買取競争の様相を示す卒FIT電力、新電力の先行きにも大きな影響【エネルギー自由化コラム】
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買取競争の様相を示す卒FIT電力、新電力の先行きにも影響か?
住宅用太陽光発電の設置家庭で11月から電力大手との売電契約が切れるところが出るのを受け、顧客の囲い込みに動く新電力が増えているほか、電力大手も相次いで買取メニューを公表しています。各社は卒FIT電力の獲得を販売拡大の好機とみており、買取競争の様相を示しています。
出光興産(旧:出光昭和シェル)は九州以外8.5円で買い取り
経済産業省のサイトで卒FITの余剰電力を買い取る事業者として紹介されているのは6月26日現在、関西電力、九州電力、中部電力など電力大手8社と、都市ガス大手の大阪ガス、新電力の出光興産(旧:出光昭和シェル)とスマートテック、CWSです。
このうち、出光興産(旧:出光昭和シェル)は2月から住宅用太陽光発電の買取サービス事前登録を受け付けています。対象地域は沖縄県と離島部を除く全国で、買取価格は九州が税込みで1キロワット時当たり7.5円、それ以外の地域が8.5円。関連会社のソーラーフロンティアが製造した太陽光パネルの設置家庭を中心に顧客を囲い込もうとしています。
出光興産(旧:出光昭和シェル)は九州だけ買取価格を安くした理由を「総合的に判断した結果」とだけ説明していますが、日射量が好条件の九州で太陽光発電設置家庭が多いことを念頭に置いたもようです。ただ、買取価格については「今回の提示額が最低保証」とし、他社の動向を見て見直すことを否定していません。
スマートテックは10円の買取価格を提示
経産省によると、スマートテックは出光興産(旧:出光昭和シェル)を上回る10円で買い取ります。サービスの提供は北海道、北陸、四国、沖縄電力管内と離島部を除いた地域が対象です。
電力大手もそろって買い取りを進めることを決め、次々にメニューを公表しています。電力大手の買取価格はそれぞれの代表的なプランで関西電力が8円、中国電力が7.15円、四国電力が7円などとおおむね7~8円の範囲内になりました。
このほか、新電力ではループ、NTT西日本とオムロンが出資したNTTスマイルエナジー、丸紅子会社の丸紅ソーラートレーディングなどが、これまでに買い取りの意向を明らかにしています。
積水ハウスは11円でオーナー向けサービス
積水ハウスは新電力としての買い取りではなく、住宅を購入したオーナー向けのサービスとして11円での買い取りを明らかにしました。
買い取った電力は自社で使用します。積水ハウスの住宅に搭載された太陽光パネルによる発電量の2~3割を買い取れば、すべての事業所で必要な電力をまかなうことができる見込みです。
積水ハウスは「電力事業をするわけではないので、高値で買い取りが可能になった。メンテナンスなどで訪問する社員が声掛けし、専任の営業部員を置かずに済んだことも買取価格の引き上げにつながった」と説明しています。電力販売をしないとはいえ、新電力には強力なライバルになりそうです。
卒FITの住宅用太陽光発電は2023年末で約165万
再生可能エネルギーの普及を目指してスタートしたFIT制度で、電力大手はこれまで太陽光発電など再生可能エネルギーでつくった余剰電力を法律で定められた価格で買い取ってきました。このうち、住宅用太陽光発電の電力は買取期間が10年で、11月から契約切れとなる家庭が出ます。
出典:経済産業省「住宅用太陽光発電設備のFIT買取期間終了に向けた対応」
再生可能エネルギーの普及を目指してスタートしたFIT制度で、電力大手はこれまで太陽光発電など再生可能エネルギーでつくった余剰電力を法律で定められた価格で買い取ってきました。このうち、住宅用太陽光発電の電力は買取期間が10年で、11月から契約切れとなる家庭が出ます。
経産省によると、卒FITの住宅用太陽光発電は2019年末で約53万件に上る見通し。その後も毎年、20~34万件が契約満了を迎え、2023年末には累計で約165万件の住宅用太陽光発電が卒FITを迎えます。
卒FIT後の電力は新たな契約を電力会社と結んで売電を続けるか、蓄電池や電気自動車を購入して自家消費することになります。FITの売電収入が住宅用太陽光発電設置家庭の貴重な収入となってきただけに、どの電力会社がどれだけの価格で買い取ってくれるのかは、気になるところでしょう。
FIT価格から急減も電力取引価格に比べると高単価
2020年3月末で卒FITとなる住宅用太陽光発電設置家庭は、48円で売電しています。積水ハウスの11円でも4分の1以下ですが、電力の取引価格で考えると決して安い数字ではありません。
電力大手の余剰電力が取引される日本電力卸取引所(JEPX)の平均的な価格が8円。自前の発電所で自社の電力需要をまかなえない新電力は、JEPXからこの価格で電力を調達して販売しています。
新電力関係者の多くが「採算が取れる買取価格の限界が8円程度」と口をそろえます。出光興産(旧:出光昭和シェル)の8.5円を想定以上の高価格と受け止めた新電力関係者は少なくなかったのです。
高度化法見直しも卒FIT電力への注目に
新電力の多くが採算ぎりぎりの価格で卒FIT電力を調達しようとする背景には、特別な事情があります。エネルギー供給構造高度化法の目標が2016年に見直され、年間の電力販売量が5億キロワット時以上の大手新電力(2017年度は東京ガス、JXTGエネルギー、F-powerなどを含む36社)に対しても、電力大手10社と同等に供給電力の44%を原子力や再生可能エネルギーなど非化石電源が占めるよう求めたからです。
それまでは電力大手が2020年までに非化石電源比率を50%以上、新電力が2%以上とする目標でした。原発や大型水力発電を持つ電力大手と、持たない新電力の差を考慮していたわけですが、高度化法が目指す目標が一律で2030年に原則44%以上に改められたのです。
44%という数字は国のエネルギーミックスで原子力と再生可能エネルギーの比率を足したものになります。これをクリアするために大手新電力は卒FIT電力を確保しようとしているわけです。
買取競争が新電力の命運を左右
今後、電力大手や他の新電力が買取メニューを明らかにする中で、買取競争がさらに激化する可能性があります。住宅用太陽光発電の設置家庭にとって、望ましい方向でしょうが、電力自由化の激しい競争の下、電力大手に立ち向かう新電力にとっては頭が痛いところです。
電力市場は電力大手と都市ガス大手の全面対決が強まる中、都市ガス大手以外の新電力は存在感を発揮できずにいます。経営危機が表面化し、電力市場から既に撤退した新電力もあります。争奪戦の行方が新電力の命運に少なからぬ影響を与えそうです。
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