水力発電とは?仕組みやメリット・デメリットを解説
この記事の目次
今回は水力発電についてお話します。水力発電ってどういう仕組なの?メリットは?などを解説しますよ!
- 更新日
- 2024年11月11日
水力発電とは
水力発電は水の力で発電するので、発電時にCo2(二酸化炭素)を排出しない発電方法として知られています。まずは、水力発電の概要から見ていきましょう。
そもそもどうやって発電するの?
簡単に言ってしまうと「水の勢いで水車を回して発電する」のが水力発電です。正確には、
- 高低差と水の位置エネルギーを利用して、
- 高いところから低いところへ水を落とす時の運動エネルギーで水車・タービンを回し、
- そこに直結している発電機で発電する
という仕組みです。
参照・画像の出典:中部電力|水力発電の基本原理 – 水力発電のしくみ
水力発電の歴史
水車を使って蕎麦を挽く等、水の力を生活に活かすという考えは昔からありましたが、水力発電はいつ生まれたものなのでしょうか?
世界
水力発電を発明したのは、1840年イギリスのウィリアム・アームストロングと言われています。その後世界各地に水力発電が広まりました。2013年時点では、世界の電力のうち16.6%は水力発電によって賄われていて、特にノルウェーでは、国内のエネルギー源の96%が水力発電によるものです。参照:オンラインコラム|一色出版
日本(終戦まで)
水力資源の豊富な日本では、明治25年に日本最初の水力発電所が京都府に完成しました。それ以降、各地に水力発電所が作られるようになります。東京近辺では、明治40年に山梨県内に駒橋発電所が設けられ東京への長距離送電の草分け的存在となったほか、大正4年には福島県の猪苗代湖に造られた猪苗代水力発電所から東京への送電が開始されました。猪苗代からの送電距離は226kmにのぼり、これは当時の世界第3位の長さでした。戦前は水力発電所の出力が火力発電所の出力を上回る、いわゆる「水主火従」の時代だったんです。参照:水力発電 | 安定供給を支える電力設備|東京電力参照:山川 新版日本史小辞典日本における水力発電所の起源は、記録が不正確なことから諸説あります。
日本(戦後)
戦後復興が進むにつれ、電力需要は逼迫するようになりました。水力発電用のダムの建設自体は進みますが、それ以上に火力発電所の建設が進み、昭和38年には火力発電所の出力が水力発電所の出力を初めて上回りました。時代は「火主水従」の時代に突入し、今日の日本では、一般電気事業用における発受電電力量のうち、一般的な水力発電によるものは全体の7.6%となっています(下表参照)。
出典:エネルギー白書2024 第2部 1章 国内エネルギー動向
水力発電所の数
日本の電力の10%弱をまかなう水力発電所。今の日本にはどれくらいの数があるのでしょうか。
令和5年時点で、日本各地には既開発のもので合計1,973カ所もの水力発電所があります。平成15年で1,843カ所、平成25年には1,946カ所と、若干増加していることが分かります。実は意外と多い水力発電所。ただし、定期点検や工事等で運用を停止しているものもあり、全ての水力発電所が稼働しているわけではありません。
水力発電の種類と運用方法
「水力発電」と一口に言っても、実は分類分けしてみるといろいろな種類があることがわかります。以下で見ていきましょう。
構造物での分類
水が落下するエネルギーを使って電気を起こす水力発電。そこで重要なポイントのひとつとなるのは、水面から水車までの「落差」です。この落差をどのように作っているかで切り分けたのが、構造物による分類方法です。
ダム式
なお、ダムからまさに滝のように水が噴き出している映像を思い浮かべるかもしれませんが、実際に発電するための水はパイプの中を通って、ダムの下にある発電所の水車を回しています。噴き出す水は貯水量の調整や観光用などの放水なんですよ。
構造的には、ダムの水が減ると水面からの落差が変わってしまうので、エネルギーも小さくなってしまうという特徴があります。
水路式
ダム水路式
ダム水路式では水を貯める場所と水を落とす場所を別々にすることで、水量を調整しやすいダム式のメリットを活かしつつ、大きな落差を得やすいのが特徴です。
画像の出典:中部電力|発電方法の種類 – 水力発電のしくみ
運用方法での分類
水力発電の場合、どのように水の流れをコントロールするかという「運用」の方法や目的でも分類が決まります。ダムや水路といった落差を得る仕組みと運用方法の組み合わせで、発電所の特徴が決まってきます。
流れ込み式
川の流れをせき止めることなく、そのまま発電に利用する方法です。川の水量に左右され、発電量はほとんどコントロールできないことと、大きなエネルギーを取り出しにくいため、比較的小規模なものが多くなります。そのぶん構造的には安価で、環境への負荷も小さく済みます。
川の流れは一日の中で一定しているため、電力需要のうちのベース部分をまかなうことに使われます。後ほど説明するマイクロ水力発電は多くがこの「流れ込み式」に分類されます。
調整池式(堰・小規模なダム)
川の水の量に対して比較的規模の小さい池を作って、電力消費の少ない時間帯に水を貯めておき、昼間等、電力消費の大きいピークの時間帯に水を多く流すことで発電量を増やす運用方法です。1日〜1週間程度の間の変動に合わせた程度の貯水量に抑えているので、環境への影響は小さくなります。
貯水池式(ダム)
渇水期や電力消費の多い夏・冬に十分な水量を確保するため、豊水期や電力消費の少ない時期にダムへ大量の水を貯めておく運用方法です。季節間の消費量の調整に対応するため、巨大な設備になることが多く、周辺の環境などへの影響は大きくなります。
貯水池式も主にピークの時間帯に水を多く流して発電量を増やします。
このほか特殊な水力発電所として「揚水式発電所」があります。
揚水式(ダム)
画像の出典:中部電力|発電方法の種類 – 水力発電のしくみ
揚水式ではくみ上げと発電の2回にわたってエネルギーのロスがあるため効率がよい発電方式とは言えませんが、蓄電技術の発展を待たずとも、水の位置エネルギーという形で大量の電気を蓄えておけることがメリットになります。揚水式は他の発電所を補助する役割であり、一般的な水力発電とは切り分けて扱われることが多いです。
水力発電のメリット・デメリット
水力発電のメリットとデメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
メリット
まずはメリットを挙げてみましょう。
温室効果ガスを排出しない
やはり最大のメリットはこれでしょう。水力発電では化石燃料を燃やす必要はないので、もちろん発電時に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出することはありません。非常にクリーンな発電方法です。
発電や管理のコストが安い
水力発電は、他の発電方法と比較して、発電や管理・維持にかかるコストが安くなります。原子力発電や火力発電では、有償のウラン燃料や化石燃料が必要ですが、水はなんといってもタダ。また、設備の管理・維持にかかるコストも他の発電方法と比べると安価です。参照:水力発電および世界のエネルギーの将来
エネルギー変換効率が高い
エネルギー変換効率とは、読んで字の如く、あるエネルギーを別のエネルギーに変える際の効率のことです。原子力発電や火力発電は、核分裂を起こしたり燃料を燃やしたりして得られる熱エネルギーで水を沸騰させ、それによってできる水蒸気の運動エネルギーでタービンを回して発電するという方法で、この際に発生した熱の中には廃熱となって発電にうまく使われないものもあります。それに対し、水力発電は、水の持つ位置エネルギー、運動エネルギーを最小限のロスで電気へ変えられるので、変換効率は80%と極めて優れています。太陽光等他の再生可能エネルギーと比べても高効率であることと、重量が重い水を使うため、エネルギーの密度が高いこともポイントです。
参照・画像の出典:水力発電の仕組み(役割・特徴) [関西電力]
再生可能エネルギーである
「再生可能エネルギー」というと、最近では太陽光や風力ばかりがピックアップされがちですが、水力も再生可能エネルギーのひとつです。発電に使った水のエネルギーは、蒸発して雨として再び降る、という自然の循環によって再生されるのです。
起伏が多い日本に向いている
日本の地形は、山が多く起伏に富んでいます。高低差を利用して発電する水力発電にはもってこいの地形です。
電力需要の増減に対応して発電できる
貯水式や揚水式の水力発電の場合、電力需要に応じて発電量を変化させたり発電を止めたりすることが容易にできる、という特徴があります。水を流せばその分発電機が回るという単純なしくみのため、必要なエネルギーをすばやく取り出せるのです。
デメリット
メリットもあればデメリットもあります。
降水量によって発電量が左右される
水で発電する水力発電は、降水量によって発電量が左右されることがあります。極端に降水量が少ない場合、発電ができなくなる恐れもあります。参照:ダム水不足で水力発電停止 大分、北川ダム:日本経済新聞
ダムの新造には費用がかかる
水力発電で大規模に発電するには、ダム式での発電が必要となります。新たにダムを造るとなると建設費用がかかり、公共事業に厳しい目が向けられている昨今ではなかなか難しいものがあります。発電自体はローコストで行える水力発電ですが、初期費用は必ずしも安いものではありません。
ダムは環境や生態系に影響を及ぼす
ダムの建設によって周辺の環境や河川の生態系に影響が出ると言われています。広い地域を水没させてしまうことだけでなく、例えば、砂がダムでせき止められて下流では少なくなり、それによって砂の中で生活する生物の数が減った……という事例なども報告されています。参照:独立行政法人 土木研究所 自然共生研究センター
また、ダムの建設に際しては山奥まで大量の資材・機材を搬入するための道路等も建設されるため、影響を受ける面積が広い点が指摘できます。
マイクロ水力発電
さて、ここまでは一般的な水力発電についてお話してきましたが、ここからは最近注目を集めつつある「マイクロ水力発電」についてご紹介します。
マイクロ水力発電とは
一般的には、「マイクロ水力発電」あるいは「小水力発電」とは出力1000kW以下の水力発電を指すものとされています。これは「新エネルギーの利用等の促進に関する特別措置法施行令」で1000kW以下の出力で発電する水力発電を新エネルギーと定義していることが根拠とされています。
メリット
マイクロ水力発電のメリットを見ていきましょう。
流水があればどこでも発電可能
最大のメリットは、とにかく水の流れさえあればどこでも発電できるという点です。従来の水力発電のように大規模に発電するにはそれなりの水が必要ですが、マイクロ水力発電は規模が小さいぶん、必要とする水の量も少なくて済みます。ちょっとした小川や農業用水、極端に言えば側溝程度の水の流れでも十分発電できてしまうのです。
環境への負荷が小さい
マイクロ水力発電ならば、新たにダムを造る必要がなく、また川の流れをせき止める必要もないので、環境への負荷を最小限に抑えられます。従来の水力発電と同じく、温室効果ガスの排出もありません。
電力の地場消費ができる
今までのように、都会から遠く離れた地方の発電所から長距離をかけて送電するという発電形式ではなく、「地域の小川などで発電してその周辺の電力をまかなう」というような地域密着型の発電が可能になり、自分たちで使う電力は自分たちで作ることができます。また、長距離送電の際の電力ロスという問題も抑えられると言われています。
デメリット
ここまで読むと、マイクロ水力発電が素晴らしくみえていきますが、デメリットはあるでしょうか?
水利権の問題
デメリットとして挙げられるもののひとつは「水利権」の問題です。水の利用は下流の治水や水利用に影響することもあり、河川や用水路に発電機を設置するには、管理者に届け出をしなければならないのですが、この手続きが極めて煩雑と言われています。また、関係する法律の制定や改正が追いついていないため、たとえマイクロ水力発電であっても、大規模なダムを造って発電するのと同じ手続きを取らなければなりません。近年の規制緩和で、マイクロ水力発電に関する規制も緩みつつありますが、全国的に普及するにはまだまだ厳しいハードルがある、というのが現状です。
参照:小水力発電の現状・意義と 普及のための制度面での課題|科学技術・学術政策研究所
費用対効果の問題
水力発電には異物によるつまりの防止や、魚道の確保、護岸の整備、堆積する砂の排出など、発電設備の規模が小さくても必要な設備・メンテナンスの費用があるため、小規模化した場合にはこうした負担の影響が大きくなることが指摘できます。
導入例
マイクロ水力発電は、既に複数の自治体で導入されています。
河川の利用例
山梨県都留市では、市内を流れる家中川の水流を利用し、3基の発電機で発電を行っています。合計出力は約56kWで、発生した電気は市役所で消費されるほか、余剰電力については売電を行っています。
農業用水の利用例
栃木県北部の那須野ヶ原には、この地域一帯に農業用水を供給する「那須疎水」等の農業用水路があります。この用水路上に発電機を設置して、マイクロ水力発電事業が行われています。最大の発電量は那須野ヶ原発電所の340kWで、そのほかのマイクロ水力発電所と合わせて1500kW分を発電しています。参照:自然エネルギー 那須野ヶ原発電所
上水道施設の利用例
埼玉県さいたま市では、市内にある浄水場のうち5カ所に発電機を設けています。そのうちのひとつでは貯水池からの高低差を、その他の浄水場では県営浄水場から受水する際の水圧を利用して発電しています。発生した電気は、浄水場内で自家消費されたり、東京電力に売電されたりしています。
参照・画像の出典:さいたま市/小水力発電を行っています。
また、山形市の松原浄水場では、停電時でも自家発電できる発電機が設置されていて、災害時に浄水場の外部電源が完全に喪失しても水道水の供給が続けられるようになっています。参照:松原浄水場小水力発電施設|山形市上下水道部水道施設に発電機能を設置する際の手続きに関しても記されています。
下水道施設の利用例
群馬県伊勢崎市の伊勢崎浄化センターでは、処理された下水を河川に放流する際の高低差を利用し、放流口に発電機を設け発電しています。およそ400kWh前後の発電実績があります。処理場内で下水処理水を用いて発電する際は、一般には水利許可の申請が必要ない場合が多く、実用化へのハードルは他の例よりは低いと言えます。参照:伊勢崎浄化センター|伊勢崎市参照:主な施策:利用-小水力発電と水利使用手続-国土交通省水管理・国土保全局
水力発電の現状と今後の展望
一般電気事業用における発受電電力量のうち水力発電によるものは、一般水力と揚水発電を合わせて7.6%となっています。政府の「エネルギー基本計画」では、水力発電と今後の位置づけに関しては次のように述べられています。
渇水の問題を除き、天候に左右されない優れた安定供給性を持ち、長期的に活用可能なエネルギー源である。また、地域共生型のエネルギー源としての役割を拡大していくことが期待される。このうち、一般水力(流れ込み式)については、運転コストが低く、ベースロード電源として、揚水式については、再生可能エネルギーの導入拡大に当たっても必要な調整電源として重要な役割が期待される。
一方で、2030年までという時間軸で大水力の新規開発は困難であることから、他目的で利用されているダム・導水等の未利用の水力エネルギーの新規開発、デジタル技術を活用した既存発電の有効利用や高経年化した既存設備のリプレースによる発電電力量の最適化・高効率化などを進めていくことが必要である。
出典:第6次エネルギー基本計画 – 経済産業省・資源エネルギー庁
このように、水力発電のメリットを踏まえたうえで、治水用のダムに対して発電機能を追加したり、古い水力発電所をリプレースして効率をアップするなどの形で水力発電全体の出力を上げていくとしています。
また、中小発電(=マイクロ水力発電)について言及されている「高コスト構造」については、現段階では十分な技術革新が進んでいるとは必ずしも言えないことから、今後の革新で設備の導入・維持等にかかる費用が抑えられれば、マイクロ水力発電の導入がより進む可能性が高いとみられます。また、関係する法令が改正され規制緩和が進めば、よりマイクロ水力発電の重要性は高まると言えるでしょう。
いずれにせよ、昨今の
- 原子力発電所の新設が見込めず、既存の原子力発電所も今後は廃炉が進むと予想されること
- 火力発電は地球温暖化の原因とされる温室効果ガスを排出し、また化石燃料の輸入により国富が流出するというデメリットがあること
- 天候まかせの太陽光発電や風力発電の普及が進めばより一層ベースロード電源の重要性が高まること
というエネルギー事情を鑑みると、マイクロ水力発電を含めた水力発電全般は、今後その価値が見直される可能性は十分ありそうです。
水力発電、まとめ!
今回は 水力発電 について歴史からメリット・デメリット、最近話題のマイクロ水力発電までをご紹介してきました。あらためてポイントだけを、まとめておきましょう。
- 水を高い所から低い所へと落とす時の運動エネルギーで水車を回して発電するのが水力発電
- 水力発電の発祥は1840年、イギリスのウィリアム・アームストロングと言われている
- 日本での最初の水力発電所は明治25年京都府、それ以降建設が続く
- 昭和38年には水力発電と火力発電の発電量が逆転する
- 平成25年現在、日本国内には1,946カ所の水力発電所がある
- 構造物での分類……水路式、ダム式、ダム水路式
- 発電方法での分類……流れ込み式、調整池式、貯水池式、揚水式
- 温室効果ガスを排出しない
- 発電や管理のコストが安い
- エネルギー変換効率が高い
- 再生可能エネルギーである
- 再生可能エネルギーの中では最も安定的に発電できる
- 起伏が多い日本に向いている
- 電力需要の増減に対応して発電できる
- 降水量によって発電量が左右される
- ダムの新造には費用が掛かる
- ダムは周辺の環境や生態系に影響を及ぼす
- 一般的には出力1000kW以下の水力発電を指す
- 流水があればどこでも発電が可能
- 環境への負荷が小さい
- 電力の地場消費ができる
- 手続きが煩雑
- コストが高い
- 今日の日本では一般電気事業用における発受電電力量のうち、水力発電によるものは、全体の7.6%
- 昨今のエネルギー事情を鑑みると、今後水力発電の価値は見直される余地がある
日本の経済発展を支え続けてきた水力発電。今後もマイクロ水力発電を含めて、我々の生活になくてはならない存在であることは間違いなさそうです。
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