どうするガス自由化の高い参入障壁、経産省有識者会議が現状打開へ議論スタート【エネルギー自由化コラム】
この記事の目次
2017年4月の都市ガス小売りの全面自由化から1年半が経ちながら、新規参入が進まず、競争が大都市圏に限定されている問題で、経済産業省は学識経験者らによる有識者会議を設置、新規参入を促して料金引き下げなど利用者の恩恵につなげる方策の検討に入りました。有識者会議では都市ガス卸売市場の創設やマンション入居者の都市ガスを管理組合がまとめて購入する仕組み(一括受ガス)など具体的な対応策を検討します。
学識経験者が新規参入しやすい市場作りを議論
「競争の進展に地域的な偏りがあるのが問題点」「小規模事業者が(都市ガスの)卸供給元を自由に選べるような仕組みが必要」。東京霞が関の経産省で9月下旬に開かれた有識者会議の初会合。委員からガス自由化のさまざまな問題点が提示され、活発な意見が交わされました。
有識者会議は総合資源エネルギー調査会電力・ガス基本政策小委員会の下に、ワーキンググループとして設けられました。委員には、座長を務める一橋大大学院経営管理研究科の山内弘隆教授をはじめ、兵庫県立大経済学部の草薙真一学部長、日本生協連の二村睦子組織推進本部長ら12人が選ばれています。
初会合はガスシステム改革の現状と課題について意見交換するのが目的。今後、事業者らからのヒアリングも重ね、都市ガスの卸売市場創設やマンションでの一括受ガスなど新規参入が進みやすい市場作りを議論します。
規制改革推進会議が大幅な規制緩和を答申
有識者会議でこうした議論を進める背景には、6月に閣議決定された規制改革実施計画で都市ガス小売市場の競争促進のための取り組みが不十分と指摘されたことがあります。
政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)は
- 国内で流通する都市ガスはLNG(液化天然ガス)にLPG(液化石油ガス)を添加して一定の熱量に調整しなければならないが、熱量調整設備の確保が新規参入の妨げとなるのを防ぐため、一定の範囲内の熱量で都市ガスを流通させられるようにする
- 小売業者間の競争を促すため、一括受ガスを解禁する
- 新規参入業者が都市ガスの卸供給を受けられる市場を整備する
-など7項目の規制緩和を答申しました。
このうち、一括受ガスと卸売市場の整備は2018年度中に検討し、結論を出すとしました。一定範囲内の熱量での都市ガス流通は2020年度に結論を出すことを目指しています。政府の実施計画はこの答申に基づいて作成されたのです。
首都圏と近畿地方ではガス大手と電力大手が激しい販売競争
都市ガス小売りの全面自由化は2017年4月にスタートしました。ひと足早く2016年4月に全面自由化された電力とのセット販売が次々に登場し、首都圏など大都市圏で競争が激化しています。
特に競争が激しいのが近畿地方です。関西電力が「2019年度の早い段階で80万件の契約獲得を目指す」と打ち上げ、販売攻勢に出ているのに対し、大阪ガスは「価格だけでなく、サービスでも勝負する」と顧客のつなぎ止めに力を入れています。近畿地方のテレビでは、上戸彩さんや佐々木蔵之介さんら人気俳優、女優を起用したCMが連日放送され、まさに全面対決の様相です。
首都圏では、東京ガスに挑む東京電力エナジーパートナー(東電EP)の参入が遅れたため、自由化当初は盛り上がりを欠いていましたが、東電EPが6月末までに約23万件の顧客を東京ガスから奪うなど、ここに来て白熱の度を増しています。東電EPはニチガスなど、東京ガスはサイサンなどLPガス(プロパンガス)業者と提携し、企業グループ同士の激突の一面も見せてきました。
参入のハードル高く、家庭向け小売りへの新規参入は22社
しかし、販売競争の主役は都市ガス大手と電力大手です。LPガス業者の参入はありますが、電力自由化のような異業種からの参入が相次ぐ状況にはなっていません。
経産省によると、都市ガスの家庭向け小売りへの新規参入は8月末時点でわずか22社。電力への新規参入が400社以上に上るのに比べ、市場開放の効果が出たとはとてもいえないのが現状です。都市ガス大手からの契約変更率も全国で3.3%にとどまり、電力の4.7%より低くなっています。
卸売市場が整備され、送電網が全国を網羅する電力に比べ、都市ガスは卸売市場がないうえ、導管網の整備が遅れています。事故防止のため、保安管理も徹底しなければなりません。異業種から参入するにはハードルが高すぎるのです。その結果、電力大手対ガス大手の対決しか見えてこない状況が続いています。
北海道や東北、中国・四国地方はいまだ参入なし
地域 | 件数 |
---|---|
北海道 | なし |
東北 | なし |
関東 | 456,377 |
中部・北陸 | 181,357 |
近畿 | 601,207 |
中国・四国 | なし |
九州・沖縄 | 65,101 |
出典:経済産業省ホームページ
地域格差も広がっています。経産省がまとめた契約変更の申込件数は8月末現在で全国約130万件。うち、半数近い60万件余りを大阪ガスと関西電力がしのぎを削る近畿地方が占めています。
次いで、東京ガスと東電EPが対決する関東地方が45万件余り、東邦ガス対中部電力の構図の中部・北陸地方が18万件余り、西部ガスに九州電力が挑む九州・沖縄地方が6万5,000件ほど。北海道や東北、中国・四国地方は、新規参入業者がまだありません。
議論の難航が予想される一括受ガスの解禁
こうした現状を打開するために、さまざまな規制緩和が必要になるとして、経産省の有識者会議がスタートしたわけですが、話がスムーズに進むかどうかは予断を許しません。その代表例が一括受ガスです。
一括受ガスはマンションの住民それぞれが個別契約するより値下げにつながりやすく、管理組合との交渉だけで大量の契約を受注できることから、新規参入業者にもメリットが大きいとされています。
しかし、ガス自由化の制度設計を進めた経産省のガスシステム改革小委員会は2016年、新規参入業者の保安管理に不安があるなどとして認めませんでした。有識者会議内には規制改革推進会議の意見に反発する声もあり、議論が難航する可能性を否定できません。
利用者の恩恵に結びつく思い切った方策が必要
ガス自由化は導管網の敷設や卸売市場の創設など環境整備を後回しにして実施されました。電力自由化と歩調を合わせて市場開放を進めたいとする政府の思惑があったからです。
環境整備をしてから進めるべきだったのか、先に市場開放してから環境整備に着手すべきだったのかは、意見が分かれるところでしょう。しかし、現状のままでは利用者の恩恵は極めて限定的です。何かしらの手立てを急いで講じる必要がありそうです。
有識者会議にはオブザーバーとして日本ガス協会、東電EPなど業界団体、都市ガス事業者が参画していますが、既得権益を守るのではなく、利用者の恩恵に結びつく思い切った方策を打ち出すことが求められています。
- 加速するグリーン水素の新技術開発、コストの壁を打ち破れるのか【エネルギー自由化コラム】 - 2022.1.20
- 遅れる水素インフラの整備、水素社会の実現へ大きな壁に【エネルギー自由化コラム】 - 2021.12.24
- 原油高が年の瀬の暮らしを直撃、漁業者や産業界からは悲鳴も【エネルギー自由化コラム】 - 2021.12.15