日本の「先輩」であるイギリスの電力自由化はどうなっているの?
日本は電力小売りの完全自由化が2016年4月に予定されるなど、電力市場改革が進んでいますが、英国では日本に先駆けて電力自由化を達成しています。海外の中でももっとも似通った環境であり、自由化の「先輩」であるイギリスの動きを紹介することで日本のこれからの参考にしてみましょう。
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自由化の起源
イギリスの電力自由化のスタートは1980年代後半のサッチャー政権時代にさかのぼります。市場メカニズムを使って沈滞していた経済を立て直そうと、当時のサッチャー政権は国有企業にメスを入れます。そのひとつに電力事業がありました。
電力会社の再編と新規事業者の参入
1989年に電気法という法律をつくり、それまで国営だった中央電力公社(Central Electricity Generating Board =CEGB)が分割民営化され、ナショナル・パワー、パワージェン、ニュークリア・エレクトリックの3つの発電会社となり、国有配電局は地区別に12の民営配電会社に、そして送電部門であるナショナル・グリッド1社に分割されました。
自由化の進展とともに、企業の合併・買収(M&A)が活発となり、3つの大手電力会社は他の欧州のエネルギー企業に買収されました。また12の配電会社もその多くがこれらのエネルギー企業の傘下に入ることになり、5つの大手グループに集約されました。さらに旧国有ガス事業者で電力事業でシェアを伸ばしているブリティッシュ・ガスが加わって、イギリスの電力市場は6つのグループに集約され「ビッグ6」と呼ばれています。
イギリスのビッグ6
ビッグ6はイギリスのみならず大陸欧州のエネルギー企業も含まれています。具体的にはドイツのRWEとE.0Nの系列、フランスのEDF系、スペインのイベルド・ローラ系、そしてイギリスのスコティッシュ・アンド・サザン・エナジー系とブリティッシュ・ガス系の6グループです。現在、これら6大グループが小売市場の約9割、発電市場の約7割を占めています。
1990年以降、新規参入も増え、海外電力調査会の資料によると、2013年6月現在、100を超える発電会社と小売り会社が事業を展開しています。
自由化の進展
イギリスの電力自由化は1990年以降、段階的に進められました。
日本と同じ、段階的な自由化
まず1990年に契約電力1000キロワット以上の大口需要家に対して自由化が実施され、1994年には自由化対象が100キロワット以上となり、1999年にはすべての需要家である約2700万件に対して全面自由化が導入されました。
こうした需要規模ごとの段階的な自由化は、日本も同じ進め方をしています。
この結果、家庭用・産業用を含めてすべての需要家が電力の購入先を自由に選べるようになっています。小売りを行う事業者は価格競争のほか、家庭向けには電力とガスのセット販売を行っているほか、長期の価格据え置きなどのプランを用意するなど様々な形で顧客の囲い込みをはかっています。また産業用向けには需要家の細かなニーズにあわせてオーダーメード供給するなどのサービスを展開しています。
消費者の選択肢の増加
こうした競争が激化する中で、料金プランの数が増えたり、内容が複雑化したりして消費者がどのプランを選択すれば良いのかなど迷うケースも出ています。このため、Web上で乗り換えをアドバイスするサービスが提供されたり、政府の指導によって増えすぎたプランを統合してより選びやすくする努力なども行われています。
自由化の効果
電力自由化の効果で、イギリスでは一時的に電気の卸売価格は下落し、これにあわせて小売価格もあわせて下落しました。このため2000年代の初めごろまでは自由化による市場改革は一定の成果があったとみられていました。
しかしその後、天然ガス価格の上昇などで卸売価格が上昇した結果、小売価格も上昇しました。海外電力調査会によると2013年現在、平均的な電気料金は2004年比で約2倍となっています。この結果、イギリスは欧州の中でも電気料金が高い国の一つになっています。
イギリスには現在、電力市場で独占的な地位にある企業は存在せず、競争的で開かれた市場として新規参入者が増えるなど、自由化の成果は評価されています。またイギリスが積極的に外資を受け入れやすい環境にあったことも自由化の進展に有利に働いたことは否定できません。
他方で、マーケットメカニズムが働きやすい環境になったため、国際的な燃料価格の高騰の影響を受けやすいほか、世界経済の動向などの影響も受けやすいなど、不確実性に左右される側面がないわけではありません。
まとめ
英国の電力自由化の流れをみてきましたが、自由化が段階的に進んでいる今の日本と類似している点も多いことがわかります。英国の例を参考にして、評価できるところは参考にし、そうでない点は日本の実情に合わせて検討するなど日本の環境にふさわしい制度設計を行うことが重要だといえます。