建築物はゼロ・エネルギーの時代へ、全国でZEB建築が本格化【エネルギー自由化コラム】
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快適な室内環境を維持しながら、建物で消費するエネルギーを省エネと創エネでゼロにするZEB(ゼブ)の建築が本格化してきました。民間のオフィスビル、官公庁、病院などが相次いで着工されているほか、稼働を始めた施設も出ています。建築物はゼロ・エネルギーの時代が近づいているようです。
尼崎市初のZEB建築物、東七松町で稼働
阪神工業地帯の一角として発展してきた兵庫県尼崎市。工場と住宅が混在する東七松町に9月から稼働を始めたZEBがあります。電力設備の設計・施工などを行う山口電気工事の新社屋です。兵庫県では2棟目、尼崎市では初めてのZEBになります。
新社屋は3階建て延べ約1,100平方メートル。2、3階の外壁はガラス張りの設計で、自然光を多く取り込み、照明エネルギーを削減しました。断熱性に優れた木質サッシと複合ガラスを窓に採用したほか、床下空調を取り入れています。
空調用の熱源として地中に埋めた管に水を循環させ、地中熱を利用するヒートポンプも導入しました。屋上には127枚の太陽光パネルを設置しています。削減した1次エネルギー消費量は省エネで51%、創エネで49%以上の合計100%以上。ZEBの厳しい基準をクリアしています。
新社屋には、山口電気工事と同じアトムズワールドグループに所属する技術エンジニアリング商社の大昭産業、3D測量データを制作するスペースグラブのグループ企業2社も入居しました。アトムズワールドは「快適な室内環境を損なわずに、エネルギー消費を削減できている」と胸を張っています。
ZEBの規格は3段階、省エネと創エネで消費量削減
環境省によると、ZEBはネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略で、省エネと再エネ導入による創エネで年間の1次エネルギー消費量をゼロ以下にした建築物を指します。これに次ぐ規格としてNearly ZEB(ニアリー・ゼブ)、ZEB Ready(ゼブ・レディ)、ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)があります。
Nearly ZEBは1次エネルギー消費量を省エネと創エネで25%以下まで削減した建築物、ZEB Readyは1次エネルギー消費量を省エネで50%以下まで減らした建築物、ZEB Orientedは延べ床面積1万平方メートル以上で、1次エネルギー消費量を事務所、学校、工場などは40%以上、ホテル、病院、百貨店、飲食店などは30%以上削減した建築物です。
このうち、ZEBとNearly ZEBは省エネだけで1次エネルギー消費量を50%以上削減することが条件に入っています。
ZEB | 省エネと創エネで1次エネルギー消費量がゼロまたはマイナスの建築物。省エネで50%以上の削減が条件 |
Nearly ZEB | 省エネと創エネで1次エネルギー消費量を75%以上、100%未満削減した建築物。省エネで50%以上の削減が条件 |
ZEB Ready | 省エネで1次エネルギー消費量を50%以上削減した建築物 |
ZEB Oriented | 1次エネルギー消費量を事務所、学校、工場などは40%以上、ホテル、病院、百貨店、飲食店、集会所などは30%以上削減し、新技術を導入した建築物。延べ床面積1万平方メートル以上が対象 |
カーボンニュートラル実現に不可欠の施策
日本のオフィスビルや商業施設など業務部門から排出される二酸化炭素量は、2019年度で約1億9,300万トンに達します。日本の排出量全体に占める割合は18.8%。電力消費による排出がそのうちのざっと7割を占めています。
さらに、東日本大震災による電力需給のひっ迫、北海道胆振東部地震による大規模停電、国際情勢変化に伴うエネルギー価格の不安定化などから、エネルギー面で建築物の自立が求められるようになってきました。
政府は2018年に閣議決定したエネルギー基本計画で2030年までに新築建築物の平均でZEB実現を目指すとし、公共施設や民間ビルのZEB化に向けて旗を振ってきました。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現に向けても、ZEBの推進は避けて通れません。
山梨県、滋賀県、福岡県でZEBが相次いで誕生
日本最初のゼロ・エネルギー建築物とされるのは、2013年に山梨県北杜市大泉町に開所した宗教法人生長の家国際本部”森の中のオフィス”です。八ヶ岳南麓の豊かな緑の中に建設された9棟から成る延べ床面積約8,200平方メートルの木造建築物です。
屋根と壁に300ミリの断熱材、窓に断熱性が高いペアガラスを採用したほか、冬場は屋根の太陽熱集熱システムで空気を温めてダクトで床下へ送り、床暖房に利用するなどしています。創エネでは太陽光発電、リチウム電池、バイオマス発電を導入、省エネと創エネでゼロ・エネルギーの実現を図っているのです。
既存の建物を改修してZEBにした例もあります。2019年に完成した滋賀県の高島市役所本庁舎は本館の改修と新館の増築でZEB Readyの基準を満たしました。外壁や屋根を高断熱仕様にしたうえ、窓に複層ガラスを導入、1次エネルギー消費量を54%削減しています。
福岡県の久留米市環境部庁舎は全面改修でZEB認証を取得、1月に工事を終えました。断熱性の向上、照明のLED化など省エネで67%、蓄電池導入や屋上への太陽光パネル設置など創エネで39%の1次エネルギー消費量を削減しています。
戸田建設は高層ビルでZEBに挑戦
完成したZEB建築物はそれほど多いわけではありませんが、建設計画は目白押しです。建設大手の戸田建設は9月、東京都中央区京橋で建設中の新社屋・新TODAビルでZEB Readyの認証を取得しました。高さ150メートル以上の超高層複合用途ビルでの認証取得は国内初です。
新TODAビルは地上28階建て、高さ165メートルで、延べ約9万5,000平方メートル。高性能複層ガラスなどで断熱性を高め、コージェネレーション設備の導入で電力供給すると同時に、排熱を活用して基準以上の1次エネルギー消費量削減を目指しています。8月に工事に着工し、2024年4月の完成予定です。
戸田建設は2010年からエコ・ファースト企業として環境課題の解決に取り組み、2019年に事業運営を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す企業が参加するRE100イニシアチブに加盟しました。「完成後も運用と技術の両面でさらなる省エネ、二酸化炭素削減に取り組み、ZEBの普及に貢献したい」としています。
大分県や茨城県でも官民の施設をZEB建築物に
大分県大分市津留で5月に着工した鬼塚電気・鬼塚産業本社ビルは、最高ランクのZEBを目指しています。3階建て延べ約2,700平方メートルで、2022年1月に完成する予定。省エネでは外付けブラインド、創エネでは太陽光発電、風力発電、水素燃料電池を導入します。
完成後はセンサー類が取得した各種データを解析し、鬼塚電気が設計施工プランナーとなって他社のZEB取り組みを支援するほか、大分市の津波避難ビルとしても活用する予定です。
官公庁では、茨城県下妻市が10月、保健センターとの複合施設となる新庁舎の建設を始めました。4階建て延べ約8,500平方メートルで、西側に新庁舎、東側に保健センターの機能を配置します。完成と使用開始は2023年の予定です。
外壁、開口部の断熱性向上や日差しによる熱負荷を軽減する設計、太陽光発電の導入などを進め、ZEB Readyの認証取得を目指す方針。下妻市財政課は「ゼロカーボンシティを目指す下妻市のシンボル的存在にしたい」と意欲的です。
環境と共生する新時代にシンボルに
ZEB建築物が増えることは社会にとって、カーボンニュートラル実現や防災対策推進を後押しすることになります。住民に省エネや創エネの必要性を訴えるよい教科書にもなるでしょう。
企業にとってもメリットは少なくありません。世界的に脱炭素の流れが進む中、環境に配慮することが企業価値を高め、投資を呼び込む要因の1つになりつつあります。ZEB建築は費用負担の増大や計画時点で費用対効果が見えにくいなどのデメリットも存在しますが、環境に配慮した企業であることを示す大きなチャンスです。
地球温暖化の防止は待ったなしの国際的課題になりました。ZEBに目を向ける自治体や企業が増えてきたことで、環境と共生した新しい時代が近づいてきています。
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