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母島の電力を太陽光発電で、東京都と小笠原村、東京電力パワーグリッドが実証実験へ【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

母島島内の電力を、太陽光発電だけでまかなう実証実験が始まります。世界自然遺産の島母島が「ゼロエミッション・アイランド」として、再生可能エネルギーの普及を進展させるのに一役買うことになりそうです。

東京都は小笠原諸島の母島で島内の電力を太陽光発電だけでまかなう実証実験を始めることを決め、東京都小笠原村、東京電力パワーグリッドと協定を締結しました。自然環境調査や専門家への意見聴取を進め、順調に進めば2022年度末から実証実験に入りたい意向です。小池百合子東京都知事は記者会見で「自然や景観に配慮しながら、事業を進めたい」と意欲を示しました。

母島に太陽光発電を設置して3年間実験

東京都環境局によると、想定している実証実験の実施期間は3年。母島に太陽光発電施設と蓄電池などを設置、1年のうち半年程度を視野に入れて太陽光発電だけで電力をまかないます。残りの期間はディーゼル発電などを併用する方針です。

太陽光発電だけで半年間、島内で必要な電力を供給できれば、その他の再生可能エネルギーも活用してすべての電力をまかなうことを目指すことにしています。その後は伊豆諸島など東京都下の他の島でも、再生可能エネルギーの利用を促進する考えです。

小池知事は2018年7月に母島で開かれた小笠原諸島返還50周年を記念した式典で「4年後には実証実験を開始できる」との見通しを明らかにしていました。

施設の設置や運用は東京電力パワーグリッドが担当

今後、3年かけて自然環境調査や専門家への意見聴取を進めたうえで、具体的な事業計画をまとめます。3者の役割分担は東京都と小笠原村が太陽光発電施設を置く土地を提供し、東京電力パワーグリッドが施設の設置、運用を受け持ちます。

太陽光発電施設の設置場所や設置する機器の詳細などは未定ですが、国際教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録されている母島の環境に配慮し、世界自然遺産区域を避けて都有地や村有地に置く方針です。

東京都環境局は設置候補地として母島の南部にある評議平畜産指導所跡地、旧ヘリポート周辺の畜産指導所跡地(ともに都有地)、中ノ平農業団地の研修圃場(村有地)の3カ所を太陽光発電施設設置候補地に、母島発電所(東京電力パワーグリッド用地)を蓄電池設置候補地に挙げています。

母島内の太陽光パネル設置候補地。都所有の畜産指導所跡地など4カ所が示された(東京都提供)
母島内の太陽光パネル設置候補地。都所有の畜産指導所跡地など4カ所が示された(東京都提供)

小笠原諸島は冬でも過ごしやすい亜熱帯気候

母島がある小笠原諸島は東京23区から南へ約1,000キロの太平洋上に浮かぶ30余りの島で構成されます。総面積は100平方キロメートル余りで、全体が小笠原村の行政区画。海洋性の亜熱帯気候に属し、真冬でも平均気温が18度前後と過ごしやすい場所です。

民間人が居住しているのは、父島と母島の2島だけ。このほか、硫黄島と南鳥島に自衛隊など公務員が常駐していますが、それ以外はすべて無人島です。空港はなく、片道24時間かけて東京港の竹芝桟橋と父島の二見港を貨客船が運航しています。父島と母島間も片道約2時間の貨客船で結ばれています。

戦前はサトウキビの生産が主産業でしたが、現在は就業者の3割を公務員が占め、観光業が基幹産業です。ほかに亜熱帯気候でなければ栽培しにくいパッションフルーツやコーヒーなどが育てられています。

母島の概要

面積19.88平方キロメートル
人口470人
乳房山(標高462メートル、島の最高峰)
主な施設小笠原村母島支所、東京都母島出張所など
特産品パッションフルーツ
希少生物ハハジマメグロ、ワダンノキ
出典:小笠原村ホームページから筆者作成

東洋のガラパゴスと呼ばれるほど固有生物が多様

生物地理上の区分では日本で唯一、オセアニア地域に属しています。長く大陸と隔絶して独自の進化が進んだため、島の生物は「東洋のガラパゴス」と呼ばれるほど固有種が多いのが特徴です。

主なものは植物ではキク科の小高木ワダンノキ、ツツジ科のムニンツツジ、ノボタン科のハハジマノボタンなどが挙げられます。動物だとオガサワラオオコウモリ、ハハジマメグロ、オガサワラトカゲなどが生息しています。

1972年に小笠原国立公園に指定されたほか、2011年に世界自然遺産に登録され、貴重な自然の保護が図られていますが、人間が持ち込んだ外来生物や島の開発などからオガサワラオオコウモリなど多くの生物が絶滅の危機に直面しています。

母島は人口470人、ラム酒やカカオも有名

小笠原諸島のうち、母島は父島の南約50キロにあり、広さが約20平方キロメートル。姉島、妹島などと母島列島を形成しています。島の南部の沖村が唯一の集落で、人口は約470人。国産のラム酒製造やカカオの栽培が進められていますが、北部はうっそうとした森が広がっています。

太平洋戦争中の1944年に住民が強制疎開させられたあと、20年以上にわたって無人島でしたが、米国から施政権が返還されて5年後の1972年から定住が始まりました。現在は自然を求めて東京など大都市圏から移り住み、観光ガイドなどをして暮らす若者もいます。

食料品や日用品など生活物資は父島経由で東京から運ばれてきていますが、島内の電力は最大出力960キロワットのディーゼル発電所「母島発電所」でまかなっています。

ゼロエミッション・アイランドの目玉事業に

東京都は世界最先端の環境先進都市を目指し、温室効果ガス削減について2030年までに2000年比で30%減という国を上回る高い目標を環境基本計画で掲げました。これを実現するために、電気自動車や燃料電池自動車の普及、ゼロ・エネルギー・ビルの促進などを打ち出しています。

小笠原諸島や伊豆諸島などには、「ゼロエミッション・アイランド」を掲げ、再生可能エネルギーの普及を進展させる考え。東京都次世代エネルギー推進課は「母島は人口が少なく、日照条件も良い。太陽光発電だけで島内の電力をまかなえるのではないか。今回の実証実験を通じ、環境にやさしい島の魅力を母島からアピールしていきたい」と力を込めました。

一方、小笠原村は第4次小笠原村総合計画で村を豊かな自然と共生し、持続可能な島とする方針を打ち出しています。今回の太陽光発電導入に向けた実証実験は、その前段階に位置づけられます。

小笠原村環境課は「再生可能エネルギーの推進は村のエネルギービジョンでも掲げている。自然とともに歩む島として太陽光発電の実証実験に取り組みたい」と意欲的に話しました。

温暖化防止へ世界自然遺産から一石

地球温暖化は現在も進行を続けています。ツバルなど太平洋の島国の中には国土消失の危機に直面しているところがあるほか、台風の巨大化、熱帯性伝染病の拡大、砂漠化などさまざまな悪影響が広がろうとしており、国際社会が早急に対応しなければならない課題に浮上しているのです。

人口約470人の母島での取り組みは温室効果ガス削減の面からすると微々たる量でしかありませんが、世界自然遺産の島が再生可能エネルギーに切り替えることは世界に一石を投じることになるかもしれません。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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