マンションもゼロエネルギー時代、ZEHの太陽光と高断熱で消費相殺【エネルギー自由化コラム】
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太陽光発電など再生可能エネルギーによる創エネと徹底した省エネにより、実質的なエネルギー消費をゼロに近づけたZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)が、マンションにも広がってきました。いわゆるZEH-M(ゼッチマンション)で、経済産業省が5月、集合住宅向け基準を策定したのを受け、大京、西松建設など多くの大手業者が全国で工事を進めています。今後、参入を予定する業者も多く、2018年はZEH-M元年となりそうな状況です。
芦屋の住宅街に中層住宅初のNearly ZEH-M(ニアリーゼッチマンション)
Nearly ZEH-Mは断熱性能の向上などによる省エネルギーと太陽光発電などで生み出す創エネルギーでエネルギー消費量を75%以上削減したものです。芦屋グランフォートは中層集合住宅として初めて建築物省エネルギー性能表示制度の評価書を受けました。
総戸数は79戸。間取りは2LDKから4LDKで、専有面積が67.96~120.80平方メートル。現場では徐々にマンションの形が見えるようになってきており、7月から販売を始めました。2019年5月に完成し、翌6月から入居が始まる予定です。
断熱に工夫し、全戸平均32%の省エネを実現
断熱性能向上では、最も熱が逃げやすい開口部に一般的な断熱サッシではなく、寒冷地仕様と同じアルゴンガス封入の複層ガラスを採用しました。
枠幅も拡大して従来の倍以上の断熱性を確保するとともに、通常は日射を弾くために外側に施す特殊金属膜コーティングを内側にし、冬に日射を取り込めるようにしています。さらに、六甲山系から吹き込む風を玄関脇に設けられたスリットから取り込み、各部屋のガラリを通してリビングのサッシから抜く工夫も施しました。
内断熱は通常、梁など熱橋部分にしか入れませんが、床と天井すべてに導入しました。厚さは55ミリで、通常の20ミリの3倍近くになっています。これに家庭用燃料電池、LED照明なども加え、全戸平均32%の省エネを実現できるよう設計されました。
屋上にはびっしりと創エネ用の太陽光パネル
創エネの柱になるのは、屋上にびっしりと並べる太陽光パネルです。専有面積に応じて各戸に割り当てられます。これにより、1次エネルギー48%に相当する創エネを実現する計画です。
各戸には家庭用燃料電池のほか、蓄電池も備わっています。日中は太陽光発電1.5キロワット、家庭用燃料電池0.7キロワット、専有部蓄電池0.5キロワットを合わせ、最大2.7キロワットの電力を使用できます。
夜間は家庭用燃料電池0.7キロワット、専有部蓄電池0.5キロワットを合わせた最大1.2キロワットの電力使用が可能になります。
災害時にライフラインが絶えても1週間は生活可能
災害時に電気やガス、水道といったすべてのライフラインが途絶えても、1週間生活できるのも、このマンションの特徴です。余剰電力を使って生活に必要な電力を確保するとともに、井戸水を各階までポンプで運び、トイレなどに使えるようにしています。
平常時は日中に太陽光で発電した電力を蓄電池にため共用部の電力使用量を削減します。加えて井戸水は植栽向けの自動灌水システム、共用部散水に利用することで維持管理費の低減に役立てます。
大京グループは経産省の高層ZEH-M実証事業に採択され、横浜市や広島市、沖縄県宜野湾市など全国10カ所で地上6~15階建ての高層ZEH-Mを建設します。大京は「ZEH-M基準の集合住宅を積極的に事業化し、快適な暮らしと低炭素社会の実現を目指したい」と力を入れています。
高層化するほどパネル不足が障害に
ゼロエネルギー住宅は戸建住宅で先に広がりました。政府は2020年までに新築の過半数をゼロエネルギー住宅にする目標を掲げています。
ところが、マンションなど集合住宅のゼロエネルギー化は遅れていました。戸建住宅は屋根全体に太陽光パネルを置けば家庭の消費をまかなう電力を簡単に作れますが、集合住宅だと階数が増えれば増えるほど1戸当たりの発電量が減るからです。
低層にすれば1戸当たりの発電量を確保できても、事業として成り立つには一定の戸数が必要です。住宅事業者にとってこの点が大きなジレンマになっていたのです。
経済産業省が4段階の定義を策定、実証実験も開始
共用部分を含む住棟全体での削減率 | 住戸での削減率 | |||
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ZEH-M(ゼッチマンション) | 再エネ除き20% | 再エネ含み正味100%以上 | 再エネ除き20% | 再エネ含み正味100%以上 |
Nearly ZEH-M(ニアリーゼッチマンション) | 再エネ含み正味75%以上100%未満 | 再エネ含み正味75%以上100%未満 | ||
ZEH-M Ready(ゼッチマンションレディ) | 再エネ含み正味50%以上75%未満 | 再エネ含み正味50%以上75%未満 | ||
ZEH-M oriented(ゼッチマンションオリエンテッド) | 再エネの導入は必要ない | 再エネの導入は必要ない |
出典:経済産業省資料から筆者作成
そこで、経産省は5月、ZEH-Mの定義を策定しました。認定を受けるには省エネ率20%以上が絶対条件で、再生可能エネルギーを含めたエネルギー削減率が100%以上をZEH-M、75%以上をNearly ZEH-M、50%以上をZEH-M Ready(ゼッチマンションレディ)、それ以下をZEH-M oriented(ゼッチマンションオリエンテッド)と規定しています。
さらに、補助金を投入して6階以上の高層ZEH-M実証実験をスタートさせました。実証実験に採択され、補助金を受けるのに必要なデベロッパー登録したのは、大京、野村不動産、三菱地所レジデンスなど24社。実証実験も15事業が採択されました。ようやくZEH-Mの建設が本格的に進み始めたわけです。
ZEH-Mは基準をクリアするために投資額が大きくなるため、物件価格が高くなりますが、入居者の電気代負担が軽減されます。人口減少時代を迎え、マンション販売の先行きが不透明になる中、新たな付加価値と期待する業者も少なくありません。
名古屋や札幌でも建設工事が続々と
大京以外では、住宅大手の積水ハウスが名古屋市千種区菊坂町で全住戸ZEH-M基準を満たす「グランドメゾン覚王山菊坂町」を建設しています。鉄筋コンクリート地上3階建て総戸数12戸の邸宅型マンションで、2019年2月に完成する予定。徹底した断熱性能向上と太陽光発電、家庭用燃料電池のフル活用で基準を満たしています。
準大手ゼネコンの西松建設は8月末から札幌市で北海道初のNearly ZEH-M建設に着工しました。軽量鉄骨2階建てのメゾネットタイプマンションで、A、Bの2棟あり、総戸数12戸。2019年1月に完成する予定です。冬が長く、日照時間が短い北海道の気候に太陽光発電と高断熱化で挑みます。
西松建設が札幌市豊平区で建設工事に入ったZEH賃貸住宅の完成イメージ(西松建設提供)
西松建設は「このマンションで得られた知見やノウハウをビルや大型マンション建設に生かしたい」と意欲を見せています。
マンションへの普及、温室効果ガス削減の鍵に
環境省によると、日本の二酸化炭素排出量は2016年度で約12億600トン。このうち、16%を家庭部門が占めました。35%を占める産業部門や18%の運輸部門は21世紀に入って減少傾向にありますが、家庭部門は増加傾向に歯止めがかかっていません。
家庭から出る二酸化炭素の50.9%は電気から排出されています。用途別にみると冷暖房、給湯、照明、家電製品などが大半を占めているのです。
日本は地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」で2030年までに2013年比で二酸化炭素を含む温室効果ガスを26%削減すると約束しました。この目標を達成するためにも、ZEH-Mの普及を早急に進めなければなりません。
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