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静岡の鈴川エネルギーセンター、石炭火力からバイオマス発電へ転換【エネルギー自由化コラム】

電力自由化ニュース

鈴川エネルギーセンターが、石炭火力発電からバイオマス発電に転換します。世界的には石炭の発電利用を減少させていく動きがある一方、日本では原発の代替として、石炭火力の依存が強まり推進されています。石炭火力に対する国内外の動向や、バイオマス発電が抱える課題などについて紹介します。

静岡県富士市今井の石炭火力発電所・鈴川エネルギーセンターが再生可能エネルギーのバイオマス発電に転換することになりました。微粉石炭を燃料とする石炭火力では初めてで、発電設備を一部改良し、2022年4月から稼働予定です。転換の背景には石炭火力に対する国際的な逆風がうかがえますが、バイオマスに転換するからといってもろ手を挙げて歓迎できない一面もあります。

一般家庭約19万世帯分の電力を供給

鈴川エネルギーセンターは日本製紙富士工場内にあり、三菱商事の100%子会社となる三菱商事パワー、日本製紙、中部電力が出資しています。

出力は現在、11万2,000キロワットですが、バイオマス発電に転換後は8万5,000キロワットとなります。それでも年間の想定発電量は約6億キロワット時に達し、一般家庭で使用する電力の約19万世帯分を供給する能力を持ちます。

燃料は木質ペレットを使う予定。主に北米から年間36万トンを近くの田子の浦港経由で輸入します。一般的な燃料を微粉化する仕組みを木質ペレットに応用する技術をIHIが開発し、これを導入します。

二酸化炭素の排出量は年間、約67万トン削減できる見込み。木質ペレットを使ったバイオマス発電であるため、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が適用され、発電した電力を1キロワット時当たり24円の高い価格で販売できます。

中部電力にとって再エネ開発の一歩に

鈴川エネルギーセンターのバイオマス転換は中部電力にとって大きな意味を持っています。中部電力は3月に公表した「2019年度経営課題への取り組み」の中で、再エネの推進を柱の1つに掲げ、再エネカンパニーを4月に立ち上げました。

中部電力の再エネ発電は2018年末で出力258万キロワット。経営課題への取り組みでは、2030年ごろまでに200万キロワット以上の再エネ発電を新規開発するとしています。

鈴川の転換はこの目標達成に向けた一歩と位置づけられています。中部電力は「あらゆる施策を講じて二酸化炭素排出量の削減に努めることで、低炭素社会の実現とエネルギー自給率の向上に貢献したい」と意欲を見せました。

中部電力の再エネ開発計画

出典:中部電力資料から筆者作成

石炭依存の姿勢、政府は崩さず

日本はエネルギー安全保障の観点から多様なエネルギーを発電に利用することを目指しています。特に産出地域が偏らず、コスト面で有利な石炭火力は、ベースロード電源の柱の1つと考えられてきました。2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故後は、原発の新増設や再稼働に国民の目が厳しくなり、石炭依存の姿勢が政府内で強まってきています。

国際エネルギー機関によると、日本は2016年で発電量の約8割を化石燃料に依存し、3割以上が石炭火力です。中国や韓国などより石炭火力依存の比重は小さいですが、英国、フランス、カナダなどより大きくなっているのです。

梶山弘志経済産業相は12月の記者会見で「石炭開発、化石燃料の発電所は選択肢として残しておきたい」と述べ、石炭火力推進の姿勢を崩しませんでした。石炭火力プラントが日本の輸出産業になっていることも背景にあるとみられています。

COP25で日本の姿勢がやり玉に

しかし、石炭は化石燃料の中で二酸化炭素排出量が高く、地球温暖化防止の観点からすると直ちに対応しなければならない課題の1つと考えられています。スペインのマドリードで開かれた第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)で日本が欧米の環境保護団体から強い批判を浴びたのはそのためです。

時事通信社の報道によると、COP25の会場で記者会見した小泉進次郎環境相はドイツ人記者から脱石炭の方策を尋ねられたのに対し、「日本は今すぐ脱石炭といえない」と明確な回答ができませんでした。

福島の原発事故を契機に、石炭火力計画が次々と

日本では福島原発の事故後、原発が一斉に停止したことから、電力不足を心配する声が業界から上がり、全国各地で石炭火力の建設計画が持ち上がりました。環境保護団体の気候ネットワークによると、一時50基前後もの計画が打ち出されました。原発の代替施設として石炭火力に目をつけたわけです。

このうち、四国電力が仙台市で計画していた石炭と木質バイオマスを一緒に燃やす火力発電所の新設、電源開発が兵庫県高砂市で予定していた既設石炭火力の建て替え、九州電力と東京ガスなどが千葉県袖ケ浦市で計画していた石炭火力新設などいくつかの計画が中止されました。

国際的な批判や地元の反対運動、石炭火力への投資や融資をやめる投融資撤退運動(ダイベストメント)の動きが金融機関、商社に広がってきたことなどが、少なからぬ影響を与えたもようです。

長崎では20年前の古い計画も復活

ただ、それでも2017年度末時点で約30基の新設、増設、建て替え計画が生きているほか、20世紀末に環境アセスメントを実施した古い計画が復活しました。12月に営業運転を始めた長崎県松浦市志佐町の九州電力松浦発電所2号機です。

松浦発電所2号機は蒸気を高温・高圧にし、発電効率を高める超々臨界圧方式の発電所で、出力100万キロワット。気候ネットワークは年間532万トンの二酸化炭素を排出すると推計しています。

着工したのは2001年。中断期間を含めて18年9か月を経て運転にこぎつけました。実施された環境アセスメントも現行の環境影響評価法に基づいておらず、通商産業省(現経済産業省)の省議決定に基づくものです。

今後の石炭火力の稼働が続く見込み

気候ネットワークの山本元主任研究員は「世界の意識が変わっているのに、日本の意識は変わり切れていない。今後、石炭火力の稼働が国内で続く可能性がある」とみています。

石炭の発電利用をできるだけ抑えるべきだとする世界の潮流と、石炭火力を国内で推進するとともに、インフラ輸出を続けようとする日本の考え方の差は埋まっていないのが実情です。

手放しで喜べないバイオマス転換

その意味で石炭火力をバイオマスに転換する鈴川エネルギーセンターの計画は新しい動きといえます。しかし、バイオマス発電にするからといって、手放しで歓迎することはできません。最近建設されたバイオマス発電施設の多くが海外から輸入した木材燃料に依存しているからです。

木質バイオマス発電は木材を燃やすことで二酸化炭素が出ますが、それまで木材が吸収した二酸化炭素と相殺することでクリーンとされます。国内の間伐材などを利用していれば問題がないのですが、日本の木材価格が高く、収量も安定しないため、海外産に目が向いているのです。

輸入は貨物船が大量の二酸化炭素を排出しながら、日本へ運んできます。産地では木材の燃料確保の競争が激化し、森林資源の荒廃を心配する声も上がっています。

NPO法人環境エネルギー研究所の資料によると、全発電量に占めるバイオマス発電の割合は2018年で2.2%。このところ少しずつではありますが、毎年増えています。しかし、燃料調達に工夫しなければ、地球環境に悪い影響を及ぼすことも考えられるのです。

全発電量に占めるバイオマス発電の割合

出典:NPO法人環境エネルギー研究所資料から筆者作成

高田泰(政治ジャーナリスト)
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