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【ガス自由化コラム】決着したガス自由化の制度設計、それでも残る大きな課題とは

ガス自由化

2017年のガス自由化に向けた制度設計の議論(ガスシステム改革小委員会)が6月に一段落つきました。どんな議論が交わされたのか、残っている課題は何か、今後のスケジュールはどうなるのか、などを振り返ってみましょう。

経済産業相の諮問機関・ガスシステム改革小委員会(委員長・山内弘隆一橋大大学院教授)が、2017年4月のガス自由化(都市ガス小売り全面自由化)までに必要となる制度設計議論を終えました。経済産業省とガス業界、電力業界が自由化のあり方をめぐって激しくぶつかり合った末、多くの課題を乗り越え、都市ガス市場が競争の働く環境へ生まれ変わろうとしています。しかし、それでも地方に自由化のメリットが波及するのかという大きな課題は残ったままです。これまでの議論を振り返りながら、今後の課題について考えてみました。

導管の法的分離めぐり、意見が対立

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都市ガス小売りの全面自由化は、1995年から段階的に進められてきた制度改革の一環で、一定地域へ独占的にガス供給してきた体制を見直し、消費者が自由にガス供給会社を選べるようにするものです。
「岩盤規制を打破する」とした安倍政権の要望や天然ガス安定供給の確立など多くの目的が込められていますが、最も大きかったとみられているのは、先進国の中でも群を抜いて高いガス公共料金の是正です。

海外に比べて日本のガス料金は高い?

消費者庁によると、2014年2月現在の都市ガス料金は、55万キロカロリー使用時で日本を100とすると、米国57、英国73、フランス87、ドイツ85。消費者庁消費者調査課は「産出国から船で輸入していることや国内の導管網整備の遅れが高コストとなっている」とみています。
都市ガス
参照:2-3 公共料金の内外価格差 | 消費者庁

このため、市場の完全自由化を目指して2013年からガスシステム改革小委員会が始まりました。しかし、電力自由化と同様に市場開放したい経済産業省とこれに抵抗するガス業界が水面下で対立する格好となります。
ガス業界には「無理に自由化を進めれば、小規模事業者が耐えられない」などとする声もありましたが、委員の多くが市場改革に賛同、料金規制の撤廃と完全自由化の方向性がまず打ち出されました。

意見が対立した導管部門の法的分離は、2022年まで先送り

双方の主張が最も対立したのは、ガス大手が持つ導管担当部門を別会社にする法的分離でした。経済産業省はガス会社が導管を抱えたままなら、新規参入業者を不利に扱う恐れがあると考えました。電力と都市ガス事業者が相互に参入し合い、電力改革と足並みをそろえようとしていたからです。
これに対し、ガス業界は保安面や維持管理費の点から先送り論を展開します。議論を集約した2015年1月の報告書は「導入を方向性として前提とする、あるいは視野に入れなければならない」と玉虫色にも見える表現を盛り込んで第1幕の審議を終え、2022年をめどに大手3社の導管部門が法的分離されることになりました。

二重導管規制に対し、激しく論戦

ガスシステム改革小委員会の議論第2幕は2015年8月に再開され、今度は全面自由化に向けた詳細制度設計で論戦が続きました。下記の議題で激しい議論が交わされました。

  • 都市ガス会社の顧客に熱量未調整ガスなどを販売する二重導管の規制
  • 液化天然ガス基地の第3者利用制度
  • 小売り全面自由化後の経過措置料金規制の解除
  • マンションなどへの一括供給の可否

このうち、最大の問題点となったのが二重導管の規制です。

二重導管とは?

二重導管とは既存のガス会社が既に敷設している導管とは別に、新たな導管を設置することを指します。すでに自由化がなされている大口(工場などへの都市ガスの販売)では、新規参入をした会社が独自のガス導管を敷設して直接、ガスを届けることがあるのです。

二重導管規制が問題となる理由

そもそも、なぜ二重導管規制は議論が紛糾するのか、その理由を考えてみましょう。
既設の導管があるのに、各社が新規に導管敷設を始めると、過剰な設備投資になってガス料金の高騰につながりかねません。それを防ぐために規制されているのですが、この規制緩和が都市ガス市場に参入する電力会社のシェア確保を左右するカギとなるのです。電力業界はガス自由化で参入が最も期待されています。

その理由は都市ガス会社と電力会社が使用するガスに違いがあるからです。ガス会社は熱量が一定になるように調整していますが、電力会社は発電用に燃やしてしまうため調整していません。
調整施設が不要となるため、価格が安くなります。しかし、二重導管規制に引っかかって導管を敷設できず、タンクローリーで輸送するとなると、コストが上がってセールスポイントを失ってしまいます。
大口(工場など)の場合です。家庭に都市ガスを届ける場合は、熱量調整は必ず行われます。

二重導管規制、着地点は……

経産省は二重導管を原則として容認するとしたうえで、託送料金が上がらないよう託送供給量の一定割合以下の販売量を上限として設定する方針を固めました。その結果、打ち出されたのが「託送量の0.5%」とする上限値です。
これに対し、電力業界が猛反発しました。0.5%ではシェアを獲得できないとして、「3年間で5%」という代替案が示されます。経産省は委員から「産業競争力の強化を重視すべきだ」とする意見が出たのを受け、上限値を「3年間で4.5%」に引き上げました。この量は東京ガスエリアの場合、3年間で約7億立方メートル規模の需要になります。

液化天然ガス基地(LNG基地)の開放

液化天然ガス基地の第3者利用制度については、新規参入業者が既存利用者と同一条件、同一料金で利用できるようにしました。新規参入業者の基地利用を促すことで、競争の活性化を目指しているわけです。

自由化後にも現在のガス料金は残るのか?(経過措置料金規制)

ガス小売り全面自由化後の経過措置料金規制の解除は、都市ガスの利用率が50%を下回るなどの解除要件に達しても、特段の事情があれば解除を見送ることで一致しました。経過措置を厳しく課すことにより、不当な値上げを防止しようとしたのです。

マンションや団地などへ、一括で都市ガスを供給することは可能?

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電力会社が強く望んでいたマンションなどへの一括供給は認められませんでした。電気とガスの一括供給を目論んでいた電力会社は、事業戦略の見直しを迫られています。

こうして詳細制度設計を議論した第2幕は終了しました。電力自由化に近い形で市場競争が働く環境を整備したといえるでしょう。

ガス自由化、今後のスケジュール

経産省は今後、託送料金の審査を進めるとともに、8月からガス小売り事業者の申請を受け付け、8~9月をめどに経過措置料金を義務づける事業者を指定します。経産省資源エネルギー庁ガス市場整備課は「おおむね電力自由化のときのスケジュールに従って今後の事務手続きを進めたい」としており、託送料金は早ければ年内に認可される見込み。既存ガス会社や新規参入業者(新ガス会社)の料金メニューが打ち出されるのは、年明け以降になりそうです。

今後の予定
2016年8月
ガス小売り事業者の申請を受け付け開始予定
2016年8〜9月
経過措置料金を義務づける事業者の指定
2016年末頃
託送料金の認可がおりる
2017年1月以降
既存ガス会社や新ガス会社が自由化向けの料金メニューを発表

ガス自由化の課題は、都会と地方の格差是正へ急務となる導管整備

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ただ、課題もいくつか残っています。最大の課題と考えられるのは、大都市圏と地方の格差です。2016年4月からスタートした電力小売りの完全自由化では、新規参入業者が首都圏と京阪神に集中しました。
電力広域的運営推進機関によると、2016年6月末時点の電力会社切り替え件数は約126万件。全世帯の2%が切り替えに踏み切ったことになりますが、地域別にみると東京電力管内が約76万件、関西電力管内が約26万件で、全体の80%を占めています。ガス自由化でも同様の状況になるとみられているのです。
それは、地方は顧客が少なく、人口減少が深刻化しているため、参入しても旨味が乏しいと判断されるからです。

電気と違い、都市ガスの導管は全国に張り巡らされているわけではない

全国中に送電網が敷設されている電力と違い、都市ガスの導管網整備が大都市圏に偏っていることも、格差を広げそうです。都市ガスは国土全体の5.7%、山林や原野を除いても17.5%にしか導管が敷設されていません。東京都と愛知県名古屋市間でさえ導管で結ばれていないのが現状です。
国内にある約200のガス会社のうち、ざっと40%は外部とガス導管が接続されていない非連結ガス事業者です。非連結エリアでは、タンクローリーなどでガスを運ばざるを得ないため、連結エリアより割高料金になります。
こうした地域が自由化の恩恵を受け、大都市圏と地方の格差を是正するため、導管整備を急がなければなりません。

議論は終わりましたが、これからが本番です。2017年ガス自由化に向けて、国・既存ガス会社・新ガス会社がどんな動きをするのか、エネチェンジでは随時情報をお伝えしていきます。皆さんの情報収集に、ご活用ください。

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