燃料電池を鉄道に利用、JR東日本、トヨタ、日立が試験車両を共同開発へ【エネルギー自由化コラム】
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JR東日本とトヨタ自動車、日立製作所は水素をエネルギー源とする鉄道用ハイブリッド試験車両の共同開発で合意しました。水素はエネルギーとして使用する際に二酸化炭素を排出しないことから、「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれています。実現すれば脱炭素社会の建設にとって大きな前進となりそうです。
3社が持つ鉄道と自動車の技術を融合
試験車両は水素タンクや燃料電池、蓄電池を装備した2両1編成。水素タンクから水素が燃料電池へ供給され、空気中の酸素と化学反応して発電します。燃料電池で発生させた電力とブレーキを作動した際の回生電力は蓄電池に充電されます。燃料電池と蓄電池の両方からモーターに電力を供給し、車輪を動かせるのです。
ドイツで仏アルストム社製の燃料電池車両が2018年から営業運転していますが、試験車両は燃料に大気圧の約700倍に当たる70メガパスカルの高圧水素を世界で初めて使用します。装備される水素タンクは51リットル5本のユニットが4つ、燃料電池は出力60キロワットを4つ、蓄電池は120キロワット時のリチウムイオン電池を2つ備えます。
最高速度は時速100キロで、1回の高圧水素充填による航続距離が最大約140キロ。車両の設計と製造はJR東日本、燃料電池は燃料電池車の「MIRAI(ミライ)」や燃料電池バス「SORA(ソラ)」を開発したトヨタ自動車、蓄電池と電力変換装置は日立が受け持ちます。3社が持つ鉄道と自動車の技術を融合し、燃料電池を鉄道に応用するわけです。
実証実験は2022年3月ごろに神奈川県で
試験車両の名前は「HYBARI(ひばり)」です。燃料電池と蓄電池のハイブリッド車両をイメージして命名しましたが、冒頭の「HY」には水素(Hydrogen)、「HYB」にはハイブリッド(Hybrid)の意味を込めています。
デザインは青を中心とした色合いで、燃料電池の化学反応で生まれる水を碧(あお)いしぶきと大地を潤すイメージでとらえ、スピード感と未来感を持たせるデザインに仕上げました。ロゴは春を告げる鳥として知られるひばりをイメージし、車体の前面や側面を飾ります。
実証実験は2022年3月ごろから神奈川県の南武線や鶴見線の一部で神奈川県と横浜市、川崎市の協力を得て実施する予定です。JR東日本は「実験を続けながら、どの段階で次のステップとなる営業車両を実現できるか、考えたい」としています。
JR東日本、日立、トヨタ自動車発表資料より
JR東日本は二酸化炭素排出ゼロ目標達成へ大きな一歩
JR東日本は「ゼロカーボン・チャレンジ2050」という新たな目標を打ち出しています。2019年度でグループ会社を含めて245万トン排出している二酸化炭素を2050年度に実質ゼロとする計画です。
この目標を達成するために、風力発電など100万キロワット以上の再エネ開発、東京・品川の開発プロジェクトでの需給一体型エネルギーマネジメント導入、2020年度から秋田県の男鹿線で展開する蓄電池車両の導入などとともに柱と位置づけているのが、水素の利用です。
燃料電池を使った鉄道車両や自動車、トラック、バスの導入、水素ステーションの開業、神奈川県の川崎火力発電所での水素利用などを掲げています。JR東日本は「脱炭素社会を実現することが試験車両開発の最大の目的だ」と語りました。
トヨタは燃料電池のすそ野拡大に期待
トヨタ自動車は2014年に世界初の燃料電池車となるミライを発売しました。自動車産業が脱化石燃料という大きな課題に取り組まざるを得ない状況に追い込まれる中、競合他社の多くが電気自動車に挑んでいるのを横目に、燃料電池車で勝負する姿勢を示したのです。
しかし、販売台数は国内で3,000台余りにとどまっています。次世代自動車振興センターによると、全国の水素を充填するステーションの数は10月末で135カ所。電気自動車が急速充電で30分、普通充電5~8時間かかるのに対し、燃料電池車は3分で水素充填が可能です。それでも、水素ステーションの少なさが響き、販売が伸び悩んでいます。
水素ステーションの拡充には水素利用を増やさなければなりません。このため、トヨタ自動車はさまざまな業界と連携を進めてきました。セブン-イレブン・ジャパンと手を組み、燃料電池トラックで商品を店舗に届けているのをはじめ、燃料電池バスやフォークリフトもグループで売り込んでいます。ともに燃料電池利用のすそ野を広げるのが目的です。
今回の鉄道での利用もその一環といえます。ローカル線の非電化区間はディーゼルエンジン車が今も主役です。この区間に燃料電池車が走れば、二酸化炭素排出ゼロに大きく近づくだけでなく、燃料電池の新時代が開けることにもなるのです。
政府も脱炭素社会実現に向けて推進を加速
政府も脱炭素社会を築く新エネルギーの1つとして水素に注目しています。2014年に水素社会の実現に向けた取り組みの加速を第4次エネルギー基本計画に盛り込んだのに続き、2017年には水素基本戦略を策定し、2030年までの行動計画を示しました。
水素が酸素と化学反応したあとには、水が残るだけです。二酸化炭素など地球温暖化の原因となる温室効果ガスや有害物質を排出しません。水素の確保も水の電気分解や天然ガスなどの化石燃料、森林資源や廃材などのバイオマス、工場で発生するガスなど多方面から可能です。
国内で水素の低価格化がまだ実現していないところが大きな課題となっていますが、石油のように特定地域の紛争で資源調達が困難になることもありません。
車以外では、水素と酸素で電気と熱を作る家庭用燃料電池が2019年時点で約30万台普及しています。豊田自動織機の燃料電池フォークリフトは2019年度末で累計約250台が販売されました。
欧州諸国は導入へ急ピッチで取り組み
政府内には技術開発面で危機感があります。日本はトヨタ自動車や川崎重工業を筆頭に水素利用のトップランナーでしたが、ここに来て欧州諸国や中国が積極的な動きを見せているからです。
中でも欧州連合(EU)は7月、2030年に再生可能エネルギーから製造する水素の量を1,000万トンとする目標を立てました。水素基本戦略で日本が示した目標値は2030年で30万トン。2桁も違う目標が打ち出されたわけで、用途も燃料電池のほか、製鉄所での利用、化学工場での工業原料、都市ガスへの混入など幅広く設定しています。
ドイツの大手鉄鋼メーカー・ティッセン・クルップは8月、石炭の代わりに水素を使用する鉄鋼生産プラントの建設を始めました。英国の都市ガス大手・カデントは3月、5億ユーロの調達を目的とする社債を発行、都市ガスに水素ガスを混入するための導管整備などを進める方針を明らかにしています。
鉄道車両への利用でも先を越されているだけに、このままでは水素利用のトップランナーの地位を明け渡すことになりかねません。今回の鉄道への活用は日本の技術開発の反撃という点でも、注目を集めそうです。
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