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苦戦が続く全国の自治体新電力、冬の卸売価格高騰や激しい競争が影響【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

自治体新電力の多くは地産の電力が確保できず、卸売市場で調達した電力に依存しているため、卸値価格の影響を受けやすくなっています。自治体新電力の経営の現状と課題などについて解説します。

2016年の電力小売り全面自由化後、地方自治体の出資で相次いで設立された自治体新電力が苦境に立たされています。電力大手などとの競争激化や今冬の卸売価格高騰で経営が圧迫されたためです。自治体新電力の多くは電力の地産地消とともに、出資自治体の財源確保を狙ってスタートしましたが、当初の見通しは外れてしまいました。

草分けのみやまスマートエネルギーは一時債務超過に

2015年に設立された福岡県みやま市のみやまスマートエネルギー。みやま市の第三セクター会社で、自治体新電力の草分けとして大きな注目を集めながら、スタートを切りました。

他の自治体新電力設立に手を貸すなど派手な動きを全国で見せ、話題を振りまくとともに、複数の新電力で電力調達や需給ギャップの管理を一括して進める方向で全国的な事業展開の動きを見せていました。

しかし、地元で思うように契約を獲得できず、一時債務超過に。さらに、社員の超過勤務をめぐり、労働基準監督署から是正勧告を受けるなど混乱を重ねました。それでも、西原親前市長の在任中は経営体制に変更なく、運営を続けていましたが、2018年の松嶋盛人市長登場でみやま市が経営にメスを入れることになりました。

体制一新も冬の卸売価格高騰で営業赤字

みやま市が調査チームを設置し、経営内容を精査したところ、当時の社長が社長を兼務するみやまパワーホールディングスに電力需給管理などを委託した手続きに不備があり、利益を損ねた可能性があるとする報告書が2020年にまとまりました。会社法では同一人物が社長を務める会社間の取引は「利益相反取引」と呼び、問題があるとされます。

これを受け、当時の社長は辞任しました。後任には元みやま市環境経済部長の横尾健一氏が就き、事業の全国展開から地元の新電力として地域に根差した活動に戻りました。みやまパワーホールディングスはみやまスマートエネルギーの株式の40%を保有していましたが、みやま市が買い取っています。

しかし、今冬の卸売価格高騰により、2月末時点で約2億円の営業赤字が出ました。しかも、九州電力の営業攻勢で大口高圧の顧客が離れています。

みやま市エネルギー政策課は「どうにか営業を継続しているが、もう一度、価格高騰が起きれば、経営破たんしかねない状態で、新体制の出ばなをくじかれた。これから地域密着で巻き返したい」と厳しい口調です。

地産電力確保せず、卸売市場に依存

地域資源の地産地消を目指して設立されたローカルグッド創成支援機構によると、2020年2月までに電力供給を始めた自治体新電力は約40社に上ります。東京都環境公社など電力供給をしているものの、主力事業が別の自治体出資、関連団体を含めると、さらにその数は増えます。

地方は今、急速な人口減少と高齢化の進行で税収の先細りが予想されます。国の財政難から地方交付税や補助金は減少してきました。そこで、目をつけたのが新電力。電力販売で得た利益を寄付金などとして自治体の歳入に組み入れようとして自治体新電力の設立が相次いだのです。

大半は出資を受けた自治体の公共施設を主な顧客としていたため、安定した収入源を持っていました。しかも、地方で自治体の信用は絶大です。それが契約に結びつくと高をくくり、地産電力の確保も十分でないまま、卸売市場で調達した電力に依存して事業を進めるところが増えていきました。

電源に占める地域再エネ電力の割合

出典:ローカルグッド創成支援機構全国アンケート調査(回答28社)

延岡市議会は新電力設立関連予算を削除

そんなときに起きたのが今冬の卸売価格高騰です。1キロワット時当たりの年間平均価格11.8円が10倍以上の150円以上にはね上がりました。電気を売れば売るほど赤字がかさむ状態です。

その結果、秋田県鹿角市のかづのパワーは2月、全事業停止に追い込まれました。不足した資金は約3200万円。出資している鹿角市が損失穴埋めの支援策を予算に盛り込み、補てんすることになっています。

宮崎県延岡市が歳入確保の目的で提案した自治体新電力設立の関連予算は、3月定例市議会で補正予算案から削除されました。読谷山洋司市長は予算案の再議を求めましたが、市議会は臨時会で自治体新電力関連予算を削除した予算案を再び可決しています。今冬の卸売価格高騰もあり、自治体新電力の安定経営に不確定要素があるというのが理由です。

それでも、延岡市新財源確保推進室は2021年度中に自治体新電力を設立したい意向で、「できるだけ早い時期に予算案を再提出したい」としていますが、新電力を設立できるかどうかは予断を許さないようです。

いこま市民パワーは調達先をみんな電力に切り替え

再エネ比率の拡大でいこま市民パワーの新しい道を切り開こうとしている奈良県生駒市役所(筆者撮影)

自治体新電力の中には、新たな道を進み始めたところがあります。奈良県生駒市が出資したいこま市民パワーです。2017年の設立以降、自前の太陽光など再生可能エネルギー以外のバックアップ電力を大阪ガスから調達してきましたが、4月からみんな電力に切り替えました。

大阪ガスはいこま市民パワーに34%出資していました。しかし、今は出資金を引き上げ、派遣していた役員も退任しています。いこま市民パワーの社長を務める小柴雅史生駒市長は3月末の記者会見で「今後、新たに出資してくれるところを募ることになると思う」と見通しを語りました。

いこま市民パワーは大阪ガスから長期契約で電力を調達していたおかげで、今冬の卸売価格高騰の影響を受けずに済みました。それをあえて切り替えるのは、再エネ比率を高め、価格も含めて有利な条件で電力を調達するためです。

調達電力に占める再エネ割合は約80%に

いこま市民パワーが2020年にまとめた中長期計画では、バックアップ電力の調達先選定で価格と供給の安定性、再エネ比率などを総合的に勘案するとしています。公募で複数社から見積もりを取った結果、2019年度の電源構成で80.4%を再エネが占めるみんな電力を選びました。これにより、電源に占める再エネ割合は約80%に上がる見込みです。

収益は地域課題を解決するサービスの提供に活用しています。2019年には市内の全小学校で児童の見守りサービスを導入、登下校の児童が校門を通過すると保護者に通知メールが届くようにしました。

生駒市SDGs推進課は「当初は経営安定のために大阪ガスの力を借りたが、これからは再エネを拡大し、地域課題解決の予算を捻出する次のステップへ進みたい」と話しています。

地に足をつけて事業を進めることが必要

生駒市のように自治体新電力の収入を新たな財源とし、政策目標実現に向けて使いこなせているところはそう多くありません。ローカルグッド創成支援機構が2020年に実施した全国アンケート調査では、全電源に占める地元の再エネ電力の割合は平均36%。エネルギーの地産さえできていないのが実情です。

しかも、大半の業務を外注しているため、地元雇用はわずかで、十分な経済効果をもたらしたとはいえません。経営ノウハウの蓄積も進んでおらず、経営の素人である自治体主導で事実上運営されているのです。

「電力販売なら大きなリスクはないと思って出発したが、大間違いだった」。九州の自治体担当者は悔しそうに語りましたが、卸売市場で調達した電力を自治体の名前で販売すれば、素人でも商売できるという甘い考えがなかったとはいい切れないでしょう。

自治体新電力が破綻すれば、つけを払うのは住民です。自治体は地産地消の原点に立ち返り、地に足をつけて事業を進める必要がありそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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