水素を船の動力源に、岩谷産業や日本郵船など実用化計画が相次いでスタート【エネルギー自由化コラム】
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岩谷産業と関西電力などが水素を動力源とする燃料電池船の実用化に向け、本格的な検討を始めました。2025年の大阪・関西万博で会場となる大阪市此花区の人工島・夢洲と大阪市中心部を結ぶ旅客船を運航し、世界に脱炭素をアピールする計画です。日本郵船や川崎重工業なども水素を燃料とする燃料電池船の実証実験に向け、準備を進めています。究極のクリーンエネルギーといわれる水素で船を動かす新しい時代の足音が高まってきました。
岩谷産業、関西電力など約10の企業、研究機関が参画
岩谷産業、関西電力などが検討を始めた水素を燃料とする燃料電池船は、全長約30メートル、総トン数約60トンで、100人ほどが乗船できる旅客船となる見込みです。速度は約9ノット、時速20キロほどです。
燃料電池を搭載して水素と空気中の酸素を反応させ、電気を作って動力源にします。航海中に二酸化炭素を排出しないのが最大の特徴です。このタイプの船は騒音や振動が小さく、観光船や旅客船に向いているともいわれています。
岩谷産業が水素を供給するとともに、燃料電池車向け水素ステーションで培ったノウハウを生かし、船舶用の水素ステーションを開発します。関西電力は効率的な充電システムの開発などに尽力します。建造や資金面では、日本政策投資銀行、名村造船所、東京海洋大などが協力します。参画は合計約10の企業、研究機関となる見込みです。
大阪・関西万博でお披露目の商用運航を計画
お披露目は2025年に大阪市の夢洲を会場にして開催される大阪・関西万博とする計画。夢洲と大阪市中心部の観光地を結ぶ旅客船として商用運航し、世界に脱炭素化の進展をアピールする考えです。
大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに184日間開催されます。日本国際博覧会協会は約2,800万人の来場と、約2兆円の経済効果を見込んでいます。水素を動力源とする本格的な旅客船の登場は、万博の目玉の1つとして期待が高まりそうです。
関西電力とともに事業の中心となる岩谷産業は、1941年に水素の取り扱いを始めて以来、製造から輸送、貯蔵、供給、保安までの一貫した全国ネットワークを構築してきました。2006年には堺市に国内で初めての液化水素製造プラントを建設し、現在は全国の3拠点、6プラントで年間1億2,000万立方メートルの液化水素を製造しています。
岩谷産業は「世界中の人々に水素エネルギーの可能性をPRし、海上輸送のゼロエミッション化に貢献したい」と意気込んでいます。
日本郵船は川崎重工業、日本海事協会などと旅客船の建造へ
日本郵船は東芝エネルギーシステムズ、川崎重工業、日本海事協会、エネオス(ENEOS)と共同で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、高出力燃料電池を搭載した旅客船建造を計画しています。
中型観光船クラスの全長約25メートル、150トン級を建造する方針で、100人程度の旅客定員を見込んでいます。複数の燃料電池を組み合わせた高出力燃料電池を実装し、水素燃料供給システムや燃料電池と蓄電池を組み合わせたエネルギーマネジメントシステムの開発を進めます。船形も燃料電池を動力とするのに最適のものを新たに設計する計画です。
日本郵船が船の設計、東芝エネルギーシステムズが高出力燃料電池の開発、川崎重工業が船内水素燃料供給システム、日本海事協会が安全性評価、ENEOSが船向けの水素燃料供給システムを開発するなど、役割を分担することになりました。
日本郵船などの実証実験スコープ(日本郵船提供)
目標は2024年に実証運航に入り、2030年前後の内航貨物船実用化
2020年9月から実行可能性調査に入っており、2021年から船と水素供給システムの設計に着手、2023年から船の建造に入る予定。建造から運航、水素の供給まで手掛けるのは日本初の取り組みで、2024年に横浜港沿岸で実証運航に入り、実証運航船をベースにして2030年前後に内航貨物船として実用化させたい考えです。
水素を動力源とした燃料電池で動くことにより、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量をゼロにできます。日本郵船は「高出力の燃料電池を搭載した船の開発を通じ、温室効果ガスの排出削減、水素社会の実現に貢献したい」と意欲を見せました。
世界貿易の海上輸送で年間約8億トンの二酸化炭素排出
世界の貿易の99%以上が船による海上輸送で行われています。船の燃料は84%が重油、13%がディーゼル油、3%が液化天然ガスで、年間に排出される二酸化炭素は約8億トン。この量は南米・アマゾンの熱帯雨林が吸収する二酸化炭素量の約8割に相当します。
国内では、環境にやさしいはずのバイオマス発電を推進するため、東南アジアなどの途上国や北米、ロシアなどからパーム油、ウッドチップなどを輸入していますが、海上輸送の船が化石燃料で運航していることから、大量の二酸化炭素を輸送段階で排出する皮肉な事態が問題化しています。
こうしたこともあり、国際海事機関海洋環境保護委員会は2018年、2030年の二酸化炭素排出量を2008年比で40%減、2050年を50%減とし、21世紀中に排出ゼロを目指す目標を打ち出しました。
船への水素活用、政府のアクションプランに
この目標を達成するため、短期的には二酸化炭素排出量が化石燃料の中で最も少ない液化天然ガスの導入、長期的には二酸化炭素の排出をゼロにできる水素の利用が挙げられています。
日本政府も2019年に策定した水素・燃料電池技術開発戦略で水素社会実現に向けた産学官のアクションプランとして乗用車以外の燃料電池システム活用が課題に挙げました。その中には船への活用が含まれています。
しかし、水素はコストを抑えて安定供給するためには、多くの課題が残っています。化石燃料から生産したのでは、製造段階で二酸化炭素を排出します。船に限定しても水素を燃料とする大型の船はまだ実用化されていません。
成功すれば水素社会の実現に大きな一歩に
水素を燃料とする船はこれまで、小型の漁船クラスの小さな船で開発されてきました。戸田建設と日本海事協会、長崎総合科学大などは2015年、全長約13メートル、重量5.2トンほどの燃料電池船を開発しました。長崎県五島市沖に設置された洋上風力発電の余剰電力を活用して燃料の水素を製造しています。
しかし、1回の航行可能時間は約2時間。定員も12人しかなく、小型漁船クラスの規模です。船を大型化したうえで、より高性能で高出力の燃料電池を搭載し、性能を向上させることが求められていたのです。
岩谷産業、関西電力のグループと日本郵船のグループが計画する船は、これまで開発されてきた規模の船より一段と大きく、性能も大幅にアップする予定です。国際貿易を担う大型船開発の前段階と位置づけられ、成功すれば船への水素利用が大きく前進することになりそうです。
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