電力自由化の海外事例:イタリアの場合
この記事の目次
2016年、日本では「電力の全面自由化」が始まります。以前、電力自由化の先進国であるイギリスの事例を参考にしながら「電力自由化ってどういうことなのか」ということを解説していきました。今度は、その他の主要諸外国の電力自由化事情をお届けしていきます。
イタリアの電力自由化編は、ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ データ分析官のバッティリ(イタリア出身)が担当します。
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イタリアの電力自由化概要
イタリアの電力自由化は、フランスと同じく2007年に始まりました。その市場はどういった状態になっているのでしょうか。
競争激化するマーケット
電力自由化以前のイタリアでは、もともと電力はENEL(エネル)、ガスはENI(エニ)という国営企業がそれぞれ電力・ガスをほぼ独占的に提供してきました(一部には地域限定の電力・ガス会社もありました)。
ENELの現在の電力小売のシェアは80%で、シェア2位であるACEA の4.2%、3位のEDISONが2.4%と比べると、圧倒的な市場シェアを依然保持しています。もともと1社独占だった旧国営企業が、自由化後も圧倒的なシェアを握り続ける構図は、フランス同様と言えます。
一方で、イタリアのガス市場はもっと細分化しています。首位のENIは30%のシェアしかなく、ENELが14.2%で2位となっています。そして、3位はGDF (フランスの旧国営ガス会社)が4.9%のシェアをもつなど、海外勢との競争も激化しています。一方で、その他企業が21.2%のシェアを占めるなど、ガスは数多くの会社が乱立している状況です。
参照:イタリアのエネルギー監督機関統計 2011年
イタリアの自由化後に新規参入した電力会社
では、旧国営企業のENEL、ENI以外にどういった企業が他にあるのでしょうか?
まず一番特徴的なのが、海外のエネルギー企業(特にヨーロッパ系旧国営電力・ガス企業)が積極的にイタリアに進出している事です。
フランスの旧国営電力会社EDFは、2012年にEDISONを買収することでイタリアの市場に参入しています。ドイツの旧国営会社 E.On、フランスの旧国営ガス会社 GDFなども、イタリアで電力・ガス小売(発電も含む)に参入しています。
次に特徴的なのが、イタリア国内からのの新規参入企業が、あまりみられない事です。地域電力・ガス会社だった3社が合併してできたA2Aや、水道会社が電力・ガスに参入したACEAなどはありますが、限定的なようです。
また、全くのベンチャー企業として電力・ガス小売に参入した事例は、Sorgeniaが代表例ですが、市場シェアは1%にも満ちません。この点は、国内で積極的な異業種・新規参入が相次ぐイギリスの事例から比べると大きく異なり、やはりフランスの事例に近いと分析されます。
電力自由化でイタリアはどうかわったのか?
それでは、電力自由化に際して、イタリアの消費者はどのように行動したのでしょうか。
一般家庭では年間に5〜7%の世帯が電力・ガス会社を変更
2012年の統計では、この年に電力会社を乗り換えたイタリアの一般家庭は6.4%、ガス4.4%になります。これが2013年には電力7.4%、ガス5.5%の変更と増加傾向にはありますが、一方でオフィスや工場などの大口需要家の変更率は10-25%ともっと高く、電力・ガス会社の乗換えという選択肢は、まだ一般家庭には十分には浸透していないようです。
他国と比較した場合、フランスは年間4%、イギリスは10%程度ですので、イタリアはその中間にあたります。
参照:イタリアのエネルギー監督機関統計
イタリアの電力・ガス比較サイト
イタリアにも、イギリスやフランスと同様に多くの電力・ガス比較サイトがあります。
その中で、最大手なのが、SOStariffe.it (イタリア語で、SOS電気料金プラン)というサイトです。世帯人数と郵便番号、主要な電化製品(クーラー、冷蔵庫、洗濯機など)を選択し、最適な電気料金プランを診断してくれます。
その他にも、電気・ガス比較以外に、携帯電話やSIM比較までするMyBest.it や、現在の電気料金の請求書などのより詳細な情報からプラン診断が可能なfacile.it など、複数の事業者が、電気・ガス料金比較サイトを運営しています。
消費者はこうした比較サイト上で電力会社の変更を申し込むことができ、複雑な書類手続きなどはいりません。
電力会社の切り替えには16ユーロ程度の税金がかかったり、クレジットカード支払をしない場合はデポジットが必要など一定のハードルはありますが、比較的簡単かと思われます。しかしながら、契約変更手続きには多少の時間がかかり、反映されるまで1、2ヶ月かかることがあるようです。
イタリアの電力・ガス比較サイト SOStariffe.it の診断画面
公平性の問題が懸念
一方でUEA(ヨーロッパ保険機関)及びIVASS(イタリア保険機関)などが、イタリアの比較サイトに対して色々と問題提起をしています。イタリアの比較サイトは、提携している会社の情報しか掲載せず、完全に「中立」とはいえない点、値段での比較ばかりを重視している点、顧客に不必要なものまで追加で販売しようとしている点、などがあげられます。
そこで、イタリアの政府機関が、公平・中立な電力・ガス比較サイトを設立したりもしています。これらは、「公平・中立」ではあるものの、お役所仕事なため、使い勝手が悪いとか、デザイン性がない、及び、広告宣伝等も一切していないため認知度も低いなど、こちらもこちらで問題を抱えているようです。
イタリアの政府機関作成の電力・ガス比較サイト
まとめ
イタリアの電力・ガス市場は、電力・ガスに1社ずつ旧国営企業があり、自由化後もそれらが市場の圧倒的優位を握っている点は、フランス型と言えます。
イタリアの市場の特徴としては、フランス・ドイツなどヨーロッパ旧国営会社が相次いで参入している点にあります。電力・ガス会社の変更率も、毎年7%程度と、活発な自由競争が行われているイギリスの比率 約10%よりは低いものの、フランスの2〜3%に比べると、市場は活性化していると言えます。
一方で、イタリア国内での新規参入組が少ないのは、ベンチャー企業などがあまり盛んではないイタリア人気質なのかもしれません。
今回のレポートを通じて、イタリアでも、多くの人が、エネチェンジのような電力・ガス比較サイトを訪れ、最適の電力プランを探していることが確認されました。同時に、こうしたサイトの公平・中立性は重要であることと同時に、分かりやすい操作画面や、認知度をあげるためのプロモーションなどもあわせて重要だと考えられます。
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