関西電力の原発再稼働、関西で電気、ガスのセット販売値下げ競争再燃か【ガス自由化コラム】
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福井県高浜町の関西電力高浜原子力発電所4号機が再稼働したほか、3号機も6月上旬に再稼働する見通しとなりました。関西電力は軽減される燃料コストを電気料金引き下げの原資とする方針です。
関西では関西電力と大阪ガスがガスと電気のセット販売で激しくしのぎを削り合っており、大阪ガスは関西電力が電気料金を引き下げた場合、対抗措置を検討するもよう。一段の値下げ合戦に発展する可能性もあり、原発再稼働を機に両社の激突がさらに激しさを増しそうです。
高浜4号機は再稼働、3号機は6月に稼働予定
関西電力は高浜1~4号機のほか、福井県の美浜町に美浜1~3号機、おおい町に大飯1~4号機を保有しています。老朽化の著しい美浜1、2号機は廃炉となりますが、残り9基のうち、大飯1、2号機を除く7基が原子力規制委員会の新規制基準の安全審査を受け、大飯3、4号機以外は審査に合格しました。
稼働中 | 高浜4号機(関西電力)、伊方3号機(四国電力)、川内1、2号機(九州電力) |
近く稼働 | 高浜3号機(関西電力) |
許可済み | 高浜1、2号機、美浜3号機(関西電力)、玄海3、4号機(九州電力) |
審査中 | 泊1、2、3号機(北海道電力)、東通1号機、女川2号機(東北電力)、柏崎刈羽6、7号機(東京電力)、浜岡3、4号機(中部電力)、志賀2号機(北陸電力)、大飯3、4号機(関西電力)、島根2号機(中国電力)、東海第二、敦賀2号機(日本原子力発電)、大間(電源開発) |
出典:電気事業連合会
高浜4号機は5月17日に再稼働、高浜3号機は6月上旬に再稼働予定
このうち、高浜3、4号機は2015年、安全審査に合格し、翌年再稼働しましたが、大津地裁から運転差し止めを命じる仮処分決定が出るなどして停止していました。しかし、大阪高裁が3月、大津地裁の決定を取り消したことから、5月17日に高浜4号機を再稼働させました。高浜3号機は6月上旬に再稼働の予定です。
高浜3、4号機の出力はそれぞれ87万キロワット。再稼働当日、高浜4号機の現場から無事に原子炉起動の報告を受け、関係者はほっと胸をなで下ろしていました。
大飯3、4号機も再稼働させたい意向
関西電力は高浜3、4号機以外で大飯3、4号機を再稼働させたい意向です。大飯3、4号機は2月、原子力規制委が安全審査に事実上合格したとする審査書案をまとめており、正式手続きを経て再稼働させるとしています。
大飯原発の出力は1,2号機がそれぞれ117.5万キロワット、3、4号機がそれぞれ118万キロワットと高浜原発より大きいこともあり、関西電力は今後、安全審査未申請の大飯1、2号機の審査に向けた準備も進めるとみられています。
年 | 出来事 |
---|---|
1985 | 3、4号機が営業運転を開始(1~6月) |
2011 | 東日本大震災で東京電力福島第一原発事故(3月)。4号機が定期検査で停止(7月) |
2012 | 3号機が定期検査で停止(2月) |
2015 | 新規制基準の安全審査に3、4号機が合格(2月)。福井地裁が3、4号機の運転差し止めを命じる仮処分決定(4月)。福井地裁が仮処分決定を取り消し(12月) |
2016 | 3号機が再稼働(1月)。4号機が再稼働し、直後のトラブルで停止(2月)。大津地裁が3、4号機の運転差し止めを命じる仮処分決定、3号機が停止(3月) |
2017 | 大阪高裁が大津地裁の仮処分決定を取り消し(3月)。4号機を再稼働(5月) |
出典:関西電力ホームページなどから筆者作成
原発停止と大阪ガスの攻勢で厳しい経営
関西電力は電力大手の中で最も原発依存度が高く、電源に占める原発依存度が50%を超すこともありました。東日本大震災後の電力不足を補うため、他の電力会社から融通を受けたほか、停止していた和歌山県の海南火力発電所を稼働させるなどして対応しています。
火力燃料費が膨らみ、苦しい経営へ追い込まれる
しかし、火力燃料費が膨らみ、2013年と2015年に電気料金を値上げしたものの、2015年3月期決算まで4期続けて最終赤字を計上しました。2016年3月期からは原油安のおかげで黒字転換できましたが、2017年3月期は5,235億円の火力燃料費計上を余儀なくされています。原油価格の上下に一喜一憂する苦しい経営に追い込まれているわけです。
大阪ガスに32万件の顧客を奪われる
そんな中、2016年4月に電力小売りの全面自由化を迎え、電力小売に新規参入した大阪ガスに1年余りの間に32万件の顧客を奪われました。4月の都市ガス小売り全面自由化で反撃態勢に入りましたが、経営が厳しい状況に変わりありません。
この結果、2017年3月期の電力販売量は前期より4.7%少ない1,215億キロワット時にとどまりました。電力販売量は長く東京電力に次ぐ業界2位を占めてきましたが、初めて中部電力に追い抜かれ、業界3位に転落しています。
秋に大飯3、4号機の再稼働を計画
4基の再稼働で生まれる収支改善効果は、月に170億円程度と見積もられています。岩根茂樹社長は記者会見や決算発表の席で「高浜3、4号機と大飯3、4号機を再稼働させ、燃料費メリットを電力利用者にお返ししたい」との方針を繰り返し説明してきました。
夏ごろに第1弾の電気料金値下げ、秋ごろに第2弾の値下げに踏み切りたい考え
夏ごろをめどに高浜3、4号機の再稼働を受けた第1弾の電気料金値下げを実施し、秋ごろに大飯3、4号機の再稼働に伴う第2弾の値下げに踏み切りたい考え。関西電力は「値下げ幅については今後検討する」としていますが、数%程度になるとの見方も出ています。
値下げと電気・ガスのセット販売で大阪ガスに対抗
関西電力はガス自由化で大阪ガスより安い料金を打ち出したところ、大阪ガスが対抗して値下げしてきたため、より安いプランを再提示して価格競争に乗り出しました。
さらに、LP(液化石油)ガス大手の岩谷産業と連携し、販売促進や保安面の拠点となる「関電ガスサポートショップ」を関西一円に80店開設、約300人のスタッフで営業攻勢をかけてきました。
今後は2度にわたる電気料金の引き下げで大阪ガスに差をつけ、電気とガスのセット販売でより優位に立とうとしているようです。関西電力は「コスト削減分を還元し、顧客のニーズをつかみたい」と語っています。
大阪ガスは対抗措置を近く検討
電気の販売では初年度目標の20万件を大きく突破したものの、本業の都市ガスでは4月13日現在で家庭向けを中心に13万件の顧客を奪われています。本荘武宏社長は記者会見で「(関西電力の電気料金に)値下げがあったときは料金やサービスメニューなどを総合的に比較し、必要に応じて価格を検討したい」と述べました。
今後、値下げ競争に踏み込むか
これまでは価格面で勝負してくる関西電力に対し、給湯器の故障といった住まいのトラブルに無料で修理に駆けつけるなどのきめ細かいサービスで対抗してきました。傘下のサービスショップの担当者が地域をくまなく回り、膝をつき合わせて売り込んでいます。
しかし、原発再稼働を受け、関西電力の出方をうかがいながら、値下げ競争に踏み込まざるを得ないという思いも持っているようです。大阪ガスは燃料費が安価な石炭火力をベースロード電源に考えています。鉄鋼大手の中山製鋼所と共同出資した石炭火力発電所が愛知県武豊町で夏に稼働する見込みです。
大阪ガスは「それだけでは値下げの原資に足りない」としていますが、燃料費が割高な天然ガス火力発電所の稼働を抑えることで生じるメリットを値下げに利用することも考えているとみられています。
原発が生む電力、利用者の選択は未知数
ガス自由化は盛り上がりに欠くといわれていますが、関西だけは長年のライバル企業である関西電力と大阪ガスの一騎打ちで「大阪の陣」と呼ばれるほど熱を帯びています。この激しい販売競争は夏以降、第2、第3の局面に突入しそうです。
関西電力の値下げ幅や大阪ガスの手の内はまだ明らかになっていませんが、こうした競争が利用者のメリットになっていくことは間違いありません。
ただ、原発再稼働による電気料金値下げがどれだけ効果を上げるかは未知数です。顧客の中には原発への不安から、あえて新電力に移行した人も少なくありません。原発に左右される電力大手の経営構造がいまだに変わらないことも、自由化であぶり出されました。利用者はどのような選択を下すのでしょうか。
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