自治体が脱炭素の旗振り役に、ゼロカーボンシティ宣言が全国で拡大中【エネルギー自由化コラム】
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2050年までに二酸化炭素の排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」が、全国の地方自治体に広がっています。7月30日現在で宣言を出した自治体は432に及び、さらに増えそうな状況。政府が目指す2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向け、強い後押しを期待できそうです。
加西市は市議会本会議で市長が宣言
兵庫県の南部、播磨平野のほぼ中央に位置する人口約4万2,000人の加西市。第三セクターの北条鉄道で市中心部へ向かうと、周囲にのどかな田園風景が広がります。瀬戸内式気候で雨が少なく、大きな河川もないため、あちこちに昔ながらの農業用ため池が見えます。
中心部の北条地区はパナソニックグループの三洋電機創業地としても知られる街です。室町時代には「田舎なれども北条は都、月に六斎(回)市が立つ」といわれるほど栄えた歴史を持ちますが、そんな加西市が2月、市議会の市長施政方針演説でゼロカーボンシティを宣言しました。
西村和平市長は「気候変動の影響は私たちが想像する以上に身近で、極めて深刻な問題だ。今後は『エネルギーの地産地消が実現された脱炭素のまち加西』を目指し、市域全体でカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めたい」と力を込めました。
公共施設の電力に再エネ由来の調達を開始
加西市は7月、市役所など市が所有する公共施設で使用する電力を再生可能エネルギー由来に切り替えるための調達を始めました。対象となる契約は高圧37件、低圧または従量電灯526件で、法人向け電力オークションサイト「エネオク」を活用して調達を進めています。
5月にはゼロカーボンシティ宣言を受け、第2次加西市地球温暖化対策地域推進計画を策定しました。市民と事業者、行政が一体になり、2050年までに「エネルギーの地産地消が実現された脱炭素のまち加西」を実現する内容です。
その前段階として2030年度までに市内で排出される温室効果ガスを2013年度比で40%削減するとしています。加西市環境課は「今後、再エネ由来の電力調達だけでなく、市を挙げて必要な施策に取り組みたい」と意気込んでいます。
宣言を機に地域社会に再エネの浸透を
ゼロカーボンシティは脱炭素社会に向け、2050年の二酸化炭素排出実質ゼロに取り組む自治体を指します。2015年に合意されたパリ協定で産業革命期からの平均気温上昇幅を2度までとし、1.5度に抑えるよう努力するとの目標が共有されました。
さらに、2018年に公表された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)特別報告書では、この目標を達成するには2050年までに二酸化炭素の実質排出量をゼロにする必要があると指摘されました。
これを受け、環境省が全国の自治体に呼び掛けを始めたのがゼロカーボンシティ宣言です。自治体が率先して脱炭素に動くことで地域社会に再エネの利用や省エネを根付かせようという思惑があります。
出典:環境省資料から筆者作成
政府のカーボンニュートラル宣言で急増
呼びかけにすぐ応じたのは東京都、山梨県、横浜市、京都市の4自治体でした。このうち、京都市は2019年、IPCC総会が京都市で開かれたのを機に、門川大作市長が「1.5度を目指す京都市アピール」を発表し、2050年までの二酸化炭素排出ゼロを目指す考えを明らかにしました。
その後、条例を改正したうえで京都市地球温暖化対策計画を策定、庁内に「1.5度を目指す地球温暖化対策推進本部」を設置して持続可能な脱炭素社会の実現に向けた地道な取り組みを始めています。
当初、他の自治体の反応は鈍かったのですが、小泉進次郎環境相の呼び掛けや菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言が後押しし、2020年10月に166自治体、2021年7月には432自治体に増えました。
環境省へ問い合わせ相次ぎ、今後も増加の見通し
環境省によると、432自治体の内訳は都道府県が北海道、神奈川県、大阪府、鹿児島県など40、市が仙台市、新潟市、愛知県岡崎市、福岡県久留米市など256、東京特別区が葛飾区、足立区、世田谷区、豊島区など10、町村が山形県川西町、福島県浪江町、熊本県球磨村、沖縄県竹富町など126です。
都道府県は秋田、茨城、埼玉、愛知、石川、山口、福岡の7県を除いて表明済みで、40都道府県の人口は1億人を超えます。表明済みの市区町村は徳島県を除く全都道府県に存在し、総人口は約6,200万人を上回っています。
環境省環境計画課は「自治体から事前の問い合わせが相次いでおり、今後も宣言自治体の増加が続きそうだ。宣言自治体には脱炭素社会の実現に向け、地域の旗振り役として貢献してほしい」と話しました。
7月は七戸町、瀬戸内町などが宣言
青森県七戸町は7月の町議会臨時会で小又勉町長がゼロカーボンシティを宣言しました。七戸町はこれまでも省エネなどの取り組みを町役場で実施してきましたが、太陽光や風力など再エネの積極的な活用を推進する方針です。
鹿児島県奄美群島の瀬戸内町も7月の町議会臨時会で宣言を出しました。鎌田愛人町長は「奄美・沖縄の世界自然遺産登録を控え、(宣言を)住民の意識向上や町の魅力強化につなげたい」とし、沿岸の藻場造成や太陽光、風力発電の導入など多彩な事業を推進する意向を示しました。
熊本県荒尾市は6月に宣言しています。市内には三井物産、ソフトバンク子会社が出資する熊本県内最大級のメガソーラーや地元企業の木質バイオマス発電所が運転中で、これら再エネ由来の電力が市の公共施設や民間企業に供給されています。さらに市役所や指定避難所に太陽光発電と蓄電池を設置、再エネを生かした防災対策も進めています。
香川県丸亀市は3月の市議会定例会で宣言を出しました。宣言に先立って丸亀市環境保全率先実行計画を改定、2030年度までに温室効果ガス排出量を2016年度比で37%削減する目標を打ち出し、実行に入っています。
再エネ拡大の課題解決も同時に必要
政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、地球温暖化対策の推進に関する法律を改正しました。脱炭素社会の構築を政府と自治体、事業者、民間団体、国民が連携して進めるとの基本理念を盛り込むとともに、市町村の実行計画策定や地域脱炭素化促進事業の認定などを新たに加えました。
カーボンニュートラル実現の推進役は国ですが、それを地域に浸透させる旗振り役を自治体が務めるわけです。自治体が持つ多数の公共施設に再エネ由来の電力を導入することは、再エネ利用を拡大するだけでなく、脱炭素化の広告塔になります。その意味でゼロカーボンシティの相次ぐ誕生は、政府にとって頼もしい援軍の出現といえるでしょう。
ただ、天候に発電量が左右される再エネ由来の電力が増える中、需給バランスをどう取るのか、高コスト体質の改善、発電所設置場所の確保など多くの課題が解決しないまま、事態が進んでいます。脱炭素化に突き進むだけでなく、こうした課題の解決も急がなければなりません。
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