加速する公営ガスの民営化、新型コロナで先行き不透明な一面も【エネルギー自由化コラム】
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地方自治体が都市ガス事業を運営する公営ガスの民営化が急ピッチで進んでいます。4月には福井県福井市、秋田県にかほ市、新潟県見附市の事業が民間へ有償譲渡されたほか、仙台市や石川県金沢市など民営化に向けて動き出すところも増えてきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で日本経済は急激に冷え込んでいます。事態が鎮静化に向けば民営化の流れがさらに加速しそうですが、今の状態で民営化の受け皿となる企業が出てくるかどうか懸念も残ります。
福井市は4月、福井都市ガスに事業譲渡
福井市は4月から関西電力、北陸電力、敦賀ガスが設立した福井都市ガスへ事業譲渡しました。譲渡価格は約67億円。福井市は収入を都市ガス事業の企業債43億円の返済などに活用します。
北陸地方は電気料金が安く、オール電化の普及が進んでいるため、2018年度の市の都市ガス売上高は10年前より約2割少ない25億円に落ち込んでいます。この状況を打開するために、料金を7%上げて採算性改善に取り組む中での譲渡となりました。
福井都市ガスは原料のLNG(液化天然ガス)を関西電力と北陸電力から調達しています。原則として従来の料金から変更はありませんが、北陸電力と支払いをまとめることで使用量に応じて月に最大500円安くなるプランも用意しました。
にかほ市、見附市でも4月から民営化スタート
にかほ市はにかほガスに事業譲渡しました。静岡県焼津市に本社を置く東海ガスが設立した会社です。にかほ市は東海ガスが群馬県下仁田町の公営ガス譲渡を受け、事業を営んでいる実績や、将来性などを総合的に判断して譲渡先に選んでいます。
地域の人口減少や電力など他のエネルギーとの競争から、にかほ市の都市ガス販売量は減少していました。にかほ市は2度にわたる料金改定で経営改善を図ってきましたが、自由化の時代を迎えて民営化やむなしと判断しました。
見附市の譲渡先は新潟市に本社を置く北陸ガスです。北陸ガスは2018年、新潟県柏崎市の公営ガス譲渡を受け、事業を引き継いでいますが、その実績が評価されました。
料金体系は見附市のものが引き継がれ、新たにクレジットカードやスマートフォンアプリでの支払いが可能になりました。さらに、都市ガスの使用開始や停止、設備検査について、新たにインターネットでの申し込みも受け付けています。
ピーク時75の自治体がいまや約20に
公営ガスは明治時代からあり、1960年代から急速に増加しました。1975年から77年のピーク時には、寒冷地を抱える東日本を中心に75の自治体が都市ガスを供給していました。都市ガス供給には導管の敷設などに多額の費用がかかります。このため、民間事業者がまだ進出できていない地域で自治体が導管を設置し、ガスの供給を進めたわけです。
しかし、天然ガスへの転換で設備投資が多額になったうえ、市町村合併が進んだことなどから、民営化が次第に加速していきます。総務省によると、公営ガスは4月1日現在で約20自治体まで減少しました。
公営ガスは都市ガス小売りの全面自由化まで、許可された区域内で導管の維持、管理と小売りの両方を独占してきました。料金は総括原価方式といって営業費用に事業報酬を足した十分に利益の出る額で設定され、安定した経営をすることができたのです。
ガス自由化と人口減少で民営化が加速
しかし、自由化後は国の規制がなくなり、いつ民間企業との競争に巻き込まれるか、分からなくなりました。地方は人口減少が加速し、利用者の減少が深刻です。オール電化の普及も公営ガスの手ごわい競争相手に浮上してきました。
しかも、公営ガスは料金変更などで議会の承認が欠かせません。民間企業と競争になっても、機動的な対応が取りにくく、後れを取りかねない一面が残ります。区域外への供給や都市ガス以外への事業進出にも制約があります。
旧態依然とした公営企業のやり方でサービスの質の差が明らかになれば、利用者の不満が募ることが考えられます。このため、多くの自治体が公営ガス民営化に踏み切っているのです。
地方自治体 | 年 | 方式 | 受け皿企業 |
---|---|---|---|
群馬県富岡市 | 2017 | 譲渡 | 堀川産業 |
新潟県柏崎市 | 2018 | 譲渡 | 北陸ガス |
群馬県下仁田町 | 2019 | 譲渡 | 東海ガス |
滋賀県大津市 | 2019 | コンセッション | びわ湖ブルーエナジー |
秋田県にかほ市 | 2020 | 譲渡 | にかほガス |
新潟県見附市 | 2020 | 譲渡 | 北陸ガス |
福井県福井市 | 2020 | 譲渡 | 福井都市ガス |
事業譲渡 | 施設や運営権のすべてを民間に売却する。自治体の関与はなくなる。 |
コンセッション | 施設を自治体が保有しながら、期限を定めた運営権を売却する。自治体の関与度が高い。 |
株式会社化 | 施設や運営権の売却先に自治体が出資し、一定の関与を残す。 |
仙台、金沢、松江の3市が民営化を計画
現在、民営化に向けて動き出しているのが、公営ガス最大手の仙台市や石川県金沢市、島根県松江市などです。仙台市は2020年度上半期に事業者の公募に入り、年度内に優先交渉権者を決定、2022年度の早い時期に民営化を実現させるスケジュールで動いています。
仙台市だけでなく、宮城県の名取、多賀城、富谷の各市、大和、利府の両町、大衡村に都市ガスを供給していますが、経営環境の変化で「弾力的に事業運営できる民間に委ねることが必要」(郡和子市長)と考えたからです。
金沢市は2月、2022年度をめどに都市ガス事業を民営化すると発表しました。金沢市に拠点を置く新設の事業会社を対象に公募型プロポーザル方式で譲渡先を募り、市が出資して株主として事業に関与する方針です。金沢市企業局経営企画課は「目標までのスケジュールを踏まえ、準備を進めている」と説明しました。
松江市は2019年11月、市議会に対し、都市ガス事業民営化を進める方針を伝えました。松江市ガス局営業総務課は「現在、市の内部で民営化の具体的な内容について検討作業に入っている」と述べています。
新型コロナが民営化の動きに横やり
ところが、こうした民営化の動きに水を差す深刻な出来事が発生しました。新型コロナの感染拡大です。国内経済はリーマン・ショックを上回るともいわれる大打撃を受け、コロナ不況の様相を示し始めています。
中でも、仙台市は東北電力や東京ガスなど有力企業名がうわさ話に浮上する段階まで来ていただけに、対応に苦慮しています。4月の市議会経済環境委員会では、加藤健一議員(蒼雲の会)、佐藤正昭議員(自民党)から民営化の時期を見直すよう求める意見が出ました。
仙台市は2008年にも民営化に着手しましたが、リーマン・ショックの影響もあってとん挫した経験を持ちます。今回も下手をすると同じ事態になりかねないという不安が残っているのです。
これに対し、仙台市ガス局民営化推進室は「今の時点でスケジュールを変更していないが、新型コロナの状況に大きな変化があれば、新たな対応を検討せざるを得ない」と状況によって方針変更に含みを持たせています。
神経をとがらせる各自治体の担当者
金沢市や松江市も民営化の方針やスケジュール見直しには着手していません。しかし、担当者は政府の緊急事態宣言が延長されるなど、早期の終息が見込みにくくなっている新型コロナの影響に神経をとがらせています。
思わぬ横やりが入った格好になった公営ガスの民営化を、予定通りに進めることができるのでしょうか。もうしばらくは新型コロナの状況から目を離せないようです。
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