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途上国への石炭火力輸出、このままでは日本は世界の孤児になってしまう【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

日本の経済界が推進する石炭火力発電所の輸出が、海外から強い批判を浴びています。

日本の経済界が推進する石炭火力発電所の輸出が、海外から強い批判を浴びています。その理由は、石炭は化石燃料の中で最も二酸化炭素排出量が大きく、脱炭素に向かう世界の潮流に逆行するからです。中川雅治環境相は1月、経団連の榊原定征会長と会談し、地球温暖化対策で意見交換しましたが、脱炭素を訴える環境省に対し、経団連は石炭火力の必要性を強調して物別れに終わりました。このままでは日本が世界の潮流から取り残され、孤児になってしまうかもしれません。

インドネシアの住民らが来日、国際協力銀行前で抗議行動

「国際協力銀行はチレボン石炭火力発電事業への融資をストップしてほしい」「地域の環境悪化が心配」。インドネシア西ジャワ州の住民グループのリキ・ソニアさん、弁護士のシャウリ・デリムンテさん、住民グループを支援するNGO(非政府組織)のドウィ・サウンさんが2017年末、東京の環境省記者クラブで記者会見してこう訴えました。

西ジャワ州では、チレボン石炭火力発電所事業が進んでいます。出力660メガワットの1期工事は既に完成し、商業運転に入っているほか、1,000メガワットの2期工事が土地造成中。この計画には丸紅、JERAが参加し、政府系金融機関の国際協力銀行と、三菱東京UFJ、みずほ、三井住友の国内メガバンク3行が融資しています。

3人は計画に反対するため、来日しました。インドネシアでは許認可手続きに不備があるとして提訴し、勝訴判決を得ています。それなのに、国際協力銀行が不透明な形で発行された許認可を根拠に融資するのはおかしいとして、国際協力銀行と財務省前で抗議行動もしました。

日本企業が関係する東南アジアの主な石炭火力発電

発電所関係企業
インドネシアタンジュンジャティB住友商事、関西電力など
チレボン丸紅、国際協力銀行など
バタン電源開発、伊藤忠商事、国際協力銀行など
ベトナムハイフォン国際協力銀行、みずほ銀行など
ビンタン国際協力銀行、三菱東京UFJ銀行など

出典:FoE JAPAN資料から筆者抜粋

海外の環境NGOは「環境後進国」と日本を批判

電源開発と四国電力が徳島県阿南市で操業する石炭火力発電所。経済界は国産石炭火力の輸出を継続する構えだが、環境NGOや海外から批判の声が出ている(筆者撮影)
石炭火力発電は国内で40基以上の新増設計画があるほか、国外では日本の政府系金融機関が出資する施設が、少なくとも東南アジア6カ国で10基以上計画されています。東南アジアを含むアジア地域は石炭火力建設計画が集中している土地です。経済界は日本の石炭火力が効率面で世界最高水準にあるとして、輸出に力を入れているのです。

これに対し、欧州諸国は二酸化炭素の大量排出を理由に石炭火力発電から相次いで手を引いています。チレボン2期工事でも当初、融資団に加わる予定だったフランスの銀行が撤退しました。石炭火力には融資しないとする風潮が欧州で広がっているわけです。

2017年11月にドイツのボンで開かれた気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)では、参加国から「日本は環境後進国」などと厳しい批判が浴びせられ、世界の環境NGOから温暖化対策に後ろ向きだとして「化石賞」を贈られました。彼らの目に日本の姿勢が自国産業の保護のみに走っていると見えたのでしょう。

COP期間中に英国やカナダが脱石炭火力を目指す連合組織を結成しましたが、日本は参加していません。世界で脱炭素がうねりを見せ始めたのに、日本の対応は温暖化防止の国際的な枠組みを定めた地球温暖化防止パリ協定からの離脱を表明した米トランプ政権と歩調を合わすように、石炭火力輸出に舵を切っているのです。

脱炭素に向けた世界の主な動き

2013年6月米オバマ政権が海外の石炭火力新設に対する公的資金支援の停止を求める
2013年7月世界銀行が石炭火力建設への金融支援を原則として行わない方針を発表
2013年9月デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランドが石炭火力への新規融資を原則停止
2013年12月欧州復興開発銀行が石炭火力への融資原則停止を発表
2014年9月ドイツ復興金融公庫が新規石炭火力の支援案件を制限
2015年11月OECDが石炭火力に対する公的支援規制に合意
2017年11月石炭火力の段階的な廃止を目指す連盟が設立。英国、カナダ、イタリア、フランス、オランダなど58の国、自治体が参加
2017年12月国際開発機関がパリ協定に沿う支援にすると発表

出典:外務省有識者会議資料集から筆者作成

環境相と経団連の会合は物別れに

こうした流れを受け、中川環境相は榊原経団連会長ら経団連と懇談しました。会談は非公開でしたが、中川環境相は記者会見で世界の政治やビジネスが脱炭素に向かっていることを強調し、「石炭火力発電所の輸出が21世紀後半の世界が目指す方向にとって適切でないとの趣旨を伝えた」と述べました。

これに対し、経団連側から国内での新増設が電源構成の見地から必要で、途上国への輸出について「高効率の発電所輸出は地球規模の温暖化対策に貢献する」との主張が返ってきたといいます。

さらに、炭素税や二酸化炭素排出を排出量取引の形で有料化する「カーボンプライシング」を環境省が検討していることに対し、「規制的な手法で日本企業の国際競争力が弱まる」との意見も出ました。石炭火力輸出に慎重な姿勢を取るよう求める環境省に対し、経団連が事実上、ノーを突き付けたといえそうです。

脱炭素社会を目指す企業団体も国内に登場

日本の経済界でも、脱炭素社会を目指す組織が生まれています。日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)がその1つで、イオンやオリックス、キッコーマン、富士通、積水ハウス、LIXIL、リコーなど14社が加盟、大和ハウス工業、東京海上日動火災保険、鹿島建設、花王、パナソニックアプライアンス社など34社が賛助会員になっています。

脱炭素を経済活動の前提としてとらえ、参加企業が共通のビジョンを描いて実践するとともに、社会の変革に向けたメッセージを発信することが目的の組織です。

1月に中川環境相、2月に欧州委員会気候行動総局のジェイク・ワークスマン主席アドバイザーと懇談、国内の動向や企業の取り組みについて意見を交わしました。経済界にも脱炭素に前向きな企業が増えているわけですが、石炭火力の輸出をストップさせるだけの大きなうねりにはまだなっていません。

国内の環境保護団体は石炭火力輸出を一斉に批判

石炭火力の輸出について、国内の環境NGOは強く批判しています。WWFジャパンの山岸尚之気候変動・エネルギーグループ長は「石炭火力はたとえ高効率でも高効率ガスの2倍の温室効果ガス排出量を持ち、国際的な脱炭素の潮流に逆行する。途上国支援の主軸を石炭火力から再生可能エネルギーにシフトすべきだ」としています。

気候ネットワークの山本元研究員は「石炭火力の輸出は途上国にとっても好ましくない。求められているのは石炭火力の段階的な廃止で、輸出を推進する日本の姿は批判されても仕方がない」と指摘しました。

FoE Japanの深草亜悠美さんは「新たな石炭火力を建設していたのでは、パリ協定の目標を達成できない。日本の石炭火力は高効率というが、途上国の環境に影響を与えている。輸出はストップすべきだ」と主張しています。

外務省有識者会議が脱炭素推進を外相に提言

こうした中、外務省の有識者会議は2月、日本が脱炭素社会の実現をリードし、再生可能エネルギー外交を推進するよう求める提言を河野太郎外相に提出しました。

特に石炭火力についてはパリ協定の目標と整合しないとし、石炭火力の廃止を覚悟してその基本姿勢を公表すべきだとしました。途上国支援はエネルギー効率化と再生可能エネルギーを中心に据え、石炭火力輸出への公的支援を速やかに停止するよう求めています。

日本経済はバブル期まで太陽光など再生可能エネルギーで世界のトップを走っていましたが、長い不況の間に世界水準から大きく遅れてしまいました。だから、技術的に優位を誇る石炭火力に目をつけたのでしょう。

しかし、このままでは世界の潮流から取り残されてしまいます。経済界は環境相や外務省有識者会議、環境NGOの声にもっと耳を傾ける必要がありそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)
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