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増え続けるFIT制度の国民負担、世界とかけ離れた高コスト体質をどう打ち破る?【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

FIT制度で再生可能エネルギーを買い取るときにかかった費用は、「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」として、各世帯が毎月の電気代の支払いで負担しています。2050年のカーボンニュートラルに向けて、国民負担を減らしつつ再エネの導入を拡大するためには、コストの削減が必要です。

経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の買取費用総額が2030年度、最大で4.9兆円に達するとした試算を公表しました。2019年度の3.1兆円から約1.6倍に膨れ上がるわけで、2017年の改正FIT法施行で国民負担の抑制を掲げたにもかかわらず、目標実現の見通しは不透明なままです。

経産省の有識者会議で国民負担増に懸念の声

「国民負担は買取価格の低下があっても、全体の低減が難しい」「このままでは再エネのさらなるコスト削減を検討しなければならない」。経産省がオンラインで開いた再エネ政策に関する有識者会議で、事務局から再エネ拡大に伴う国民負担の増加見通しが示されたのを受け、出席した委員からこれを問題視する声が上がりました。

FITは再エネ普及のため、市場価格に関係なく、電力事業者が一定期間、固定価格で電力を買い取る制度です。買い取りに要した費用の一部は賦課金として電気料金に上乗せされ、国民が負担しています。

2019年度の買取総額は3.6兆円。制度開始直後の2012年度の2,500億円に比べて約15倍に増え、消費税率1%の税収額2.8兆円を大きく超えました。2020年度の買取総額は3.8兆円と推計されています。

国民負担の増加はこれまでもたびたび問題になってきましたが、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けて再エネの導入が拡大されます。このため、委員から際限なく国民負担が増え続ける事態を懸念する声が上がったわけです。

2030年度の買取総額は最大で4.9兆円

しかし、経産省が新たに公表した試算によると、これまでに認定したFIT案件の再エネが従来通りのペースで稼働すれば、2030年度の再エネ比率が電力全体の22~24%に達します。この場合の買取総額は3.9~4.4兆円に上ります。

2015年に策定された政府のエネルギーミックスでは、2030年度のFIT買取総額を3.7~4兆円と見込んでいましたが、それを上回る見込みです。

さらに、認定済みの全案件が稼働したと仮定すると、再エネ比率は25%に上がります。その結果、買取総額も4.9兆円に達するのです。

経産省は賦課金総額を約3兆円とみています。2019年度が2.4兆円ですから、25%も増えると推計されました。電気料金に占める賦課金の割合は2019年度で産業・業務用が15%、家庭用が11%ですが、これも上昇しそうです。

FIT電力買取費用総額の推移


出典:経済産業省資料から筆者作成(2019年度までは実績、2020年度は見通し、2030年度は予測最大値)

国内は世界より太陽光で7.7円も割高

国内の太陽光や風力発電のコストは、世界と比較するとかなり高いのが実態です。米ブルームバーグによると、2020年上半期の1キロワット時当たりの国内調達価格は太陽光13.2円、風力12.9円なのに対し、世界は太陽光5.5円、風力4.8円です。国内は太陽光で7.7円、風力で8.1円も余計にコストがかかっていることになります。

FIT制度では1キロワット時当たりの発電コスト目標を太陽光7円(2025年度)、風力8~9円(2030年度)としていますが、アラブ首長国連邦では2016年、1キロワット時当たり約3円で入札されました。経産省は日照時間が長く、日本の1.5倍も設備利用率が高いうえ、大規模事業で資材調達コストが低減され、安い労働力を確保できたためとみています。

欧州は偏西風の影響で一定の西風が吹くことから、早くから風力発電に力を入れてきました。ドイツなど日本以上に高い国民負担で再エネを推進している国がありますが、欧州を挙げて工夫と努力を重ねたことから、コスト削減が進んだ一面も否定できません。

日本でもコスト削減が徐々に進んでいます。しかし、適地の減少で下げ止まり傾向も見られるようになってきました。今後、太陽光、風力とも導入拡大でさらに適地が減ると、逆にコスト増となる懸念が残っています。

厳しさを増す政府の目標達成

政府は2017年の改正FIT法施行で再エネの最大限導入と国民負担抑制の両立方針を掲げました。FIT認定を受けながら未稼働の案件排除や大規模太陽光発電への入札制度導入、中長期的な買取価格目標の設定などを柱とした内容です。

政府が掲げた2030年度の電源構成比率目標で再エネは22~24%。買い取りに要する費用を3.7~4兆円と設定し、再エネの導入を拡大しながら、国民負担を抑えるためのコスト削減を進めるとしていました。

資源エネルギー庁は当時、「平均的な家庭で毎月約800円の負担が生まれている。再エネの導入拡大と国民負担の抑制を両立させるには、効率化をよりいっそう進める必要がある」と意欲を見せていましたが、現状では目標達成が厳しくなってきています。

市場取引のFIP制度が2022年度から登場

こうした中、2022年度から新たにFIP(フィード・イン・プレミアム)制度が導入されます。再エネ発電事業者が作った電気を卸電力取引市場や相対取引で販売した際、プレミアムを上乗せして交付する制度です。従来のFIT制度が市場取引と無関係なのに対し、FIP制度は市場取引が基本となります。

売電単価に市場変動の要素を加味しつつ、プレミアムの分だけ単価を高くすることで再エネの事業性を上げ、導入拡大を後押ししようというわけです。プレミアムの原資は国民負担ですが、入札による競争がさらに進んでコストが低減され、国民負担の軽減につながることが期待されています。

政府は再エネ電源を競争電源と地域活用電源に分け、大規模太陽光や風力など一定の競争力を持つ電源に成長すると見込んだものをFIP制度へ移行させる方針です。プレミアムによる支援期間はFIT制度と同じ20年の方向で制度設計が進んでいます。プレミアムの額は市場価格の変動に応じ、一定期間で変更される見通しです。

試される政府と経済界の力量

FIT制度があるおかげで、太陽光を中心に再エネ導入が一気に進んだのは事実です。その結果、全国で多くの大規模太陽光発電が稼働を始めるなど太陽光バブルと呼ばれる状況を生みました。民家の屋根に設置された太陽光発電を見ることも珍しくなくなりました。

しかし、導入拡大に伴い、国民負担が増え続けています。FIT制度の導入当初は再エネ拡大のために買取価格を高く設定せざるを得ませんでした。その後、買取価格は少しずつ引き下げられていますが、予想を上回るペースで太陽光発電が導入されたことによる国民負担の伸びにコスト削減が追いつかない一面が見えます。

有識者会議では、委員から「再エネ拡大と国民負担の増加はトレードオフ(何かを達成するときに何かを犠牲にしなければならないこと)の関係」とし、政府によりいっそうコスト削減の努力をするよう求める声も上がりました。

2050年のカーボンニュートラルまであと20年足らず。残された時間でどこまでコストを下げ、国民負担の抑制を実現できるのか、政府と経済界の力量が試されているようです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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