2020年9月の電力業界動向 電力需要・卸市場の状況や計量法の柔軟運用、スマートメーターの将来像についてなど、論点まとめ
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電力需要・卸市場の状況、計量法の柔軟運用、容量市場メインオークションの評価と今後の対応、スマートメーターの将来像など、2020年9月の電力会社の動向や論点を関係省庁の資料や発表内容から振り返ってみましょう。
気になる電力業界のニュースのポイントや見ておきたい注目の資料について、エネチェンジを運営するENECHANGE株式会社の顧問である関西電力出身、元大阪府副知事の木村愼作氏の解説してもらいました。
電力需要・卸市場の状況について
まずは、電力需要・卸売市場の状況について、見ていきましょう。
8月の電気使用量について
北海道電力 | 東北電力 | 東京電力 | 中部電力 | 北陸電力 | 関西電力 | 中国電力 | 四国電力 | 九州電力 | 沖縄電力 | 合計 | |
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8月の電力使用量(万kWh) | 23憶3821 | 69億2592 | 282憶5331 | 124憶3637 | 25憶2634 | 143憶5678 | 55憶9366 | 26憶9651 | 85憶5438 | 8憶8556 | 845憶6709 |
前年同月比(%) | -2.0% | -3.2% | 1.2% | 0.1% | -2.7% | 3.1% | 2.0% | 7.4% | 7.1% | 0.4% | 1.6% |
出典:広域機関システム|電力広域的運営推進機関より、エネチェンジが独自に集計・作成
各管内の8月の電力使用量が出揃いました。電力広域的運営推進機関の公表した広域機関システムのデータによると、8月の電力使用量は845億6709万kWh、前年同月比1.6%増となっています。
今年は、3月以降新型コロナウイルス感染症拡大予防対策のため、外出自粛や休業要請など、経済活動への影響も大きく、電力使用量も前年より減少傾向にありました。
しかし、8月は例年以上の猛暑となり、特に西日本の暑さが顕著でした。経済活動の段階的な緩和とエアコンなどの冷房設備の使用などの要因で、電力使用量が増加したと見られています。各地域別に見ると、10社中7社の管内での電気使用量が増えており、今年の夏がいかに暑かったのかが伝わる結果となりました。
2020年6月分の新電力販売電力量シェアについて
2020年9月8日の取引監視等委員会が令和2年6月分の電力取引の状況を公表しました。
出典:電力取引の状況(電力取引報結果)より、エネチェンジが独自に集計・作成
新電力のシェアは全体的に昨年水準よりも上昇傾向にありますが、特に大きな動きを見せたのは、特別高圧と高圧です。特別高圧は、前年差+2.6、高圧は+1.9と前年より大幅にシェアを伸ばしていることがわかります。
自主的取組・競争状態のモニタリングについて
第50回電力・ガス取引監視等委員会は制度設計専門会合を9月8日に行い、令和2年4月~6月期の自主的取組・競争状態のモニタリング結果を報告しました。
スポット市場の時間帯別のシステムプライスについて
出典:第50回 制度設計専門会合 事務局提出資料~自主的取組・競争状態のモニタリング報告~(令和2年4月~令和2年6月期)|電力・ガス取引監視等委員会(以下、本章の出典はすべて同じ)
時間帯別のシステムプライスを見てみると、夜間・昼間ともに平均価格が低下していることがわかります。前年の同期間と比較すると、夜間は-2.8、昼間は-3.3です。また、特定時間帯(9時~15時および18時~24時)のシステムプライスの差は、各時間帯の差が相対的に大きくなる4月~5月に比べ、6月後半以降は差が縮小しています。
電力需要に対するJEPX取引量(約定量)の比率の推移について
2020年6月における電力需要に対するJEPX取引量(約定量)比率は、過去最高の42.6%となりました。
新電力の電力調達の状況について
新電力の電力調達状況を見ると、新電力の販売電力量を占めるJEPXからの調達量の比率は93.2%、常時バックアップによる調達量の比率は0.4%とほとんど0に近い状況です。
新電力による販売電力量に占めるJEPXからの調達量の比率…分母は、「新電力による販売電力量」、分子は、「卸市場(スポット、時間前、先渡し)における、新電力による買い約定量の合計量」として算出(同一事業者が、同一コマにおいて売買両方の約定をしている場合もあるが、その場合も、買い約定量をそのまま使用)
同一事業者が同一コマにおいて売買両方の約定をしている場合もあるので、比率は実感よりかなり高めに出ており注意が必要です。
新電力シェアの推移について
図からわかるように、販売電力量ベースで見た新電力の市場シェアは着実に上昇しています。具体的に数字を見ていくと、総需要に占める新電力シェアは17.8%、特高・高圧分野に占める新電力シェアは17.2%、低圧分野に占める新電力シェアは19.0%です。
計量法の柔軟運用~特定計量制度の創設~について
9月4日に開催した第1回 特定計量制度及び差分計量に係る検討委員会にて、エネルギー供給強靭化法と特定計量制度について議論されました。
出典:特定計量制度及び差分計量に係る検討について|資源エネルギー庁
「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(エネルギー供給強靭化法)」案」は、昨今の自然災害の頻発、再エネの主力電源化に対し、災害時の迅速な復旧や送配電網への円滑な投資、再エネ導入拡大などを図るため、2020年6月に成立しました。
エネルギー供給強靭化法における改正事項として、「災害に強い分散型電力システム」としての家庭用蓄電池等の分散型電源などの更なる活用を目的とした、計量法の規制の合理化を図る措置(特定計量)が盛り込まれています。
出典:特定計量制度及び差分計量に係る検討について|資源エネルギー庁
本委員会では、エネルギー供給強靭化法に規定された特定計量制度について、詳細設計を進めていく必要があるとしています。そして、「特定電気取引に関する計量課題研究会」にて昨年度取りまとめられた「論点整理報告書」を踏まえ、構築小委で掲示された論点についての詳細設計を行い、構築小委に報告するとしています。
具体的に挙げられるのは、3つの論点です。
- 特定計量の定義・要件や事業者が従うべき基準(特定計量に用いる計量器に係る技術基準や、特定計量を行う者に係る運用基準)などを策定するための詳細検討を行い、省令などで定めるべき事項についての整理
- 省令などで定めるべき事項を踏まえ、詳細解釈などを示したガイドラインや措置命令基準、事業者の届出内容とすべき事項などについての整理
- 差分計量の在り方について、特例制度での制度的措置に限らない電気計量制度一般のルールの見直しも含めた検討、実施の条件などについて取りまとめ
特定計量制度の詳細制度設計に係る主な論点について
また、特定計量制度の詳細制度設計に係る主な論点について議論されました。
出典:特定計量制度の論点について|資源エネルギー庁
主な論点は、以下の7つです。
- 論点①:事前届出、事業者が従うべき基準、事業実施等の業務フローの基本的考え方
- 論点②:特定計量の定義・要件
- 論点③:届出事業者が従うべき基準
- 論点④:措置命令基準
- 論点⑤:事業者の届出内容(施行規則)
- 論点⑥:事業者の変更届出内容
- 論点⑦:届出事業者に求める報告内容
なお、議論の検討結果は委員会にて取りまとめの上、構築小委に報告される予定です。
容量市場メインオークションの評価と今後の対応について
9月17日の第42回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会では、主なテーマとして容量市場メインオークションの評価と今後の対応についての議論がありました。
出典:容量市場2020年度メインオークションに係る監視の中間報告(要約)|電力・ガス取引監視等委員会
現時点では、売り惜しみ・価格つり上げなどの問題となる事例は認められませんでしたが、9月14日には、これまでの監視の結果、およびそれを踏まえた来年度のオークションに向けて検討すべき事項を取りまとめ、中間発表として公表しています。
来年度に向けて検討すべき事項について
出典:容量市場2020年度メインオークションに係る監視の中間報告(要約)|電力・ガス取引監視等委員会
今後の対応について、来年度に向けて検討すべき事項として挙げられたのは、「経過措置及びその対象電源の逆数入札のあり方」と「維持管理コストの計算方法について」の2点です。
来年度のオークションに向けた検討事項・検証事項について
翌年度のオークションに向けた検証事項の例として、「NetCONEのコスト構成や上限価格(基準価格×1.5)の設定」「目標調達量から控除される電源の対象(FIT電源等)の算定について」「非効率石炭のフェードアウトに向けた誘導措置について」など、具体的に11の事項があげられます。
今後、来年のオークションに向けて、これまでの振り返りや入札結果の検証とともに、検討が行われる予定です。
スマートメーターの将来像について
9月8日に、次世代スマートメーター制度検討会が行われました。次世代スマートメーター仕様の論点は以下のとおりです。
出典:次世代スマートメーターに係る検討について|資源エネルギー庁
現在、課題として挙がっているのは、次世代スマートメーター仕様の計量頻度・粒度細分化の必要性(30分値の見直しなど)、通信容量(通信量・通信頻度)を想定した上での通信技術の選択(推奨仕様、仕様の統一化)、ガス・水道との共同検針の推進など、多岐に渡ります。
また、三菱総研は「国内外におけるスマートメーターの現状について」内で、論点となる「計測頻度・計測項目」、「通信方法」、「スマートメーターデータ管理・提供システム」、「共同検針・他の機器の接続等」などをまとめています。
各国の15分値計量の対応状況の比較
出典:国内外におけるスマートメーターの現状について|株式会社三菱総合研究所(以下、本章の出典はすべて同じ)
次世代スマートメーター仕様の論点として、「計量頻度・粒度細分化の必要性(30分値の見直し等)」が挙げられます。
主に欧米では、省エネを目的として15分の計量値の更新頻度が推奨されていますが、各国の計量粒度(15分値/30分値)と通信方式の間には単純な相関は見受けられません。
なお、4月10日に公表された「2022年度以降のインバランス料金制度について(中間とりまとめ)」では、日本は調整力の限界単位を2021年以降は15分単位に、2023年以降は5分単位に設定するとし、インバランスコマは現行と同様に30分としています。
ガススマートメーター動向 -国内-
国内におけるガスメーターの動向も見てみましょう。
ガスメーターとの通信により、自動検針・ボンベの残量監視・ガス漏れ等の警報監視を行う集中管理システムの導入・メータの遠隔開閉がLPガスを中心に進められています。
通信機能付きガスメーターのよる集中監視は先行するLPガスが25%導入済みであり、都市ガスは5%導入済みです。また、東京ガスでは全戸導入に向けた開発が進行中です。
水道スマートメーター動向 -国内-
東京都水道局では、トライアルプロジェクトとして2024年度までに約10万個の水道スマートメーターの導入を計画し、電力スマートメーターとの接続を含む仕様を検討しています。
費用対効果の分析方法(1) 便益として計上する費用
イギリスの公表しているスマートメーターの費用便益分析を見てみましょう。
現地出向回避といった事業者の便益以外には、需要家の省エネ効果は電力が32億£・ガスが30億£、環境価値の温室効果ガスの削減は電力が3.2億£・ガスが13億£と、大きな割合を占めている点が日本とは異なります。
電力業界の動向、次回は11月にお届け予定です
2020年9月の電力業界の動向から、今後注目したい論点を木村氏に聞きました。さらに詳しく知りたい方は、紹介した資料をご覧ください。
次回は、11月に最新状況をお届けする予定です。