今からはじめる!EV(電気自動車)の基礎知識
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2019年のノーベル化学賞は、吉野彰さん(旭化成名誉フェロー)ら3名の研究者に授与されました。
ノーベル賞委員会は、吉野さんら3人が「リチウムイオン電池」の開発に果たした役割を高く評価して、授賞を決定しました。1991年に登場したリチウムイオン電池は、再充電可能で小型・軽量が特徴です。携帯電話やスマートフォン、ノートパソコンなどIT機器の小型化・バッテリー長寿命化に大きく貢献し、現在のIT社会を構成する重要なインフラとして活躍しています。
そして、今後リチウムイオン電池などの二次電池が活躍するフィールドとして期待されているのが電気自動車(EV)です。日本で普及しているハイブリッド車(HV)とともに、現在の電気自動車事情についての基本を勉強してみましょう!
全自動車の1割がエコカーになった2019年の日本
平成30(2018)年、日本の自動車保有台数は約7,793万台。このうち、ハイブリッド車(HV)は753万台、電気自動車(EV)は9万3,000台です(自動車検査登録情報協会調べ、二輪車を除いた数字)。ざっと計算すると、日本では自動車の1割近くがHV、EVなのです。
とくに、1997年に登場したトヨタのプリウスシリーズは全世界での販売台数が2017年に398万台を超え、2019年上半期の国内新車登録ランキングでもトップを占めるなど圧倒的な存在感を見せています。
参照:ハイブリッド車・電気自動車の保有台数推移|自動車保有台数|一般財団法人 自動車検査登録情報協会
電気とガソリン、いいとこどりのHV
このように、HVは日本の自動車市場を大きく変えました。CO2の排出、化石燃料資源の枯渇などさまざまな問題を抱える従来の自動車に対し、HVは代表的な「エコカー」として市民権を獲得したのです。
さて、日本ではHVが大きなシェアを占めています。一方海外では、現在EVのシェアが急拡大しています。巨大市場を抱える中国や環境に対する意識の高いヨーロッパでは、法規制やEV購入時の補助金交付などの影響で急激に販売台数を伸ばし、2018年には全世界で130万台が販売されました。そのうち77万台は中国市場によるもので、中国が自動車市場に与える影響の大きさがわかります。
参照:2018年は走行距離の延伸によりEV市場が大幅に拡大 HV、PHV、EVの世界市場(新車販売台数)を調査|マーケット情報|富士経済レポート
HVのしくみ~ガソリンエンジンとモーターのハイブリッド
まず、HVの仕組みについてみてみましょう。
HVは、ガソリンエンジンと充電池という2種類の駆動系を持っています。プリウスなどの「シリーズ・パラレル方式」のHVは、走行状態に合わせてガソリンエンジン駆動とモーター駆動、充電池への蓄電を使い分け、高い効率を実現しています。
車を動かす際に、最も大きなエネルギーを必要とするのは発進時です。普通車の重量はおよそ1トンですから、これだけの質量を動かそうとすれば多くのエネルギーを必要とします。そこで、HVは発進時にはバッテリーに蓄電された電気でモーターを回し、車を動かします。このため、ガソリンの消費は抑えられます。
通常走行時は、エンジンとモーターを同時に駆動させます。モーターも同時に動いているため、エンジンの回転数が上がりすぎてガソリンを無駄に消費することはありません。また、エンジンの駆動力を用いてバッテリーを充電しています。
急加速・急発進時も、エンジンではなくモーターの回転数を上げて駆動力を確保します。減速・停止時は、タイヤの回転を利用してモーターを回し、充電します。この仕組みを「回生ブレーキ」といいます。
このように、モーターとガソリンエンジンをうまく組み合わせたHVは、双方の「いいとこどり」を実現させたハイテクエコカーといえるでしょう。
次世代のエコカー・EVの実力とは
そこで、現在注目を集めているのがEVです。日本では2010年に日産が「リーフ」を発売し、EVの時代が始まりました。EVの駆動系は蓄電池とモーターというシンプルな構造で、車体重量は軽く走行音も静か。しかしまだまだ普及途上のため、充電ステーションが少ない、一回の充電での走行可能距離が短いなどのデメリットもあります。
それでは、EVの特徴をみてみましょう。
出典:リーフ[LEAF]|日産
エネルギー効率良好、コスパに優れるEV
EVの特徴は、まずは稼働効率、いわゆる「電費」のよさです。ガソリン車なら「燃費効率」というところですが、EVの場合は「燃費」ではなく「電費」という言葉を使います。一例をあげると、日産リーフはモデルチェンジのたびに航続距離を伸ばし、現行モデルでは一回の充電で570㎞走ることができます。
ガソリン車やHVの場合は満タンでの航続距離は1.000kmを超えるものが多いので見劣りするように見えますが、EVはガソリンスタンドに立ち寄らなくても充電できるのが強みです。自動車販売店や高速道路のサービスエリア、ショッピングモールなど充電ステーションは増えています。もちろん、自宅にEV充電用のコンセントを設置すれば、夜間に自宅で充電できるのはいうまでもありません。
さらに、自動車メーカー各社は月額制の充電プランを提供しています。日産では、「使いホーダイプラン」として月2,200円(税込)で何度でも急速充電を使えるプラン(急速充電は無料、普通充電は1分1.5円)を用意しています。このようなサービスをうまく使えば、コストパフォーマンスは良好です。
災害時も日常生活でも大活躍!「巨大蓄電池」としてのEV
そして、EVの最大のメリットが「巨大な蓄電池」であることです。EVを蓄電池として活用することによって、屋外での電気機器の使用が可能になるので、アウトドアなどのレジャーで活躍します。
しかし、この「EV=巨大蓄電池」がその真価を発揮するのは災害が起きたときです。2019年9月、台風によって大規模な停電が起きた千葉県君津市では、日産自動車が電源用としてEVを貸し出しました。EVは公民館に置かれ、扇風機や冷蔵庫、照明などの電源として活躍しました。
この台風被害に際して、東京電力は各自動車メーカーにEVなどの派遣を要請し、日産はEV、三菱自動車はプラグインハイブリッド車(PHV)、トヨタはPHVと水素で発電する燃料電池車を派遣しました。横浜市内に集められた車両は充電を終えると千葉県内の被災地に移動し、充電が少なくなると交代する形で継続して支援を行いました。日産リーフ(62kWhバッテリー搭載)は、スマートフォン6,200台を充電でき、エアコンなら16時間稼働できるといいます。
EVはガソリンで動く発電機とは違い、騒音や臭いがありません。大型の発電機はトラックに積んで輸送する必要があるなど被災地に届くまでのコストが高くなりますが、EVは自走できるのでその心配もありません。
住宅用電源としての役割としての効力も発揮
そしてさらに、EVは住宅用の電源にもなるのです。「V2H(Vehicle to Home)」に対応したEVとパワーコンディショナーがあれば、停電時でも普段と同じようにエアコンや照明、冷蔵庫などの電気器具を使用することができます。
V2H対応のEVは、太陽光発電、家庭用蓄電池、パワーコンディショナーなどの家庭用太陽光発電システムに組み込むことで、通常よりも早く充電できたり、電力需要のピークシフトを行うことができたりするなど、より高い効力を発揮します。
EVは、家庭用の発電システムと組み合わせて使うことで、自然エネルギーを有効に活用することができるのです。
今EVを買うのはおトク?待った方がいい?
さて、EVの購入を考えている方にとって、気になるのは「買い時」ではないでしょうか。
EVは、「クリーンエネルギー自動車(CEV)補助金」として、購入時に補助金の対象になります。2019年度は、EVには上限40万円の補助金が交付されます。日産「リーフS」は上限の40万円、小型・軽自動車枠の三菱「i-MiEV M」は12万円となります。
補助金の額は「一回充電で走行できる距離当たりの補助単価(1,000円/km)×一回の充電距離」なので、一回の充電で長い距離を走ることができる=EVの充電池容量による、ということになります。
また、外部給電器にも補助金が支給されます。上で紹介したEV対応のパワーコンディショナーのことで、現在4社から出ている4つの機器に対し、メーカー希望小売価格の1/3が補助金として支給されます。最も高額な、豊田自動織機の「EVPS-L1」(メーカー希望小売価格:150万円)は50万円の補助金となります。
さらに、地方自治体からの補助金もあります。東京都では、「電気自動車等の普及促進事業」として、CEV補助金の対象になるEVを購入した場合、個人の場合30万円、法人なら25万円が支給されます(年度ごとに予算枠があります)。また、外部給電器も同様に国の補助金対象になるものは購入費の1/2(上限40万円)が支給されます。
補助金100万円オーバーの可能性も!今こそ「買い」
仮に、個人が東京都でリーフSを購入し、EVPS-L1を設置したとします。すると国からはCEV補助金40万円と外部給電器補助金50万円。東京都からは「電気自動車等の普及促進事業」のEVに対する補助金30万円、EVPS-L1に対する補助金25万円が支給されます(外部給電器の補助金は国・市区町村等の補助額から控除される)。合計で145万円の補助金が支給されることになります。さらに、江東区(EV購入1台につき一律10万円)、杉並区(EV用急速充電設備の設置で上限50万円)など、助成金制度がある自治体もあります。
現在、国や地方自治体はEVをはじめとした次世代自動車の普及に大きく力を入れています。EVは車単体としてみるとまだまだ高額なものも多いのですが、太陽光発電との組み合わせや補助金・助成金制度の活用などで、車両購入時の実質的な負担額は大きく下がります。
一戸建ての新築やリフォームなどのタイミングで、国や地方公共団体の制度をうまく活用すれば、今はまさに「EVの買い時」といえるのではないでしょうか。