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【ガス自由化コラム】整備遅れる都市ガス導管、経済産業省が枠組み作りへ第三者会議

ガス自由化

ガス自由化では導管整備が課題だと言われています。ガス導管(電気でいうところの電線)がつながっているエリアは国土の6%と言われており、大都市圏以外では恩恵がない…との意見も。ガス導管の整備については、国や都市ガス会社はどのように考えているのでしょうか?

経済産業省は2016年度中にも国の主導で都市ガス導管の整備を促進する枠組みを作る方針です。具体的な内容は明らかになっていませんが、専門家で構成する第三者会議で今後の整備計画などを検討するとみられます。全国津々浦々まで送電網が整備されている電力に比べ、都市ガスの導管は大都市圏と一部の地方都市にしかないのが現状です。2017年4月にはガス自由化が始まります。相次ぐ新規参入で市場を活性化させるには、導管整備を急がなければならないのです。

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富山ライン約100キロが2016年夏完成

新潟県糸魚川市から富山県富山市まで北陸地方を貫くガス導管が2016年の夏に完成しました。総延長は約100キロ。名称を「富山ライン」といい、資源開発大手の国際石油開発帝石が敷設したものです。地中に埋められた導管は直径約50センチの炭素鋼製。新潟県長岡市の南長岡ガス田から産出される天然ガスと、海外から輸入された天然ガスが混合されて送られています。富山市の日本海ガス岩瀬工場では都市ガス用、日産化学工業富山工場ではアンモニアの原料として使われています。

完成までに4年の歳月

新潟と富山の県境部は山が海岸に迫る厳しい地形です。約830億円を投じた工事は難所の連続で、2012年の起工式から4年余りの時間がかかりました。日本海ガス岩瀬工場で10月、竣工式が開かれ、新潟、富山両県の関係者らが盛大に完成を祝いました。
国際石油開発帝石経営企画本部は「富山ラインの完成で幹線導管未整備地域だった富山県に天然ガスが供給できるようになった。北陸地域の経済発展にも貢献できるのではないか」と語っています。

東京ガスの茨城-栃木幹線も開通

東京ガス基地写真(空撮)
茨城-栃木幹線が接続された日立LNG基地(東京ガス提供)
関東地方でも2016年3月、新しい幹線導管が登場しました。東京ガスの茨城-栃木幹線です。茨城県日立市の日立LNG(液化天然ガス)基地と栃木県真岡市の栃木ラインを接続する約80キロで、口径約60センチの導管が敷設されています。
日立LNG基地は東京ガスが初めて東京湾外に設けた基地です。これにより、北関東の幅広い一般家庭や企業にガス供給が可能になったほか、LNG基地の分散で首都直下型地震などへのリスク対応も向上しました。

この結果、東京ガスは首都圏を中心に総延長950キロの導管網を保有することになりました。引き続き2018年完成を目指して茨城県古河市と栃木県真岡市を結ぶ古河-真岡幹線、2020年度完成を目指して日立LNG基地から茨城県の海岸線を神栖市まで南下する茨城幹線を整備することにしています。

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地図:東京ガスの導管網(東京ガス提供)

東京ガス広報部は「日立LNG基地と東京湾岸にある3つの基地を導管で結び、一体運営することでガス供給の安定性をより高めていきたい」と述べています。

欧州諸国に大きく遅れた幹線導管の総延長

都市ガスの原料になる天然ガスはLNG基地から導管で消費地に送られますが、国内の導管整備は遅れています。導管の総延長は約25万キロですが、うち幹線導管は約5,000キロ。イタリア、フランスなど欧州の先進国に比べると6分の1から7分の1という状況です。
国内で導管網が整備されているのは国土のざっと6%。その大部分が3大都市圏に集中しています。しかも、これまでは大手都市ガス会社が自社の販売エリア内で導管整備を進めてきたこともあり、首都圏と中京圏は導管で結ばれていません。
欧州はロシアなどガス産出国から導管を通して天然ガスを輸入してきました。このため、早くから導管整備が進んできたのです。これに対し、日本では産出された天然ガスをいったんLNGにして船で輸入しています。LNG基地は主に消費地に近い首都圏や阪神間などの沿岸部に設けられてきました。その結果、幹線導管の整備が遅れました。

導管整備の主体による違いも

日本の導管整備は大手都市ガス会社など民間事業者にすべて委ねられてきました。しかし、欧州諸国は国営企業が進めています。フランスは投資計画を国が策定、イタリアは建設費を各州が負担してきました。英国は国営企業の資金調達を政府が支援しています。

先進各国の導管整備方針

国・地域整備主体財政、公的支援
英国国営企業(英国ガス公社)資金調達を政府が支援
フランス国営企業(フランスガス公社)
投資計画は政府が策定
資金調達のための金融公庫を設立
イタリア国営企業(スナム)建設費を州が負担
韓国政府が基本計画を策定し、幹線導管網を建設
台湾国営企業(中国石油公司)
米国民間企業

出典:資源エネルギー庁「我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題」から筆者作成
導管が公共インフラだとして、公共の手で整備を進めていることになります。経産省はこれら海外の事例も参考にし、国が主導して導管整備に拍車をかけようと考えているのです。都市ガス小売りが全面自由化で法律上、すべての消費者がガスの購入先を選べることになりますが、導管が未整備のままでは制度見直しの果実を得られないからです。

ガスシステム少委員会が第三者会議設置を提言

しかし、導管の整備にはばく大な費用がかかります。民間シンクタンクの三菱総合研究所は、神奈川県横浜市-愛知県知多市(372キロ)、兵庫県姫路市-福岡県北九州市(490キロ)、新潟県長岡市-埼玉県桶川市(251キロ)、新潟県長岡市-滋賀県彦根市(502キロ)間の4つのルートで事業費を試算しています。

  • 横浜-知多間:3,830~4,575億円
  • 姫路-北九州間:5,058~6,029億円
  • 長岡-桶川間:1,834~2,189億円
  • 長岡-彦根間:3,060~3,632億円

これら4つのルートが整備されれば、太平洋ベルト地帯を中心とした本州と九州の大部分が導管で結ばれます。しかし、総事業費は1兆3,782億円から1兆6,425億円。民間に任せているだけでは、整備が終わるのがいつになるか分かりません。
このため、ガスシステム改革小委員会は(委員長・山内弘隆一橋大大学院教授)は、電力の送配電ネットワーク整備を主導する電力広域的運営推進機関を参考に、導管整備を推進する第三者会議を設けるよう提言しています。

ガス自由化の恩恵、地方に及ぶのはしばらく先

新組織が設立されたとしても、導管整備に入るまでに数年かかるとみられています。当然、2017年のガス自由化には間に合いません。当面は各参入業者とも既存の導管網を使って都市ガスの供給を進めることになります。ガス自由化で新規参入が見込める地域は3大都市圏と、首都圏から導管がつながっている北関東、新潟県、宮城県などに限定されそうです。それ以外の地方の住民がガス自由化の恩恵にあずかるのはもうしばらく待たなければならないでしょう。
都市ガスは住民の暮らしを支えるライフラインの1つです。ここまで導管整備が遅れてしまったのは、民間任せにして国が積極的に関与しなかったからです。現状ではガス自由化の大きな果実は生まれそうもありません。しかし、6年後の2022年4月には、都市ガス大手3社の導管事業を分離することが決まっています。将来の市場活性化に備え、それまでに具体的な取り組みをスタートさせておく必要がありそうです。

エネチェンジではガス自由化に関する情報も随時発信していきます。ガス自由化が気になる、都市ガスのことをもっと知りたい……と思ったら、エネチェンジをぜひご活用ください。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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