2020年11月、電力業界の動向まとめ 大手電力各社2020年度第2四半期連結決算、2020夏季最大実績、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討など解説
この記事の目次
大手電力各社2020年度第2四半期連結決算、電力の小売営業に関する行政指導事例集、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討など、2020年11月の電力業界の動向を経産省、監視等委員会、広域機関他からの発表や各種会議体等での議論を中心に、振り返ってみましょう。
気になる電力業界のニュースのポイントや見ておきたい注目の資料について、エネチェンジを運営するENECHANGE株式会社の顧問である関西電力出身、元大阪府副知事の木村愼作氏に解説してもらいました。
旧一般電気事業者 2020年度第2四半期(4月~9月)連結決算について
旧一般電気事業者各社が、2020年度第2四半期(4~9月)の連結決算を発表しました。
事業者名 | 販売電力量 小売 | 卸等込み | 売上高 | 経常利益 | 売上 | 利益 |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道電力 | △2.2 (電灯△2.6 電力△2.0) | △2.4 | △2.8 | +207.1 | 減収 | 増益 |
東北電力 | △5.2 (電灯△1.5 電力△6.7) | +1.4 | △7.3 | +24.8 | 減収 | 増益 |
東京電力 | △8.3 | △10.8 | △10.1 | 減収 | 減益 | |
中部電力 | △8.0 (低圧△2.5 高特△10.1) | △7.6 | △7.7 | +2.0 | 減収 | 増益 |
北陸電力 | △0.6 (電灯+2.3 電力△1.7) | +6.6 | △1.0 | +54.5 | 減収 | 増益 |
関西電力 | △11.0 (電灯△2.3 電力△14.4) | △8.9 | △8.0 | △0.6 | 減収 | 減益 |
中国電力 | △8.5 (電灯+0.5 電力△12.5) | △8.1 | △5.6 | +44.4 | 減収 | 増益 |
四国電力 | △1.8 (電灯+1.6 電力△3.6) | △14.1 | △5.9 | △45.9 | 減収 | 減益 |
九州電力 | +2.7 | +6.6 | +3.9 | +382.8 | 増収 | 増益 |
沖縄電力 | △1.7 (電灯+2.9 電力△4.8) | ---- | △5.9 | +27.9 | 減収 | 増益 |
出典:各社プレスリリースに基づきENECHANGEが作成
売上・利益ともに増加したのは九州電力のみという、総じて厳しい結果となっています。販売電力量が大きく減少したのは、やはり新型コロナウイルス感染症拡大による飲食店など業務用の利用減や輸出産業向け販売電力量の低迷などが要因と見られています。
利益面では、東京・関西・四国電力を除く7社が増益しています。しかしこれは、修繕費減少や燃料費調整制度の期ずれ差益拡大などの外的要因があったことと、各社でさまざまな工夫を行っていたことが考えられます。
また、東京電力における21年3月期の業績予定は、引き続き未定です。ほとんどの会社で来年3月期は、マイナス傾向になることが予想できますが、どのような結果になるのか、注視しておきましょう。
電力取引の状況(令和2年8月分)について
11月16日に、監視等委員会が令和2年8月分の電力取引の状況を公表しました。
出典:電力取引の状況(電力取引報結果)
前年と比較すると、低圧電灯は+5.0、高圧は+3.1、特高は+2.9、合計で+3.7と、全体でシェアを伸ばしています。
今年の8月は記録的な猛暑となったこともあり、熱中症対策のひとつとして冷房器具の使用が増加したことが考えられます。気温と比例して6月、7月、8月と徐々にシェアが伸びていくのは、新電力には冷房比率が相対的に高い顧客が多いことから、当然の結果と言えるでしょう。この先、気温が低くなっていく秋から冬にかけてどのような動きを見せるのか、留意しておきたいところです。
ベースロード市場および非化石価値取引市場の取引結果について
日本卸電力取引所(JEPX)は30日、2021年度受け渡し分で最後となる3回目のベースロード(BL)取引結果を公表しました。
出典:2021年度 受渡分 ベースロード市場 取引結果|一般社団法人日本卸電力取引所
約定価格は、北海道エリアは9.19円、東京エリアは7.40円、関西エリアは6.20円となりました。前回BLと比較すると、北海道は+1.0円、東京は-0.25円、関西は+0.14円となります。
全3回におよぶ2021年度明け渡し分の加重平均価格は、前年度と比較して約2~3割下落しています。また、約定総量も、約4割減少する結果となりました。
出典:2020年度 非化石価値取引市場 取引結果通知|一般社団法人日本卸電力取引所
また、11月11日~13日には、2020年度非化石価値取引市場の取引結果が出揃っています。「非FIT非化石証書」の入札が開始されたため、注目を集めていましたが、約定価格は1.2円という結果になりました。同じく「FIT非化石証書」の入札も行われ、「FIT非化石証書」を含む3種類の証書をあわせると、約24憶kWhの取引がされたことになります。
非化石証書には、「再エネ指定」と「指定なし」の2種類があります。2種類とも、非化石価値は同等であり、エネルギー供給高度化法の義務量達成に活用できます。さらに「再エネ指定」の場合は、需要家に対して電源構成とは別に「実質再エネ100%」などの表現で再エネ由来の環境価値の表示が可能です。
注意が必要なのは、「指定なし」です。対象電源には原子力も含まれていますが、非化石証書には電源の種類が記載されていません。CO2フリーの電源の表示方法も変わり、FIT電気をすべての非化石証書と組み合わせれば「CO2ゼロエミ」と表示できるようになるのです。つまり、FIT電気と非FIT非化石証書(再エネ指定なし)の組み合わせで、原子力発電等の環境価値によりCO2の排出量がゼロの電源であることを意味します。
「再エネ指定」と価値が同等であったとしても、「指定なし」を選択した場合は原子力発電等による環境価値であることに気づかないまま購入してしまう可能性も考えられるため、需要家は今後注意が必要となるでしょう。
電力の小売営業に関する行政指導事例集(平成31・令和元年度)について
電力・ガス取引監視等委員会は、11月25日に平成31・令和元年に行政指導を実施した事例のうち小売電気事業者等の事業活動に参考になると考えられる事例を取りまとめ、公表しました。
指導事例を、「供給条件の説明等に関するもの」「契約締結時の書面交付に関するもの」「苦情等の処理に関するもの」「その他電気の使用者の利益の保護に関するもの」「その他(相談に回答したもの)」の4つに分け、内容を公開しています。
今回のように、電力・ガス取引監視等委員会が行政指導事例集を公表したのは初めてのことです。関係者はしっかり読み込んでおく必要がありそうです。
2020年度夏季の電力需給実績の振り返りおよび冬季の需給見通しについて
10月30日の第28回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会では、2020年度夏季の電力需給実績の振り返り及び冬季の需給見通し・対策についての振り返り・検証が行われました。
2020年度夏季の電力需給実績の振り返りについて
今年の夏を振り返ると、全体的に気温が高かったと言えます。しかし、7月の平均気温は例年と比較すると低く、8月・9月にかけて猛暑になったことが見て取れます。
各エリアの最大電力需要実績と照らし合わせてみると、猛暑となった8月に大きく影響を受けています。中部・関西・四国電力の3社の最大需要が、想定よりも上回る結果となりました。
エリア別の電力需要実績の前年同月比較は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、ほぼマイナス傾向にあります。表を見ると、北海道・沖縄エリア以外の8エリアでは5月が減少のピークとなり、徐々に回復していることがわかります。
2020年度冬季の電力需給見通しについて
2020年度冬季の電力需給見通しとしては、エリア別、月ごとに厳気象を想定した最大需要(厳気象H1需要)に対し、安定供給に最大限必要とされる予備率3%が確保できるかどうかを検証しました。
厳寒H1需要発生時に需給バランスが厳しくなるのは、1月の東京・東北エリアと12月の中西5エリア(北陸・関西・中国・四国・九州電力エリア)です。どちらの場合においても、安定供給に最低限必要とされる予備率3%は確保できる見通しです。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討について
11月17日の総合エネ調 第32回基本政策分科会では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討を行いました。
出典:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討|資源エネルギー庁以下、この章の出典はすべて同じ
10月26日の総理所信表明演説での「再生可能エネルギーの最大限導入」と「安全最優先で原子力政策を進める」という発言からもわかるように、2050年カーボンニュートラルと脱炭素化社会の実現におけるキーワードは、「再エネ」と「原子力」と言えるでしょう。今後どのような課題を持ち、検討していくのか、注目しておきましょう。
電力部門の検討の進め方について
電力部門の検討の進め方では、「長期的に大規模導入を実現する際の課題と対応」「系統の安定運用を維持するために必要な要素」などがあげられました。他の脱炭素電源である原子力、火力+CCUS/カーボンリサイクル、水素・アンモニア発電については、次回以降の検討となります。
再生可能エネルギー導入拡大にはさまざまな課題が存在していますが、今回あげられたのは5つの課題です。
これらの課題に対して、イノベーション、課題整備などを通じて対応する必要があるとしています。具体的には、再エネの大量導入に向けた課題のほかに、その克服に向けた対応策、これらを踏まえたカーボンニュートラル社会における再エネの位置づけが議論されました。
容量市場について
11月27日に開催された第44回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分 科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会では、容量市場について引き続き議論されました。
容量市場ついては、9月14日に初回オークションが行われ、今回の約定結果への評価および今後の制度設計をどのようにしていくのか、議論を行う必要があります。
9月中旬の結果公表以降、関係者から集まった意見は、主に以下のとおりです。
- 小売事業に対する影響緩和
- 供給力を増やすことや目標調達量の見直しによる市場競争の適正化
- その他、制度全般に係るご意見
第43回制度検討作業部会における主な意見について
数多く寄せられた関係者、主に新電力からの意見のなかで特に注目したいのは、小売負担の軽減における逆数入札と経過措置の取り扱いについてです。マーケットの適正な約定価格は10,488円とし、今回の約定価格である14,137円の支払いは本当に必要なのか、逆数入札があったとしても合理的な価格形成の検討をすべきというものです。
10,488円を適正な約定価格とした場合、事業の継続を懸念している小売事業者の負担軽減につながります。追加オークションで対応するといったことも議論されそうです。
ガスの経過措置料金規制解除基準と大手3者の状況について
10月30日の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会での主な議論内容は、ガスの経過措置料金規制解除基準と大手3者の状況についてでした。
ガス大手3者とは、「東京ガス」「東邦ガス」「大阪ガス」を指します。委員会は、この3者に向けてコミットメントを求めました。
出典:経過措置料金規制解除基準とガス大手3者の状況について|資源エネルギー庁以下、この章の出典はすべて同じ
指定された供給区域などにおいて小売料金規制を存置するのが経過措置料金規制であり、指定事由がなくなったと認める時は、規制の解除を行う必要があります。規制解除を行う場合、解除条件を満たしているか、適正な競争関係が確保されていると評価しがたい他の事由がないかなども確認しながら総合的に判断しなければなりません。
規制解除には、上の表にあげられる4つの基準のうち、いずれかに該当している必要があります。また、該当していたとしても、適正な競争関係が確保されていない場合は解除は行われません。
各社の状況を確認してみると、ガス大手3者ともに「②直近3年間のフロー競争状況」「③他のガス小売事業者の販売量シェアが10%以上」の条件を、他のガス小売事業者に十分な供給余力があると認められる場合には基準を満たすとしています。
経過措置規制を解除するためには、ガス大手3者がコミットメントを表明することが必要であるとし、解除後においても誠実な対応が求められます。
なお、今後の対応についての最終判断は、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の電力・ガス基本政策小委員会に委ねられます。どのように方針がまとまるのか、引き続き注目を集めそうです。
電力業界の動向、次回は2021年1月にお届け予定です
2020年11月の電力業界の動向を、まとめて木村氏に聞きました。さらに詳しく知りたい方は、紹介した資料を確認してみてください。
次回は、2021年1月に最新情報をお届けする予定です。