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災害に強く、地球に優しいスマートシティ、全国で次々に出現【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

兵庫県企業庁とパナホームが日本初の地域分散エネルギー制御システムの街づくり「スマートシティ潮芦屋」を兵庫県芦屋市で進めています。また、東北では宮城県東松島市が災害公営住宅「スマート防災エコタウン」を誕生させるなど、全国でスマートシティが次々に出現しています。詳細をお伝えします。

太陽光発電など分散型エネルギーを効率よく使い、環境負荷を抑えたスマートシティが各地で次々に産声を上げています。兵庫県芦屋市では、パナホームが10月から太陽光発電と蓄電池を備えた住戸間で電力を融通し合う次世代型街区の整備に着手しました。宮城県東松島市では、太陽光で発電した電力で街区のエネルギーをまかなうだけでなく、近隣の医療施設などに供給する災害公営住宅が誕生しています。災害に強く、地球に優しいスマートシティが当たり前になる日は、そう遠くないのかもしれません。

芦屋の海を埋め立てた造成地に117戸の次世代型住宅地

パナホームが開発中の「スマートシティ潮芦屋」。後方が新事業の予定地(筆者撮影)
関西を代表する高級住宅街を抱える芦屋市。阪神電車の芦屋駅から歩いて30分、臨海部の造成地南端で宅地の整備が始まっています。パナホームがエナリス、興銀リース、兵庫県企業庁とともに進めているもので、マイクログリッドシステム(地域分散エネルギー制御システム※)を活用した住宅街の建設現場です。

※:小規模発電網を意味し、太陽光発電など小規模な発電施設を地域内に設け連結し、地産地消で電力需要を賄うシステム

パナホーム「スマートシティ潮芦屋」(パナホーム発表資料から)
この造成地は兵庫県企業庁が海を埋め立てて整備した芦屋市涼風町の「潮芦屋」。周辺にある神戸市や西宮市の埋め立て地は工場が立地していますが、芦屋市は高級住宅都市のイメージを守るため、住宅街が整備されています。パナホームはそのうちの3万2,000平方メートルに総事業費約70億円をかけ、117戸の次世代型住宅を建設する計画です。

パナホームは2012年から潮芦屋の12万3,000平方メートルを開発してきましたが、今回の事業地区が最終分譲区画になります。住宅は2018年夏ごろから販売を始め、年末ごろから入居開始の予定です。

余った電力は不足する家庭へ、住戸間で電力を融通

蓄電池制御による電力融通のイメージ(パナホーム発表資料から)
各住戸にはパナソニック製の太陽光発電(4.6キロワット)と蓄電池(11.2キロワット時)、HEMS(家庭内エネルギー管理システム)を設置します。各戸の蓄電池は自営線でネットワークに結ばれ、街区に巨大な蓄電池が存在する形にするわけです。
住戸間電力融通のイメージ(パナホーム発表資料から)
その結果、電力が余っている家庭から不足する家庭へ分け合うなど双方向での電力融通を実現しました。これがこの事業最大のセールスポイントです。逆に、発電過多になると一斉放電し、電力の平準化を図ることもできます。

必要な電力の80%以上を太陽光発電で賄い、電力が不足する時間帯になると、新電力などから再生可能エネルギーで発電した電力を調達します。街区内で使用する電力を再生可能エネルギーだけで賄うのが目標。パナホームは電気料金を通常より20%低減できるとみています。

二酸化炭素排出量を削減し、電気代も大幅節約

地震など非常時に外部の電力が遮断された場合、街区内の太陽光発電と蓄電池の電力を冷蔵庫や照明、携帯電話の充電など特定の回路だけに回す仕組みを整えます。

従来の大規模発電所から一方向で電力を供給するのに比べ、災害に強いのが分散型エネルギーの特徴です。二酸化炭素(CO2)排出量の削減、電気代の節約もでき、地球と家計に優しい住宅といえるでしょう。

経済産業省の補助金を受けているため、分譲価格は先行販売している他の街区とほぼ同水準の税込み5,500万~6,000万円程度になる見込みです。パナホームは「建物間の電力融通や災害に強いまちづくりを海外展開するショーケースにしたい」と力を入れています。

柏市のスマートシティでは街区間で電力融通

大規模発電所からの送電電力に依存せず、エネルギー供給源と消費施設を持つ小規模のエネルギーネットワークをマイクログリッドと呼びます。住宅業界ではこの技術を生かしたスマートシティの建設にしのぎを削り合っています。停電時でも電力供給が可能なほか、経済性の高さや地球に優しいことが売りになるからです。

その先鞭をつけたのが、三井不動産が千葉県柏市で1,000億円を投じて開発した「柏の葉スマートシティ」です。つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅周辺12万7,000平方メートルに商業施設やマンション、ホテル、オフィスビルを建設、2014年に中心街区がオープンしました。

太陽光、風力発電に加え、大型の蓄電池を設置、余裕があるときに電力を貯め、休日の商業施設や平日のオフィスなどに効率よく電力を融通する仕組みです。中央制御室でコントロールし、街区間の電力融通もしています。

東日本大震災の被災地には防災エコタウンが出現

東日本大震災の被災地にも2015年、注目を集める災害公営住宅が誕生しました。宮城県東松島市の「東松島市スマート防災エコタウン」です。設計、施工には積水ハウスが当たりました。東松島市は震災時の大津波で1,000人を超す死者、行方不明者が出たうえ、ライフラインの切断が問題になっただけに、主に防災の視点から事業計画を立てました。

4万平方メートルの敷地に集合住宅15戸、戸建住宅70戸を建て、約250人が暮らしています。集合住宅と集会所の屋根、調整池に最大発電能力470キロワットの太陽光発電を設置、街区内の住宅と近隣の病院、公共施設に電力を供給しているのです。

夜間は容量480キロワット時の蓄電池に貯めた電力を使用するほか、非常時には大型のバイオディーゼル発電機が作動し、3日程度は通常通りに電力を供給できるようにしています。非常用発電機の燃料が尽きても、太陽光発電だけで最低限の電力供給もできる仕組みです。2016年からは近隣の病院や公共施設に電力供給を始めました。

最新技術でエネルギー利用を最適化

街区内と周辺の病院、公共施設は自前の自営線で結ばれ、CEMS(地域エネルギー管理システム)で最適化されています。各家庭で使用するエネルギー量を可視化し、節電を意識できるようにしたのも特徴です。

スマート防災エコタウンの年間CO2排出削減量は256トン。防災に主眼を置いてスタートした事業ですが、地球環境の保護にも大きな力を発揮しているわけです。

東松島市復興政策課は「2017年8月に停電があった際も街区内は支障がなかった。安心、安全で、地球に優しいまちづくりの形を提示できたのではないか」と喜んでいます。

将来の普及にはコストダウンが不可欠

ただ、マイクログリッドを生かしたスマートシティにも課題が残っています。特に大きいのは事業の採算性です。パナホームの潮芦屋は経産省、東松島は環境省の補助金を受けましたが、補助金がなければ、住宅の建設費、分譲価格がはね上がってしまうのです。

震災直後、被災地では防災住宅団地構想があちこちで持ち上がりましたが、システム構築などに高額の費用がかかるとして具体化できないところが少なくありません。

パナホームは「今後、事業を進めていく中で、コストダウンを実現し、補助金がなくても採算を取れる状況にしていかないといけない」と話しています。コストダウンが実現したとき、日本の住宅地の形が大きく変わりそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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