を目指し、今後も再エネの導入を推進したい」としています。
第一生命日比谷本社でも排出ゼロの取り組み
第一生命ホールディングスは4月、グループ企業の第一生命保険が入居する東京都千代田区の日比谷本社の全電力を、二酸化炭素を排出しない電力プランに切り替えました。この取り組みは銀行・保険業界では初めてになるとしています。
2018年からの中期経営計画でクリーンエネルギー活用を継続的に強化すべき領域と位置づけたのに伴うもので、年間で3,600トンの二酸化炭素削減効果があります。採用した電力プランは東京電力エナジーパートナーが提供する「アクアプレミアム」です。
第一生命ホールディングスはこれまでも地球温暖化の防止に向け、紙使用量の削減などに取り組んでおり「引き続き地球温暖化対策に力を入れたい」と述べました。
パリ協定やESG投資が企業の取り組みに影響
国内企業が二酸化炭素排出ゼロの電力、燃料購入に力を注ぐのは、地球温暖化防止パリ協定が2015年末に採択され、世界的に環境保護への意識が高まりつつあることが挙げられます。それに加え、環境や社会問題に対する企業の取り組みを投資判断に反映させる「ESG投資」の広がりも、少なからぬ影響を与えているようです。
世界持続的投資連合のまとめでは、2018年の世界のESG投資額は2016年比で約34%増え、約31兆ドル(約3,300兆円)に達しました。日本でも年金積立金管理運用独立法人が運用額の一部をESG投資に充てています。
世界の投資家の間で投資行動に社会貢献などの意義を求める意向が強まっているだけでなく、社会的な課題解決に取り組む企業は潜在的な事業リスクが低く、中長期的にみて企業価値の向上を見込めると考えられているからです。
出典:日興リサーチセンター「世界の責任投資市場に関するレポート」
排出ゼロの電力や燃料がさらに注目の的へ
さらに、金融庁は投資家に環境や社会問題への対応を含めた投資先企業の状況を把握するよう求めています。二酸化炭素の排出削減は環境への取り組みとして成果を可視化しやすいため、企業が強くアピールするようになりました。
こうした流れは世界的に今後も続くでしょう。これを受け、二酸化炭素排出ゼロの電力や燃料は、企業からこれまで以上に熱い視線を集めることになりそうです。
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