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電力自由化の海外事例:ドイツの場合

海外の電力自由化事例

1998年に電力事業を全面自由化したドイツでは、その後どのような市場環境になっているのか、またドイツの消費者が電力会社を乗り換えるときには、どのようなサービスが使われているのか、弊社データ分析官のテックマン博士がご説明いたします。

2016年、日本では「電力の全面自由化」が始まります。ケンブリッジレポートとして、電力自由化の先進国であるイギリスをはじめ、フランス、イタリアとお届けしてきました。今回は、再生エネルギー普及の先進国として、日本が太陽光発電の全量買取制度(FiT:フィードインタリフ)などを参考にしているドイツの事例をお届けします。
ドイツの電力自由化編は、ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ データ分析官のテックマン博士(ドイツ出身、ロンドン大学数学博士)が担当します。

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ドイツの電力自由化概要

ドイツの家庭向け電力自由化市場は1998年に完全自由化されています。約4000万世帯、市場規模として4.5兆円もの市場開放でした。その市場はどのような状況になっているのでしょうか。

自由化により「複雑すぎる電力市場」に

残念ながら、ドイツの電力自由化は、消費者にとって成功したとは言いがたいです。
もともと、ドイツには歴史的な背景もあり、電力会社は地域ごとに供給会社がありました。現在でも、地域限定系の電力会社をメインに1100もの電力会社が、合計すると1万種類以上に及ぶ電気料金プランを提供しています。
特にベルリンやフランクフルトなどの主要都市に住んでいる消費者には、約100社近い電力会社の選択肢があります。
これでは、消費者は何を選んだらいいかわかりません。そこで本来は電力・ガス料金比較サイトの出番なのですが、その電力・ガス料金比較サイトも100以上乱立しており、また中立性にも問題があるものが多いなど、消費者にとっては本当に「複雑すぎる電力市場」のようです。

ドイツのエネルギー市場における主要プレイヤー

ドイツはシュタットベルケという地域ごとの電力会社が多数存在し、自由化後はそれらがドイツ全国に拡大しています。このシュタットベルケをもととして合併や買収により出来上がった企業である、RWE、EnBW、 E.ONの主要3社が、40%程度のシェアを有しています。その他にはスウェーデンの国営企業であるVattenfallなどがあるものの、基本的には地域電力会社のシュタットベルケやそれらが合併した企業が現在も乱立している状況です。

イギリスの事例にみられるような、通信分野やスーパーマーケットなどの異業種からの参入や、ベンチャー企業としての独立系電力会社は、ドイツ市場の主要プレーヤーの中には現在(2015年)はみられません。
後述しますが、かつて通信分野から参入したTeldafaxや、独立ベンチャーとして参入したFlexstromらが、数十万世帯の顧客をもつなど「活躍」した時代もありました。しかしながら、それらの企業は倒産し、現在の市場の上位からは姿を消してしまったのです。

ドイツの電力小売市場のマーケットシェア(2009年)


出典:BDEW

ドイツの消費者は、電気・ガス会社を変更しているのか?

それでは、ドイツの消費者は、電気・ガス会社を変更しているでしょうか?

ドイツの消費者の電気・ガスの変更比率

ドイツでは、2012年時点で電力会社を一度以上変更した家庭は28%、ガス会社を変更したのは18%にのぼります。2010年のEU統計によると、この年には1年間で約6%の家庭が電力会社を変更しています。
これは、BIG6という主要6社が熾烈な自由競争を繰り広げ、スイッチングがさかんな英国の17%に比べると低いものの、旧国営企業が依然独占的地位を築いているフランスの2.3%、イタリアの4.1%に比べると高水準といえます。

ドイツの電力会社スイッチング比率

ドイツのガス会社スイッチング比率


出典:BDEW

ドイツの電力自由化は、消費者の信頼を失っている

分析を通じて、ドイツの電力自由化における最大の問題点は、消費者の信頼を失っている点にあることがわかりました。特に、その傾向は、新電力に対して顕著で、消費者は旧来のシュタットベルケをもととする大企業に回帰しているようです。

その最大の理由は、度重なる新電力の不祥事と非中立な比較サイトの現状にあります。

前金制の要求する多くの新電力、その中には倒産したものも。

ドイツの新電力には、1年分の電力料金の前払いや、一定額のデポジットを要求するような会社も多くあります。そして、初期費用を受け取ったまま倒産してしまった新電力も、過去にあったのです。
有名なものでは、TeldafaxとFlexstromという事件ともいうべき倒産がありました。Teldafaxは、通信事業から異業種として参入した新電力で、通信(固定電話)と電力・ガスのセット販売を強みとしていました。しかしながら2006年の参入から5年後の2011年に、70万世帯の顧客(その多くがプリペイド式で前払い済)を抱えたまま倒産しました。

また、Flexstromは2003年に独立系として新規参入し、60万人の顧客を抱える最大の新電力になりました。その特徴は、「前払いをする代わりに、安い特別料金で電気を提供する」サービスでした。しかしながら、2013年に倒産し、債権者の数(電気・ガスを前払いをしたがサービスを受けられないままお金を失った消費者の数)はドイツ史上最悪、という不名誉な記録となっています。

こうした新電力系の主要企業の失敗・倒産により、その顧客は多くのお金を失いiた。そうした事例がニュースなどで伝わり、ドイツでは新電力は危険、不安なもの、というイメージが広まってしまったのです。

甘い「新規入会キャンペーン」と、不公平な電力・ガス比較サイト

ドイツの新電力は、初年度を大幅に割引を提供した「新規入会キャンペーン」を数多く展開しています。一方でその中には、小さく「いついつまでに解約しないと、自動的に契約更新」などの条項があり、翌年度からは非常に高額な料金を請求されるケースもあります。実際に、先に示したFlexstromは「1年目は非常に安い金額で提供し、いついつまでに解約しないと、その後割高な2年契約を強制させ、解約時は高い違約金を請求」といった事業モデルでした。

本来は、電力・ガスの比較サイトが中立的に消費者目線で監視し、情報を公開していくべきなのです。しかしながら、ドイツの場合は比較サイトも、新電力からの高額な紹介料支払等に目が眩んで公平性を失い、「1000ユーロも節約できます!」などと出来るはずもない宣伝をしている状態です。こうした環境から、一般消費者は他社に切り替えることのリスクを嫌い、乗り換えを控える傾向が強まりつつあります。

ドイツの電力・ガス比較サイト

では、改めて、ドイツの電力・ガス比較サイトをみていきましょう。前出の通り100以上もの比較サイトが乱立している状態です。

ドイツ電力・ガス比較サイト最大手はVERIVOX

最大手は、VERIVOX.deであり、消費者の信頼度も一番高いサイトとなっています。診断画面では、世帯人口、年間の電力使用量、郵便番号などを入力すれば、最適な料金プランを診断してくれます。特徴としては、支払オプションや違約金の有無、プリペイドの有無など複雑な契約条件を選択できることにあります。

一見、イギリスの大手電力・ガス比較サイトuSwitchなどと同様なモデルのように思われます。しかしながら、こうしたドイツの比較サイトは「公平な」診断をしておらず、比較サイトにとって利益の大きい会社ばかりを優先していると批判を集めています。

有料の電力・ガス比較サイトも

特徴的なのが、ドイツには「有料」の電力・ガス比較サイトがあることです。 Hauspilot.deというこのサイトでは、消費者は45ユーロを支払うことで、最適な電力会社の診断・切替ができます。このサイトは、利用者に課金するかわりに、公平・中立な電力・ガス会社を診断し、切替を代行することを売りとしています。また「初年度格安」ばかりに惑わされることなく、中期的にみた上での最安値を提示してくれるため、隠れた違約金などの心配も緩和されます。

こうした有料の診断サイトが出てきて人気が出ている事自体、ドイツの消費者にとって、その他の電力・ガス比較サイトがいかに不公平で、中立性のない情報を提供している(または、少なくともそう消費者に思われている)ことがわかります。こうした状況は、比較サイトの非中立性、情報の非対称性が招いた、自由化市場の失敗とも言える事例であります。

まとめ

ドイツは、歴史的な背景もあり、1000以上もの地元電力企業であるシュタットベルケが細分化された電力市場をつくっている、特殊な国であることがわかります。その中でも、自由化当初は異業種からの参入や独立系ベンチャーの新電力などもあったものの、それらが倒産し、多くの消費者の信頼を失ったことは残念な事実です。
また、本来、そうした電力会社と消費者の間にたち、公平で中立な情報を提供するべき電力・ガス比較サイトまでもが、その中立性を失い、消費者からの信頼を失ってしまっている点を考慮すると、ドイツは電力自由化の失敗事例とまで言えるかもしれません。

日本のきたるべき電力自由化に向けて、エネチェンジは公平中立な情報提供を消費者目線で届ける事により、健全で活発な電力・ガス市場の自由競争促進に貢献していきたいと思います。

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